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リアクション
【6】
変コレ世界に囚われてしまったセリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)【コモン】の胸に去来する思いと言うのは、わけのわからない世界に放り込まれた戸惑いでもなく、変態認定されてしまったことに対する憤りでもなく、やっぱりな……という諦めにも似た思いだった。
「何というか、やっぱりというか……変なパートナーが多いといつかこういう事件に巻き込まれる気がしてたんだよな……」
セリスのパートナーは揃いも揃ってアクの強い奴らばっかりだった。
「オウッ! なんてこった! 変コレが大ピンチだ! コレは、きっとボクに敵対する愛のない者の仕業だね!」
白のスーツに白のハットで決めた、困難に悶える男はマイキー・ウォーリー(まいきー・うぉーりー)【アンコモン】。
どことなく地球のポップスターを彷彿とさせる風貌の彼は、さっきからムーンウォークで道を行ったり来たりして忙しない上に、オウッ! とかポウッ! とかマジでうるさい。
「フフフ……、変態コレクションとかいうのが巷で人気を博しているので少しやってみたが面白い結果ではないか……これも世界の支配者である我が招き寄せた結果であろう……」
招き猫そっくりのこちらの御仁はマネキ・ング(まねき・んぐ)【アンコモン】。
おそらく何もわかってない癖に、わかってる感を醸し出すことに関しては上手い。でも、絶対何もわかってないので頭痛い。
「ヌハハハハッ! 面倒なことに巻き込まれてしまったようだな!」
こっちの無駄に暑苦しい男はマスク・ザ・ニンジャ(ますくざ・にんじゃ)【アンコモン】。
名前の通り、マスクを被った忍者である。ドイツ軍の軍服を着た自称アーリアン(日本人)忍法の遣い手の改造人間だそうだ。
「これは悪の組織の秘密工作に違いない! そしておそらくAIには私の改造プランが隠されているに違いない! ここは正義の改造人間である私の出番のようだな!」
何をどう考えたらそこに行き着くのか不明だが、ニンジャはなんかすごくやる気でウザい。
そんな癖が強すぎるパートナーを持つセリスに、認定された変態称号は『変態コレクター』。
「集めてるわけじゃないんだが……否定できないのが正直なところだ………」
路上の縁石に腰を下ろし、ため息生産機となったセリスに3人は元気に声をかける。
「何を1人で落ち込んでいる。どうやらここのAIは調子が少しおかしいようだぞ」
「……だろうと思ってる」
マネキの言葉にセリスはまたため息。
「よくある変態性というのは逆に希少性を損なう……ふむ……これは調整の必要がありと見た……。ここは我が、正しい矯正をしなくてはならないな……ここのAIに『アワビ』の素晴らしさを教え込まねばな」
「アワビ?」
それは違うんじゃないかなぁ……とでも言いたそうに、マイキーはちっちっちと人指し指を振った。
「ここは、愛の戦士であるボクの出番だ。AIには『愛』を伝えないと、AIゆえに、まさに『愛』だね!」
すると今度は、ニンジャが何をバカなことを、とやかましく笑う。
「笑止! 我が改造プランを所持しているAIの解除キーは『肉体改造』に決まっておろう!」
こいつはそもそも間違えている。
「……って言うか、お前らの主張は矯正じゃなくて露骨な自己願望だろ!」
コハク・ソーロッド(こはく・そーろっど)は落ち着きなく空京を模した町を歩いていた。
実際の空京と同じように町にはたくさんの人がいるが、その多くは変態などではなく無理矢理変ムス化されてしまった普通の人だ。
1人1人、確かめながらコハクはあてどもなく彷徨っている。
ーーどこにいるんだ、美羽……。
コハクが探しているのは、パートナーで恋人でもある小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)。
正確に言えば、ここに囚われてしまった彼女の意識だ。
コハクは今、眠ったきり目を覚まさなくなった美羽の隣りから、パソコンを通じて変コレの世界にログインしている。
ーー酷い目にあってなければいいけど……。
こんな変態ばかりのいる場所だ。とても心配だった。
まわりにいる人たちは普通の人ばかりだけど、ここにもホラ、よく見てみればヘンテコな奴も混じっている。
「このダンボールはベトナムでベトコン相手に戦ったときからの相棒なのであります」
ダンボール箱の台の上、何やらアツく演説しているのは葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)。
なんだか庶民派アピールがウザい政治家みたいな出で立ちだが、話している内容はもっとずっと庶民的だった。
愛用の歴戦のダンボールを掲げて言う。
「自分が手に入れる前は『蛇』の名を持つ英雄が使っていたという逸話があるであります」
……うん、明らかに嘘なのが気になるが、彼女はダンボールへの愛を説いているようだ。
とは言え、皆、ダンボールの話をされても「お、おう……」としか言いようがないので遠巻きに見ているだけだけど。
吹雪はそんなことはおかまい無しにだんだんとその演説に熱が入ってきた。
「諸君、私はダンボールが好きだ」
もう一度言う。
「諸君、私はダンボールが好きだ」
何度でも言う。
「諸君、私はダンボールが好きだ。
この世界に存在するありとあらゆるダンボールが大好きだ。
八百屋の店先に並ぶ野菜のダンボールが好きだ。宅配便がダンボールで荷物を届けに来た時など心躍る。
引っ越し業者が持ってくるダンボールが好きだ。細々した雑貨がダンボールに収められる様は胸がすくような気持ちだ。
資源ごみの日に道端に置かれるダンボールが好きだ。こんなにもダンボールが使われたのかと思うと感動すら覚える。
市役所や警察と揉めるのが好きだ。必死に作った公園のお家が市役所に蹂躙され撤去されてゆく様はとても悲しいものだ。
諸君、私はダンボールに埋め尽くされる世界を望んでいる。
諸君、私の話に耳を傾ける諸君は何を望んでいる?」
「ダンボール! ダンボール! ダンボール!」
10分前まで「お、おう……」だった普通の人たちが、右手を上に突き上げて叫び出した。
……って、洗脳されてる!
「よろしい、ならばダンボールだ!」
もはや何を言ってるのかわからないが、吹雪のレアリティが【コモン→レア】に上がった!
そんなダンボール集会の向かい側、こちらにも大きな声を出している人間がいる。
「自分は忠実な軍人であります! 変態ではありません!」
シャンバラ教導団兵長の大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)だ。
ここに連れて来られたことが納得いかないらしく、AIに抗議をしている。
「そもそも何を持って、自分を変態と認識したのでありますか!」
『大熊様の経歴を調べたところ、幾つか変態事案に該当するものが確認されました』
空間に画面が開き、どこからかAIが引っぱってきた丈二の情報が映し出された。
それによれば、契約者の教導団団員は士官候補生から始められるところを、丈二はあえての兵卒でスタートしたと書いてある。
二等兵に始まり、一等兵→上等兵→兵長と順調に昇進しているようだが……よくよく考えてみるとこれ、少尉→中尉→大尉→少佐と昇進した人と回数だけなら無駄にためを張っている。
その上、シナリオ「【歪な侵略者】鏡の国の戦争(第3回/全3回)」の個別コメントでは少尉への昇進打診もあったのに、兵長昇進を選択しているというのだ。
オマケに、登録時クラス「ソルジャー」がカウンターストップ(LV40)するまで転職していないことも確認されている。
どんだけ兵卒にこだわってるの、この子。
「自分は一兵士として誇りを持っているだけであります。決して変態などではありません」
『それにしても、やりすぎ感が出てると思うのですが』
「何を言うのでありますか、AI殿。兵卒は戦場では消耗品であります。消耗を前提に作戦を組み込まれる立場でありながら、他のことに欲を出しても無意味であります。兵卒はただ自分を死地に向かわせる士官の命令を期待して待っていればよいのであります」
誇りを持ってそう言うと、チャーラッチャラー♪ とSEが鳴った。
「む? なんでありますか?」
『おめでとうございます。ただいまの発言により変態値が大幅に加算されました』
丈二のレアリティが【コモン→レア】に……と思ったら次の瞬間【レア→コモン】に戻った。
「自分は一兵士であります。分不相応の地位など欲しくはありません」
ふんぬっ! と丈二は上昇するレアリティを無理矢理押さえ込んだのだ。
コモンにしてコモンにあらず、コモンでありながらレア級の力を有する【スーパーコモン】の誕生である。
「そういうことするから、変態扱いされるのに……」
そう言ったのは、彼の連れのヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)だ。
「丈二が連れて来られた理由はわかったけど……むしろヒルダがなんで変態認定されているのかを教えてほしいわ」
『ヒルダ様は“顔が覚えにくい”という事案で変態登録されております』
「ちょっと待ってよ!」
そう、ヒルダは登録されてから随分と経つのにイラストはまだ初期状態のNO IMAGEのままだ。
「違うのよ。これには理由があるの。丈二と同じ絵師さんに頼もうと思ったら、人気絵師で発注枠が取れなくて……そうこうしてる間に絵師さん休業しちゃったのよ。ああもう、いっそ梅村マスターにでもイラストお願いしようかしら!」
チャーラッチャラー♪
『おめでとうございます。以下の変態事案により、変態値が大幅に加算されました』
「え? え?」
ヒルダ、梅村マスターに絵を書いてもらおうとした。
レアリティ【コモン→アンコモン】。
筆者にイラストを発注しようとはなんとも奇特な人である。きっと変態に違いない。
「なんでよー!」
「……美羽?」
雑踏の中を歩いていたコハクは見覚えのある後ろ姿を見つけた。
二つ括りにした緑の髪、小柄な体つき、格闘技に通じる人特有の姿勢の良さ、着ているものも彼女の好きそうなミニチャイナだ。
駆け寄って声をかける。振り返ったその顔は間違いなく美羽だった。
良かった、と胸を撫で下ろし「心配したんだよ」と声をかけたものの、彼女は不思議そうに見返してくる。
「どうしたの? 早く帰ろうよ?」
「帰る? 何言ってるの、コハク。私は帰らないよ。だって……ここの変ムスなんだもんっ!」
ハイキック一閃!
蹴り飛ばされたコハクは道端のゴミ箱に頭から突っ込んだ。
美羽の意識は変コレに支配されてしまっていた。
彼女は跳躍して傍にあった建物の屋根に上がると、ミニチャイナの裾をはためかせ、パンツ丸見えで不敵に笑った。
「み、美羽……!?」
コハクにはすぐいつもの彼女じゃないとわかった。
何故なら彼女は絶対にパンチラなんてしないからだ。
普段から超ミニのスカートを履いている美羽だが、あくまでもそれは脚線美を見せるため、決してパンツを見せたいがためではないので、いつも絶妙に隠している。
けれどそれがAIに超ミニのスカートを履いている=パンツ見せたがりと変態認定されてしまったのだ。
「ふっふっふ、皆私のパンチラの前にひれ伏すがいいわ!」
美羽は天宝陵は万勇拳が誇る拳法の使い手。
人ごみのまっただ中に飛び込むなり、ちらちらとパンツを裾から覗かせながら、奥義『パンチラ無影脚』!
影すら残さない早業の蹴りだが、しっかりパンチラは見せ付けて、そこにいた普通の人たちをまとめて吹き飛ばした。
これには男性陣、逃げるのを忘れてパンチラを食い入るように見つめた。
中には携帯を取り出してぱしゃぱしゃと写メる人も。
「見るなぁ! 撮るなぁ!」
コハクは泣きながら、パンツを見せまいと美羽のまわりをぴょんぴょん飛び回った。
しかしそんな彼氏のことなど知らん顔。
「へぇそんなに見たいんだ。じゃあ見せてあげよっか」
目立ちたがり屋の性分で、気持ちよくなった彼女は演武を始めた。ハイキックのたびに覗くパンツに拍手喝采が巻き起こる。
美羽のレアリティ【コモン→アンコモン】にレベルアップ!
「む……パンチラですと!?」
正直、ダンボールよりパンチラである。
洗脳に成功したと思った人たちもパンチラ騒ぎが起こった途端「え? パンチラ?」とあっさり我に返ってそっちに行ってしまった。
ダンボールの威信を取り戻さねば、と吹雪は歴戦のダンボールを武器に美羽に挑む。
「パンチラよりダンボール! ダンボールの偉大さを見せ付けてやるであります!」
「ダンボール? なんだか知らないけど、私より目立つなんて許さないんだからね!」
美羽は闘気を爆発させた。
全身から放たれる気の勢いで裾がめくれ、パンチラ……と言うか、常時全開のパンモロ状態に!
おおお! と歓声が上がり、鼻血がぴゅーぴゅーと虹のように空に弧を描いた。
「万勇拳最大奥義『壊人拳』……あらため『パンモロ壊人拳』!!」
闘気一点集中による最大破壊。
しかし、吹雪は拳を平らに畳んだダンボールで受け止めた。
「う、嘘!?」
「ダンボールの衝撃吸収力は世界一でありますぅ! そして梱包力も!!」
素早くダンボールを箱にして、頭の上からすっぽり被せる。そしてぐるぐると回す。
「うわわっわわっ……」
10回転ほどさせると、金曜夜のパパさんの如くふにゃふにゃでおぼつかない足取りになった。
「た、立ってられないよぉ!」
「危ないっ!」
彼氏らしく助けようとするコハクだが、ここぞというところでドジをするのが彼らしいというか……。
盛大にすっころんで逆に美羽を押し倒す形になってしまった。
顔面を地面に強打するかと思いきや……ふかっと柔らかい温もりに包まれた。
「……ん?」
目を開けるとそこにあったのは真っ白なパンツ。ちょうど美羽のお股に顔を挟まれるようにおさまっていた。
「え、ええと……これは……」
「何してるの、コハク……」
はっとして顔を上げると、ダンボールを剥ぎ取った美羽が真っ赤になって見ていた。
「なんで私こんなところに……? なんでパンツ丸出しなの? わけわかんないよー!」
「……美羽、もしかして正気に……」
「コハクが何かしたんでしょ!」
「え? ち、違……!」
言い訳するよりも速く、美羽のパンチが顔面に飛んで来た。
「コハクのエッチ!!」
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