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リアクション
プロローグ 数日前のヒラニプラ
2022年8月11日。ヒラニプラにある病院で、機晶姫イディア・S・ラドレクトが誕生したこの日からそろそろ1年が経過する。出産の現場に立ち会った――前後を含めたその時期の事を、彼女は良く覚えている。
つい、先日のことであったような気もする。だが、この1年の間に過ごした日々を思い返すと、確かに月日は過ぎていったのだということを実感する。
時が経つのは早く、それでいて緩やかだ。
そんな事を思いながら、メティス・ボルト(めてぃす・ぼると)はファーシー・ラドレクト(ふぁーしー・らどれくと)に電話を掛けた。
『メティスさん? どうしたの?』
7回目でコール音が途切れると、息せき切った感じのファーシーの声が聞こえてきた。電話をどこかに置きっ放しにしていたのかもしれない。
「ファーシーさん、11日、イディアちゃんの誕生日ですよね。お祝いをしましょう」
『お祝い? あ、それならね、空京でする予定なの。ラスがちょうど退院するから、迎えに行ってから皆でどこかでやろうかなって。どこでやるかは決めてないんだけどね』
「決めてない……?」
それを聞いて、メティスは数度瞬きした。何だか、当日に場当たり的に決めそうな雰囲気だ。けれど、皆、というからにはアクアやピノ――ラスを迎えに行くのなら当然ピノも一緒だろう――も来るだろうし、友人達も多く訪れるだろう。ボックス席の1つや2つでは到底足りそうにない。店に予約をしなければいけないだろう。
(あ……)
そう考え、彼女は思いついた。
「それなら、私の方で心当たりがあるので……会場を用意しておきます。一応確認して、場所が確定したらもう一度お電話しますね」
『本当? ありがとう!』
嬉しそうに言うファーシーとの通話を切り、空京にある冒険屋ギルドの事務所に連絡する。今日はレン・オズワルド(れん・おずわるど)とノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)がいる筈だ。そして、電話口に出たのはノアの方だった。ギルド側の電話がスピーカー状態になったことを確認し、カフェを予約したいと言ってその理由を説明するとノアは弾けるような声を出した。
『イディアちゃんの誕生パーティーですかっ!? やりましょうやりましょうやりたいです! えーと、11日は予定は……入ってないですね、やりましょう!』
「良かった。じゃあお願いします。ファーシーさんの力になってあげてください。当日は、私もモーナさんと一緒に行きますから。久しぶりに空京に戻ります」
「……え゛?」
後方から驚きの声が聞こえたがすぐには振り返らずに会話を続ける。ファーシーにも電話を掛け直して“モーナと一緒に”行く事を伝えるとそこでやっと筐体を置く。
「メティス、今の話……」
「はい。楽しみですよね、イディアちゃんの誕生日」
作業中の手を止めて、「あたしも行くの?」という問いを顔一面で表しているモーナ・グラフトンに微笑みかける。問いへの答えは1つしかなく、それは充分に伝わったらしい。とんでもない、という表情でモーナは言った。
「だって、だって、11日って……納品日だよ!? って、まあ大体納品日だけど……空京に行ってたら間に合わないよ!」
「大丈夫です。2人で協力すれば終わりますよ。私も精一杯お手伝いします。10日までに全て完了させてしまいましょう」
有無を言わさぬ笑顔で、メティスは作業を再開する。去年のクリスマスにモーナの弟子となった彼女は、機晶工房に住み込むようになっていた。一時期は余裕が出来てきたと感じる時期もあったが、今はまた結構忙しい。
「モーナさん」
「んー?」
「私がお世話になるようになってから、仕事増やしました?」
「……………………。キノセイダトオモウヨ。ソレハ」
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