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うそつきはどろぼうのはじまり。

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うそつきはどろぼうのはじまり。
うそつきはどろぼうのはじまり。 うそつきはどろぼうのはじまり。

リアクション



8


 ハロウィンやエイプリルフールなど、特別な日は人形工房に行ってみようかな、という気分になる。
 他にも誰かが来ているだろうし、みんなでわいわい楽しめると思って。
(みんな嘘ついたりするかな)
 工房への道すがら、東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)は考える。騙されないぞと気合を入れたが、内心自信がなかった。ついでにいえば、面白い嘘をつくことに関しても自信はない。周りの人を傷つけない、かつ面白い嘘。そんな嘘がつけるとしたら、今日という日はもっと楽しそうだけど。
(嘘、嘘……)
「うーん」
 何かいい嘘はないだろうか。とはいえ普段から嘘をつくわけでもないし、そう簡単に思い浮かぶはずもない。
 考えに考え、結局キルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)へと目を向けた。キルティスはリンスによく似ている。そんな偶然を使わないほか、ない。
 工房に到着し、ドアをノックするとクロエが顔を出した。
「あきひこおねぇちゃん。こんにちは」
「こんにちは、クロエちゃん」
 出迎えてくれたクロエに笑顔で挨拶をして、工房に足を踏み入れる。来訪者に気付いたリンスが顔を上げ、軽く手を振った。手を振り返してから、秋日子はしゃがみこんだ。クロエと目線を合わせる。真剣な顔をすると、クロエはきょとんとした顔で秋日子を見返した。
「ねえ、クロエちゃん」
「なぁに?」
「キルティとリンスくんって、本当は生き別れの兄弟らしいよ」
「えっ!?」
 素直なクロエは、こんな嘘にも騙される。ばっと振り返りリンスを見、それから今度はキルティスに視線を向ける。
「ほっ、ほんとう?」
 クロエが問うても、キルティスは何も言わずににこにこと笑っているだけだ。さあリンスはどう出るだろうか。この嘘に乗ってくれたら面白いけれど。
「ねぇリンス。ほんとうなの?」
「うん。本当」
(乗った!)
 リンスでも嘘をつくのか、からかったりすることがあるのか。新鮮な気持ちでやり取りを見守る。
「だから、すごくにてるのね」
「そうだよ。それで区別をつけるためにフェリーノは女装をするようになったんだ」
「ファミリーネームがちがうのは?」
 これにはどう答えるだろう。無難というかベタというか、ありきたりなところでは両親が離婚したから、とかだろうか。どこまで嘘が重ねられるか見ものだ。
「ああそれは、……それは……どうしよう?」
 と思っていたら、あっさり終了した。どうしよう、と視線を向けられたキルティスが、苦笑を浮かべている。
「えっ? あれ? うそなの? うそなのね!」
「ごめんねクロエちゃん。嘘でした。すぐバレると思ったんだけど」
「リンスさん、乗ってくれましたもんねー。でも限界来るの早すぎです」
「じゃ、なんて言えば良かったの」
「両親の離婚でよかったじゃないですかー。リンスさんってばもー嘘が下手なんだから! でもそれでこそリンスさんですよね!」
「どういう意味」
「そのままです。そのままのあなたでいてくださいね、あはっ」
 すぐにバレてしまった嘘でも楽しめたからよしとしよう。
 クロエには少し申し訳なかったけれど、会話の最後には笑っていてくれたから大丈夫だろう。


 一息ついて、お茶を飲みながら。
「そういえばさ、私キルティのこと何も知らないよね」
 テーブル、向かいに座るキルティスへと問いかけた。キルティスは飄々と「そうですか?」と言って微笑む。
「隠し事はしない主義ですし、結構筒抜けだと思うんですけど」
「どこが。最近まで性別すら知らなかったよ? それに隠し事はしない主義って言葉、なんか怪しすぎ」
 加えて今日はエイプリルフールだ。どこまで嘘かわからない。
「エイプリルフールだからといって嘘をつくつもりはないですよ」
 思考を読んだようなタイミングで、キルティスは言う。だから、それだって真偽のほどはわからないのだ。
「要はキルティの性別知ってたんだよね? 幼馴染なんだっけ?」
 ため息を吐いて、会話の向きを隣に座る要・ハーヴェンス(かなめ・はーう゛ぇんす)へと変える。静かに紅茶を飲んでいた要は、はい、と微笑んで頷いた。不意に、あれ? と思った。
「ってことは、キルティっていま何歳なの?」
「年齢は見ればわかるじゃないですか」
 思考をそのまま口に出すと、即座にキルティスが返す。見た限り、二十歳に満たないお嬢さんだが。
「さ」
「わーわー!? 要さん何言おうとしてるんですか! やめてくださいよ!」
 要は、『さ』と言いかけた。
 『さ』。
 さあ、とお茶を濁そうとしたのか、あるいは。
(要は今月末で三十一歳……さんじゅういち……)
 さらには、キルティスの取り乱し具合。疑念は強くなる一方だ。
「失礼、取り乱しました」
 こほんと咳払いをし、キルティスは平静を装って、笑う。あからさまに隠されているじゃないか。何が、『隠し事はしない主義』だ。やっぱり嘘じゃないか。
 だけど。
「……まあいっか」
 椅子の背もたれに身体を預け、天井を見ながら呟いた。
「え?」
「キルティって会ったときからこんな感じだし、今更本当の年なんてどうてもいいや」
「どうでもって。もうちょっと言い方あるんじゃないですかー」
「わざとわざと」
「秋日子さんひどい」
 だって、本当だもの。
 キルティスがいくつであろうと、付き合い方が変わるわけでもないし。
「うん、やっぱり、どうでもいいね」
「だから繰り返さないでくださいよー。悲しくなるでしょ!」