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リアクション
【3】
「自分で言うのもどうかと思うけど、私けっこう普通だと思うんだけど……」
称号に【普通の】を貰うほどには普通な人生を送っている東雲 秋日子(しののめ・あきひこ)は変態認定に戸惑っていた。
彼女の変態属性はAIによれば『パートナーが変態です』とのこと。
「私関係ないじゃん!」
本当である。
「って言うか、真尋ちゃんは変態じゃないよ。真尋ちゃん、AIに“自分は変態じゃない”ってちゃんとガツンと言ってやって!」
「まったくですわ。アホなこと言わねぇでください。ウチのどこが変態なんどすか」
奈月 真尋(なつき・まひろ)は言った。
「ウチは別に変態じゃねぇですよ。確かに、二次元で見る殿方の絡みなんかは最高!! とか思ってっけんど、そなもん二次元だけやし。三次元の男なんぞ興味もねぇです!」
「ま、真尋ちゃん!?」
「三次元ならおなごですよ。おなご!! おなご同士の絡みなら二次元でも三次元でも最高です……百合はいい。美しい」
大好きなものを語ると自然とみんな良い顔に。彼女もとてもいい顔をしている。
「さあ、これでわがったでしょう? ウチが変態やねぇっつーことが!!」
チャーラッチャラー♪
『おめでとうございます。レアリティがアップしました』
目の前に画面が開いて、AIがニッコリと微笑む。
真尋のレアリティが【コモン→アンコモン】になった!
「……あら? 秋日子さん、なじょしてそげななんとも言えない表情を?」
「……うーん、真尋ちゃんの主張聞いてたら自信なくなってきちゃった。真尋ちゃんって“変態”っていうか、どっちかっていうと……“変”だよね……あれ? ということは、真尋ちゃんと契約してる私も……変……?」
はっとして、
「ああ、いやいやいや! だから、真尋ちゃんが変態だろうと変だろうとそうでなかろうと私自身には関係ないはずなんだってば。だって、私は変態じゃないもん! 真尋ちゃんみたいな特殊な趣味はもってないし、真尋ちゃんみたいに妙なしゃべり方しないし! ……ま、まあ成人してこの肩だし&ミニの着物姿ってどうなのって気もするけど、この世界においては普通の範疇でしょ!? そう、普通! 私は普通なんだよ! 可もなく不可もない、普通オブ普通! 決していい意味ではつかわれない、普通!!」
ーー自分で言ってて悲しくなってきた……。
肩を落としつつ出口は何処だろ? ととぼとぼと空京を模したヴァーチャル世界の繁華街を歩く。
町には同じようにテキトーに選別されて囚われてしまった普通の人たちがたくさんいるようだ。
しかしその中に、ひと際異彩を放つ全身鋼鉄メタルボディのずんぐりむっくりした生き物……らしき者が闊歩していた。
ブルタ・バルチャ(ぶるた・ばるちゃ)である。
変態かどうかはともかく、少なくともフツウじゃないオーラは出まくっている彼だが、ここに連れて来られたのは不服らしい。
「変態? ボクは変態じゃないよ?」
まわりをくるくると飛ぶAIの画面に文句を言っている。
「まぁ女性の中には男は本質的に皆、変態という意見もあるから見方によっては変態という括りの中に入るかもしれないけどね。
けどそんなことを言いだしたら、かの十字架教の開祖だって究極のマゾだと思うし、ムチで打たれながら恍惚とした表情を浮かべていたんじゃないかなってなっちゃうよ。まぁ偉大な人物ってのはどこかしら頭のネジが外れてるもんだけど。
しかしその点で言えば、ボクはいたってノーマルさ。某ムカデ人間やセルビアン・フィルムを見ながらご飯三杯はいけると豪語して、毎朝のニュースを見ながら笑いのツボが分からないと言われた事はあるけどね……」
ピロリロリン♪
「あのね、困るよ。勝手にポイント付けないでくれるかな」
『変態値加算に該当する事案でしたので』
「大体ね、AIくん。変態変態って言うけど、これは奥の深い言葉だよ。ちゃんとその奥深さをわかって使ってるのかい? 綺麗な女の子から小さく耳元で囁く様に言われるのと電車の中で大声で言われるのとでは全く違うんだよ、変態という言葉はさ」
ピロリロリン♪
「……ふん、まぁいいけど。と言うか、そもそも何の案件でボクをここに連れて来たのさ? 品行方正なこのボクをさ」
『ブルタ様は同人誌マニアの変態として登録されております』
同人誌、その単語に二次元好きの真尋はピクッと反応した。
「ああ、最近描いたあれのことかな? アイリスの薄い本やウゲンとドージェの兄弟愛を描いたヤツはパラ実生に人気のようだけどね」
「へぇ。兄弟愛。良さそうな感じね」
「読んでみるかい?」
秋日子が話しかけると、ブルタは気を良くして本を出してきた。
どれどれと渡された本を開く秋日子だが、ブルタの説明は言葉足らずだった。兄弟愛の前に“禁断の”が付く内容だった。
ドゴォ! ドゴォ!
それはまるで大地に大穴を空けるパイルバンカーのような凄まじさだった!
『六極の気を股間に集め、お前を打つ!!』
『ああ! 僕の蟻の巣を兄さんのアトラスのようなアレが突き壊して、光条世界への扉が開かれつつあるよ!!』
『ぬおおおおおおっ!! 敵の急所を強打する……これが真の黒縄地獄!!』
「ホモじゃん!!」
「え? ホモだけど?」
「秋日子さんはそういうのダメなんで。でも、こっちのアイリス・ブルーエアリアルさんの薄い本はなかなか悪くねぇでっせ」
真尋はニタニタと残念な笑みを浮かべながらページをめくる。
荒野に点在するパラ実の廃墟のひとつ。
拘束され、ところどころ衣服が破れたアイリスを筋骨逞しいパラ実の野郎共が取り囲んでいる。
『ひっひっひ、最強の龍騎士様もこうなっちまうと、ただのきれいなおねーちゃんよのぅ』
『は、放せ! 僕をどうするつもりだ!』
『どうするって……なぁ、たっぷり俺様たちの龍玉に“龍玉の癒し”を施してもらうに決まってんだろ』
『パラ実式の組体操を教え込んでやるぜぇ! ひゃっはー!!』
『や、やめろー!』
うーん、ヒドイ。けど、最後まで読みたい。
「他にも『女教師ラズィーヤ・ヴァイシャリー二十七歳(副題は放課後の熟肉祭)』っていう官能小説もどきもあるよ。そう言えば、作品とよんでいいのかわからないけど、種もみの塔は巨大な男性器の象徴って都市伝説を広めたりしたっけなぁ。
最近は百合園のソフィア・アントニヌスを題材としたものを製作中なんだ。姉妹にしか見えない母親のオルカとの親子愛がテーマの作品でね、傑作の予感がぷんぷんしてるんだ」
「それは完成が楽しみどすなぁ。こりゃ冬はブルタさんのブースにも行かへんと」
珍しく女子にちやほやされて得意気なブルタと、良作家に巡り会えてふんすーふんすーと鼻息荒くする真尋。
そして、ひき気味の秋日子。
「い、意気投合してる……!」
『おめでとうございます。以下の変態事案が確認され、変態値が加算されました』
ブルタ、エロ同人を女子に見せた。レアリティ【コモン→レア】。
真尋、エロ同人を絶賛した。レアリティ【アンコモン→レア】。
「上がっちゃったよ、真尋ちゃん!!」
秋日子、ホモ同人に興奮した。レアリティ【コモン→アンコモン】。
「興奮してないし!!」
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