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リアクション
第2章 借りパン…競争!
どこぞの誰かが企画した、借りパン…競争が始まろうとしていた。
ルールはごくシンプルだ。
スタートから50メートルの位置に、桜パンが吊り下げられている。
高い位置の桜パンには、パンがつくものがかかれたカードが括り付けられており。
低い位置の桜パンには、パンがつくものがかかれたカードが桜パンの中に入っている。
競技参加者はいずれかのパンを口で咥えてゲットし、書かれているパン…を借りて、ゴールしなければならない。
スタート地点に並んだのは、パラ実若葉分校のブラヌ・ラスダー、黒縁眼鏡の少年、蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)、教導団のルカルカ・ルー(るかるか・るー)とシャウラ・エピゼシー(しゃうら・えぴぜしー)の5人だった。
「ブラヌー、パン…の用意は任せろー! いいパン…選べよォ!」
「美羽ちゃーん、頑張って〜」
「ゼーさん、ファイト!」
ブラヌと黒縁眼鏡の少年のことは若葉分校生が、美羽とシャウラはそれぞれ一緒に訪れた高原 瀬蓮(たかはら・せれん)、金元 ななな(かねもと・ななな)が応援してくれていた。
「ダリルも応援くらいしてくれればいいのにー」
靴の紐を結び直しながら、ルカルカはパートナーのダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)をちらりと見る。
彼は声をかけてくれなかったが、こちらを見てくれていた。
「ま、大声で応援とかは柄じゃないしねっ、よおし、食べるわよ……じゃなくて、頑張るわよ♪」
決して桜パンの美味しそうな香りに惹かれたのではないのだ。面白そうだから出るのだ。盛り上げる為にも!
心の中で言い訳をしながら、ルカルカは状況を見極めていく。
まずはブラヌ。契約者ではないようだが、仲間が多いから、早く見つけられそうだ。
ロイヤルガードの美羽と、教導団のシャウラは強敵だ。
「普通に戦うのも良いけど……やっぱり、何が出るのか分からないのも、借り物レースの面白さよね」
「そうだよね」
ルカルカの言葉に、美羽もそう答えて。2人は不敵に頷き合う。
「位置について」
号令が発せられ、参加者はスタートラインに立つ。
「よ〜い、ドン」
パンと、空砲の音が響く。
4人は一斉に走り出し、桜パンへと向かう。
「美羽ちゃん、はやいはやい〜!」
俊足の持ち主にして、脚力強化シューズを履いた美羽はあっという間に桜パンの元にたどり着いた。
低い位置のパンを選ばずにぱくんとくわえて、ぱくぱく食べながらカードを取り出す。
「『王道の白いパン…』、王道のってなんだろ」
瀬蓮のところまで走り、首を傾げながら彼女にカードを見せる。
「白いパン、だよね?」
「うん、普通の白パンのことかな? でも……なんか……違う気も……」
美羽は時々、白百合商会のメンバーらしき男達を見かけていたから。
しばらく、2人はその場で考える。
「あっ、もしかしたら、レオーナが言ってた、あれのことかも!」
瀬蓮がふと思いついた。
「美羽ちゃんは、パン屋で普通の白パン貰ってきて。瀬蓮は、もう一つのパン…を貰ってくるから!」
「え? うんわかった。お願いね、瀬蓮ちゃん」
美羽は優子のパン屋に向う。瀬蓮は近くの友人の店へと飛び込んでいった。
「このパンッ。ルカのスイーツアンテナに反応あり! さあ……何が出るかな」
続いてたどり着いたルカルカも、低い位置の桜パンをかじりながら、わくわくカードを取り出す。
「お、何か普通っぽ……ん?」
普通っぽいパンだと一瞬思ったルカルカだけれど。
「見せてみろ」
ルカルカに近づいてきたのは、ダリルだ。
「ダリルー。やっぱり応援してくれてたのね」
ほっとした表情でカードを見せるルカルカ。
「どうだろうな」
「んもうっ」
性格上、素直には言えないんだろうなと思い、ルカルカは笑みを浮かべた。
「苺柄のパン? いちごパンじゃなく?」
ダリルがカードを見て軽く眉を寄せる。
「そ、そんなもの、作らなきゃないんじゃ……」
「こっちもそのようだぜ」
低い位置の桜パンをゲットしたブラヌが、自分のカードを見せる。
カードには『アレナの縞パン』と書かれていた。
「彼女の洗濯ウオッチングのデータによると、アレナちゃんが今日縞パンを穿いている確率は10%。くっ、頼み込んで新品から作るしかないのかぁぁぁ!」
そんなことを叫びながら、ブラヌは『桜茶屋』の方へ走っていった。
「美少女、美少女はどこだ〜☆」
黒縁眼鏡の少年も、観客の中に走っていく。
「いやーん、難易度高い」
焦りだすルカルカの側で、ダリルは小さく息をついて。
「ルカはパン屋へ行け。俺はパン…屋を当たってみる」
勝手に手分けして探すことにして、ダリルはパン…屋に向かって行った。
「優子さん、イチゴ柄のパンつくれるかしらー」
ルカルカはパン屋に急ぐ。
しかし。
ここで大きな問題が生じた。
「苺、か………………………」
チョコペンで、優子はあんパンに柄を書いてくれようとした。
しかし、勉学、武術そつなくこなす彼女だが、唯一。
絵だけは駄目なのだ……。
というわけで、なんだか分からない絵のかかれたチョコあんパンばかり出来上がり。
「優子さん……これ昆虫にしか見えないから、戴くわね♪」
全てルカルカが美味しくいただくことになった。
脚立を沢山持って、少し遅れて桜パンの下に到着したシャウラは、脚立を複数横に並べて、更にその上に積み上げて、高い位置の桜パンを狙った。
「あった、なななが食べたいって言ってたパン!」
パンプキン、と書かれたパンを見つけると、シャウラはパクンと銜えると、脚立から飛び降りて、シュタッと着地する。
「ゼーさん、やったー!」
飛び下りたシャウラを、なななが迎えてくれた。
「よし、貰いにいこうぜ……ん?」
桜パンを食べていたシャウラだけど、違和感を覚える。
「げっ、このパン…、中に変な物は言ってるぞ!」
「ん? 桜餡だね。美味しそう!」
「美味しそう?」
「うん、餡子を入れるのは、日本では普通みたいだよ」
「へぇ……」
不思議そうに桜餡を見るシャウラ。
「まあ、ピンクは悪くないな。緑とか青でもな。けど、黒い餡子はちょっとな……」
ぱくっともう一度食べてみる。まあ、奇妙な感覚だが、不味くはない。
「それじゃ、貰いに行こうぜ、パンプキンパンならあるだろ!」
「あ、ゼーさんちょっと待って! このカード、折れてるよ」
なななが折れた部分をまっすぐにすると。
『パンツ』という文字が書かれていた。後から書き加えられたかのような、汚い字で。セットを手伝っていたなんとか商会のメンバーが書き加えたのかもしれない。
「パンプキン……パンツ? パンプキンパンツ!?」
シャウラは驚いて、目を見開く。
「そんなこともあろーかと、見て見て!」
なななが下を指差す。
「あ……っ、今日のなななの短パン」
「かぼちゃパンツ、だよ。宇宙刑事なななの極秘事前調査の結果によると、かぼちゃパンツは、パン…まつりに必要なアイテムの一つなんだって〜」
「そ、そっか。でも」
貸してくれというわけにはいかないし、とシャウラが迷っていると。
「一緒にゴール、だね!」
ななながシャウラの手をとった。
「あ、ああ! なななごとゴールだ!」
シャウラはなななの手を引いて、走り出す。
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