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第7章 そっくりさん

「お昼の時間になっちゃいましたね……」
 ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)はどうしようかなと、辺りを見回す。
 ミーナは今日、1人で空京に訪れていた。
 何か食べて帰ろうかな?
 でも、あの店は1人じゃちょっと入りにくいかな。
「ん?」
 お店を見ながら考えていたミーナは、ショーウィンドーに張り付いている女の子に目を留めた。
 大きな麦わら帽子をかぶり、ローブのようなゆったりとした服を纏っているその少女は――。
「ええっと、イルミンスールの校長さん?」
 近づいて、ミーナがそう声をかけると、少女はぴくっと反応して、恐る恐るというように、ミーナを見た。
「……なんですかぁ? 私はイルミンスールの校長なんかじゃありませんよぉ。お買いものに来た、普通の女の子ですぅ」
 喋り方と言い、その少女はエリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)に間違いはなかった。
「もしかして、お忍びでお買いものですか?」
「欲しいモノが……違いますぅ。私は普通の女の子ですぅ。エリザベートのような美少女じゃありません〜」
 言って、エリザベートは帽子を深くかぶって、顔を隠そうとする。
「ふふ、では、エリザベートさんのそっくりさん! 今日は浮き輪を見に来たのですか? ミーナは夏に向けての水着のリサーチです」
「そ、そうですかぁ。今年の新作可愛いですぅ」
「うん、ミーナにも、そっくりさんにも似合いそうな水着あるよね。迷っちゃいます。あと、そっくりさんが見てた、このイルカの浮き輪。とっても可愛いです〜」
「これは、私が買うんですぅ。真似しないでください〜」
「わかりました。ミーナはほかのにしますね。あと」
 ミーナは手に持っていたパンフレットをエリザベートに見せた。
「ジューンブライドで体験結婚式をしているとこのパフレットをもらいにきたのです。素敵な衣装ばかりです」
 パンフレットには、数々の豪華なドレスや、装飾品が載っていた。
「綺麗ですね」
「それじゃ、あっちのテラスで一緒にお茶しながら、見ましょう〜」
 ミーナは、そのパンフレットと、水着や海遊び用品の載ったパンフレットを手に、エリザベートをベーカリーショップのオープンテラスに誘った。
「そうですねぇ。普通の女の子はこういうところでお茶するものですしね〜。ちょっとだけならいいですぅ」
 そう言って、エリザベートはミーナについて行く。
「このお店は焼きたてのパンがおいしいのです」
「サンドイッチも美味しそうですぅ」
 ミーナは『焼きたて』と書かれたパン2個と、アップルジュースを選び。
 エリザベートはサンドイッチとオレンジジュースを選んだ。
「ふわふわでもっちもちなんですよ〜」
 まだ温かいパンを、ミーナは半分に割った。
「一口どうですか?」
「貰いますぅ〜」
「はい、どうぞ」
 ミーナは小さくパンをちぎると、エリザベートへ渡した。
「あったかいです。やわらかいけど、もちっとします」
「でしょ? お勧めなのです。お土産にするより、食べていった方が断然美味しいです」
「そうですねぇ〜。イルミ……家で、作らせ……作ってもらうですぅ」
「パン屋さんのパンはなかなか家庭では作れないのだけれど……。イルミンスールの学生さんたちなら、出来るかな」
「優秀な生徒が多いですからねぇ。校長が超優秀ですしぃ」
「そうですね」
 くすくすミーナは笑う。
「あ、このドレス、エリ……そっくりさんに似合うかもです」
「ミーナの方が似合いそうですぅ」
「そうかな? 子供っぽすぎないかな……。一緒に試着してみたいですね」
 ミーナがそう言うと、エリザベートはこくんと頷いた。
 だけれど今日は、お互いそう長居はできないから。
 パンを食べ終えるとすぐ、ミーナは立ち上がった。
「ミーナそろそろ帰ります。お家でパートナーの子が待っているのです。おやつも買って帰らなきゃ。
 そっくりさんも、そろそろ帰らないとお友達が心配しますしね」
「そーですねぇ」
 残念そうに言うエリザベートに、ミーナは水着のパンフレットをプレゼントした。
「家でゆっくり見て、決めてくださいね」
「はい。夏が楽しみですぅ」
「それじゃ。さようならです。また機会があればご一緒したいです」
 そうミーナが言うと。
「海かプールで見せ合いっこできるといいですね〜」
 エリザベートからは、そんな言葉が帰ってきた。
 2人は手を振ってお別れをして。
 友達やパートナーの元に、戻っていた。