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リアクション
「タコーーーっ!?」
「湖にタコ!? 海の生き物だよね!? 淡水にいたっけ!?」
同時に叫んで、ぽかーんと口を開けてしまう朝斗と要。
「いや、ここは最強の魔術師の1人と言われたハディーブが生み出したと言われる魔法湖だ。エメラルド色のイルカや魚たちがいるように、エメラルド色をした巨大生物、湖タコ(コタコ)がいてもおかしくはない」
バァルだけが生真面目に推論を展開する。
「……バァル、そういう問題?」
「ルシェン、アイビス。あのタコさん、怒っているように見えませんか?」
崖の上でおずおずとエンヘドゥがつぶやいた。
「ルシェン、なんだか私、とてもいやな予感がします……」
アイビスもエンヘドゥに同意する。
「私もよ。
とりあえず悠美香さん、エンヘドゥを連れて安全な所まで退避してください」
「分かったわ。エンヘドゥさん、こちらへ」
「はい」
エンヘドゥの手をとり、悠美香は崖から離れる。ルシェンは崖下の朝斗たちに向かって叫んだ。
「とにかく2人とも、早く上がってきて!」
「分かった!」
アイビスがワイヤーを投げ下ろしてくる。それを受け取った朝斗が急ぎバァルに巻きつけようとしたときだった。
「うわっ!!」
驚声を発してバァルが一瞬で水に沈んだ。というより、引きずり込まれた。
「バァルさん!!」
目を瞠る朝斗の前、水中に隠れていたタコの足が浮上する。先端にはバァルの姿があり、両腕を巻き込まれ、吊り下げられていた。
「バァル!!」
「バァルさーーん!!」
驚き、口々に名を呼ぶ彼らの頭上で、バァルは痛みに顔をゆがめつつ、どうにかして腕を抜こうともがいている。しびれた手から、(驚くことにまだ握りしめていた)イイダコの串がぽろりと落ちた。
「待って、バァル! 今助けるからね!」
「くそっ。だれかわたしの剣を――」
「違う違う、バァル! そうじゃない!!」
バァルがタコに吊られている光景を前に、切が駄目出しをした。
「そこは「らめえぇぇぇぇぇええ!! そお゛ぉぉおんにゃ太くておっきいぃのぉぉ入れられたら、おにゃかからぁぁあぁんこが出ひゃううぅぅぅぅう!!」もしくは「その触手でわたしにあーんなことやこーんなことをするつもりなのね!! エロ同人のように!!」だ!!」
――まだ正気にかえってなかったらしい。
みんながあっけにとられ、しーーーんとなった。なか。
「……エロ同人とは何だ? 切」
東カナンには年2回夏と冬に開催される例の大祭のようなものはないのだろう。バァルだけ、言っている意味が分からないと首を傾げている。
そのとき。
湖タコはなぜかパッと触手を解いてバァルを解放すると、その触手でもって今度は切をぶん殴った。
「らめえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええ!! あんこ出ちゃうううぅぅぅぅぅぅぅうううううーーーーっ!!」
タコパンチをまともに腹に受けて、切は叫びながらボールのようにカッ飛んで行く。その言葉からして正気を取り戻した感じはなく、彼が元の彼に戻るのはまだまださらに先のようだ。
「バァル、大丈夫?」
「無事ですか? けがは?」
機巧龍翼で追いかけ、捕まえて、落水を阻止した要と朝斗が訊く。
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
3人の前、切を殴ったタコの触手はゆっくりと崖から湖水のなかに戻って行った。丸まった先端には、皿に乗っていた数本のタコ串が器用に握られている。
「そうか、あのせいで……」
仲間(?)のにおいを嗅ぎつけて救出――に来たんだか、それとも単においしそうなにおいにつられたのか――した湖タコは、満足したのか再び湖へと沈んでいった。
「……えーと。
私たち、切さんを探しに行くべきでしょうか?」
アイビスの質問に、ルシェンはそっけなく肩をすくめただけだった。
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