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第3章 シャンバラ宮殿のレストラン

 夕方近くになってから。
「お昼遅くなっちゃったねー。今なら空いてるかな」
「そうだね、予約しなくても大丈夫かも」
 ロイヤルガードの小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、パートナーのコハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)と一緒に少し遅めの昼食をとることにした。
 2人は今日は、仕事で警備についていたのだ。
 ロッカールームで制服を脱いで、カジュアルな服に着替えてから合流して。
 たまには宮殿の高層階にある高級レストランで食事にしようかと話し合って。
 エレベータに向かって歩いていた。
「シャンバラ宮殿って、仕事で来る事が多いから、あまり展望台とかレストランって入ったことないんだよね」
「要人の会食の護衛とかで入ったことはあるかな」
「そうだね」
 笑い合って、エレベーターのボタンを押して、2人は目当てのレストランへと昇っていった。

「あれ? どうしたの、こんな所で……」
 レストランの階で、美羽は知り合いの姿を見つけた。
「ええっと、下見……?」
 ばつが悪そうに苦笑しながら答えたのは、皇 彼方(はなぶさ・かなた)だった。
「下見?」
「テティスの誕生日に、どこかのレストランで食事でも……って思って。色々見て回ってるんだ」
 彼方が恥ずかしげに小さな声で言った。
「そっか。ふふ」
 美羽はなんだか嬉しくなって笑みを浮かべた。
「彼方はもう昼食とったよね? スイーツだけでも一緒にどう? 私達、これからお昼にするところだったんだ」
「あ、うん。どこも1人じゃ入り辛くて、困ってたんだ」
「実際に料理を食べてみて、美味しいかどうか、彼女に喜んでもらえるかどうか確認したいしね」
 コハクがそう言うと、彼方はこくっと首を縦に振った。
「それじゃ、今日は一緒にあの店に入ってみよう!」
 美羽は、コハクと決めていた高級レストランを指差した。

「イルミンスール産子羊のグリル、バルサミコソースでございます」
「おお……」
 野菜たっぷりの料理を見て、彼方が小さく声を上げた。
「美味そうというより、料理一つ一つが芸術ってかんじだよな」
 彼方が見守る中、美羽とコハクは料理を口に運んでいく。
「わー……お肉、柔らかくて、とってもジューシー」
「うん、なんの野菜だかよくわからないのもあるけれど、一緒に食べるととっても美味しい」
「多分シェフに説明聞いても、さっぱり分からないんだろうなぁ。ははは」
 彼方が食べているスイーツも、プリンみたいに柔らかいが、黄色くなくて、生クリームみたいに白いが、どろどろしてなくて。
 スイーツの上に置いてある葉っぱは食べられるのかどうか分からないし。
 なんだかよく知らない果実かなにかのソース添えとかで、ちょんちょんとさらに置いてある果物も知らないものばかりで。一体何を食べているのかさっぱりだ。
(皿に広がっているソースはスプーンで掬って飲むものなんだろうか)
 彼方は密かにそんな疑問を持っていたが口には出さない。
「デザートは、ケーキにしょうかな。彼方が食べてるパンナコッタも美味しそうだけど……」
 メイン料理を食べ終えた美羽は、デザートのメニューをコハクと見る。
「あ、私はこれにしよう! 美味しそう」
 美羽が選んだのは、生チョコムースだ。
 チョコレートやアーモンド、ラズベリーが乗っていて、とても美味しそうだった。
「僕は……これにしようかな」
 コハクが選んだのは、イチゴのショートケーキだった。
 ミルフィーユのように何層にもなっており、生クリームの層の上にイチゴソースの層があり、その上にイチゴとホワイトチョコレートが乗っている。
「彼方も背伸びしない方がいいよ。お店を決めたらちゃんと勉強しないとね。でも、注文するときには、素直に美味しそうなものを選べばいいんじゃないかな?」
 美羽がそう言うと、彼方は苦笑しながら首を縦に振った。
「ランチだと、そう値も張らないし、誕生日に限らずこうしてたまに来てみたらどう?」
 コハクが彼方にそう言い、美羽と顔をあわせて淡く微笑み合う。
「う、うん。そうだな。特別じゃなくても、こうして仲間同士来るのもいいよな」
 彼方の言葉に、美羽とコハクは笑顔で頷いた。

 仕事を頑張ったご褒美に。
 仲間同士でこうして、落ち着いた雰囲気の中、美味しいものを食べる日常。
 それは、とっても幸せなこと……。