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リアクション
「いいパン…あるよー、いいパン…あるよー。ここでしか買えないよー」
優子のパン屋と、桜茶屋から少し離れた位置に、食用のパンではないパン…類を扱うお店が並んでいる。
「いらっしゃ……ああっ、瀬蓮ちゃん、ようこそ」
その一つのパン…屋を営むレオーナが、友人の瀬蓮の元に駆け寄る。
「こんにちはー。さっきはありがとね」
「瀬蓮ちゃんの頼みとあれば、パン…の1つや2つくらい、喜んで提供しちゃうよ!」
というか、瀬蓮が探していた『王道の白いパン…』をリクエストしたは、レオーナ自身なのだけれど。
「あ、百合園の学校指定水着もあるんだねー。でもちょっと変わってる、ね」
瀬蓮が不思議そうな顔で、手伝いに訪れている人達を見る。
「いらっしゃいませ、ヒャッハー」
「ヒャッハー、いいパン…あるよー」
手伝っているのはモヒカンばかり。
メイド服やスクール水着を来た変わったモヒカンが、女性もののパン…を手に売り子をしているのだ。
「瀬蓮ちゃん、こっちこっち」
レオーナは2人に近づいて、持たせている白いパン…、黒いパン…を瀬蓮に見せつつ、きらきらした眼で語りだす。
「白いパン…と、黒いパン…の魅力、瀬蓮ちゃんにも分かるかしら!?」
瀬蓮は白パン…の方が似合うけれど、そろそろ黒パン…にも挑戦してみたらどうかとか。
主催者の神楽崎優子は黒パン…、アレナは白パン…ってイメージだけれど、反対の方が意外性があって面白いかもしれないとか。
熱く熱く語っていく。
瀬蓮はレオーナの気迫に押されて、ただただ頷いて聞いていた。
「白パン…と黒パン…以外にも色々あるけれど、瀬蓮ちゃん気に入ったのある? 特別にタダでサービスしちゃうわ!」
「ええっと、下着を選ぶのってちょっと恥ずかしいよね」
店内を見ながら、恥ずかしげな瀬蓮。
恥じらうその顔がまたキュートで、レオーナの胸をズキュンと撃つ。
「き、気にすることないわ。でも恥ずかしいのなら、お店を閉めた後じっくり選んでくれてもいのよ!」
「ありがとー。んーと、レオーナのお勧めはどれかな?」
「お勧め? お勧めはやっぱり……!」
レオーナは瀬蓮の手を引いて、フリルのついたパン…の元に連れていく。
「これ! 白地に桜模様のレース。桜パン…よ! 可愛いでしょ」
「あ、うん。可愛いー。じゃ、これもらってもいいかな?」
「勿論!」
レオーナは桜パン…を1枚、袋に入れる。
「瀬蓮ちゃん…真の萌えは、パン…そのものにあるのではないわ。実体があるようで無い…パンチラという名のチラリズムにこそ真の萌えがあるのよ!」
「う、うん……。レオーナの言っていること良く分からないけど、なんだか奥が深いんだね!」
「パン…道は奥が深いの。一緒に精進しようね!」
桜パン…を入れた袋を「どうぞ」渡しながら、レオーナは瀬蓮の両手をぎゅっと掴んで、握手を交わした。
「いいパン…ありますよ、如何ですか〜……。ううっ、これでいいのかな。まさかこんなところでパンだけじゃなくパン…を売ることになるなんて」
隣の屋台は、ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)が運営していた。
「パン屋よりパン…屋の方が多いし、繁盛している気も」
不思議な気分で、ミルディアは人々を見ていた。
「あ、パン屋の方は選ぶのにそんなに時間かからないれど、こっちのパン…屋の方は、好みとかサイズとか、観賞目的とか、色々あるしね」
一人納得して、商品を陳列していく。
「こんにちは」
女の子の声が響いた。
訪れたのは百合園の生徒、桜月 舞香(さくらづき・まいか)、桜月 綾乃(さくらづき・あやの)、イングリットの3人だった。
「いらっしゃい。見ていってくださいね」
「パン…屋があるっていうから、来てみたけれど。あちらのお店も、こちらも百合園生が運営してるのね」
舞香は複雑そうな顔をしていた。
「食べられるパン以外のパンをリクエストした人、多かったんだってね。ここのパン…屋さんは、お花屋さんみたい」
綾乃は店内のパン…を楽しそうに見ていく。
並べられているパン…はどれも可愛らしかったから。
「そういえば、こんなパンもあるんですよ」
綾乃はミルディアやイングリットに持ってきたパンを見せる。
それは、魚座の十二星華、エメネアが焼いた非常に固い棒状のパン。
「食べられる武器なんだそうですよ」
武器だが、スープなどでふやかして食べることもできる。
「まあ、なんて実用的なパンなのでしょう!」
「へー、面白いパンだね、ホント固いーっ。ふふ、今回のイベントの事もう少し早くから知ってたら、あたしもこんなパンも用意してきたかも」
イングリットは感動し、ミルディアは触らせてもらって、その感触に笑みを浮かべる。
「でも、ここのパンはお花のように綺麗ですから、桜と同じように見ているだけで嬉しくなるので、それで十分ですよ」
「ありがとー」
綾乃の言葉に、ミルディアはお礼を言う。
「そうですわね、可愛らしく機能的なのもあります。こちらをいただいてもよろしいでしょうか?」
「私はこれ!」
イングリットは、機能的なものを。
綾乃はふわふわ柔らかなパン…を選んだ。
「ありがとうございますー! おまけに、花びらの栞、いれとくね」
ミルディアはパン…と一緒に、おまけを入れてラッピングして。イングリットと綾乃に品物を渡した。
「良い買い物が出来たみたいでよかったわ。ありがとね」
喜んでいる2人と共に、舞香もミルディアに礼を言った。
「それじゃ、また学校で」
「頑張ってくださいね」
「うん、ありがと!」
頭を下げて、ミルディアは3人を見送る。
「百合園の子も沢山来てるんだねー。喜んでもらえてよかった。……でも」
次の客の姿に、ミルディアは内心ため息をつく。
「げへへ、これ可愛い。人形サイズありますかぁ」
「すみません。人形用はないです……」
ちょっと変わったお客さんも多いのだ。
「でも、あっちのお店なら取り扱ってるかもしれませんよ!」
それでも明るく、ミルディアは対応する。
争うことも、儲ける事も目的じゃなくて。
訪れた皆に花見やイベント、買い物を楽しんでほしいから。
「桜月の実家では名前にちなんで、春の満月の夜にお花見をしていました」
桜を見ながら、綾乃が懐かしそうに言う。
「夜桜と月を楽しむんです」
空を見て、月を探す。今日は満月のはずだ。
「夜桜やお月様、見れるかな?」
「人が少なくなったら、いい場所とろうね」
舞香が綾乃に言うと、綾乃は嬉しそうに微笑んで頷いた。
「それにしても……お花見に来て格闘技なんて、イングリットらしいわ」
「舞香さんだって、イベントの際には、いつも戦ってらしてるイメージですわ」
「それは……世の中に不埒な男が存在してるからよ!」
くすっと笑い合いながら、舞香、イングリット、綾乃は店を巡る。
「あ、そうそう。これリクエストして優子お姉様に作ってもらったパンなの、よかったらどうぞ」
舞香は、袋に入ったパンをイングリットに差し出した。
「ありがとうございます。わたくしは何もリクエストしていなくて……。あら? どこか少し変わったパンですね」
「米粉パンよ。もちもちしているでしょ」
「……はい、普通のパンよりしっとりしていますわ」
一口食べたイングリットの顔に、微笑が浮かぶ。
「それにしても……こちら方面は食べられないパンが多いのね。先ほどのお店は可愛くてよかったけれど」
舞香は、ミルディアの店から近い位置にある、なんか違った方向に可愛いお店に目を留めていた。
「このお店は女の子向けのお洋服がいっぱいだね。水着とか肌着とか下着とか……」
綾乃が大きなテントの店を見ながら言う。
「でも、ちょっと入りにくいよね」
それは、呼び込みをしているのが男性だったから。
「なんだか……おかしいわ。2人はここで待ってて。
すみませーん、あたしに似合う服あるかしら〜」
2人を残して、舞香は呼び込みの男性に声をかけて、中へと入っていく。
ドン
「この試着室……カメラが仕掛けられてるのね!?」
バキン
「お仕置きよ!」
ガシャン
「桜色に腫れあがるまで、蹴りまくってあげるわ!!」
ベシッ
ドスン
テントの中から、大きな音が響き、ボコボコ動いたり、男性の悲鳴が聞こえたりして。
「テロリスト!? わたくしもバリツで加勢を!」
「行かなくて大丈夫。まいちゃん、すぐ帰ってくるから」
加勢に行こうとするイングリットを止めて、綾乃がテントの側で待っていると。
「ただいま」
足についた汚れを振り払いながら、舞香が戻ってきた。
「何があったんですか?」
心配そうに言うイングリットに。
「なんでもないわ。桜に汚い毛虫がたかってたから、消毒しておいたのよ」
にこやかな笑顔で、舞香はそう答えた。
「さ、美味しいパンのある方に行こっ」
綾乃が、舞香とイングリットの手を引っ張る。
「そうね。花見をしながら美味しいパンを沢山いただきましょう」
「ええ」
爽やかな笑顔を浮かべて、3人は普通の飲食の屋台が立ち並ぶ方へと歩いて行った。
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