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激闘!?『変態コレクション(変コレ)』!

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激闘!?『変態コレクション(変コレ)』!

リアクション


【4】


 遠野 歌菜(とおの・かな)は絶賛憤慨中である。
 夫の月崎 羽純(つきざき・はすみ)と2人っきりでいるところ、いきなり変コレ世界に連れて来られたのだから怒りたくなる気持ちもわかる。
 しかし、何より彼女が怒っていたのは連れて来られた理由である。
 AIは『ラブラブ夫婦だから』だから変態と言ってのけるのだ。
「なんなの! ラブラブ夫婦は変態なの!? 訳が分からないよ!」
「うーむ……変態扱いは確かに困ったもんだが……実際問題、歌菜への気持ちは……変態扱いされても仕方ないのかな……」
「羽純くんも納得しないの!」
 怒っている理由はまだある。
 現役の魔法少女アイドルとして活動中の歌菜。アイドルが変態というのはどうにも覚えが悪いし、何より変態設定をウリにしてると思われるのは、なんだか売れなくてキャラが迷走してしまった崖っぷちアイドルみたいで嫌だ。
「魔法少女アイドルとして、由々しき事態です!」
『そう言われましても、規定にそって選出したので間違いなく変態です』
 目の前にAIの画面が現れた。
「変態じゃないもん!」
『いいえ、規定通り変態です』
「規定規定ってなんなの! お役所仕事なの!?」
 歌菜はAIに掴み掛かろうとするが、するっと突き抜けてしまった。
 あくまでここにいるのは実体のない分身。本体は別なところ……変コレ世界の中枢に存在している。
 ぎゃあぎゃあ騒いでいるとそこに変ムスたちが集まってきた。似た者同士惹かれ合うように、変態と変態は惹かれ合……。
「私たちは違うから!」
 集まってきたのは揃いも揃って悪そうな奴ら。
 うひひひ、と狂気の表情の殺人鬼に全身ボンテージのドM野郎、パンティーを頭装備にしている下着マニアにセーラー服おじさん。
 そうそうたる変ムスたちが集まってきた。
「へへへっ、AIと遊ぶ前に俺らと遊んでもらおうじゃねぇか!」
 歌菜と羽純は武器をとった。
「魔法少女アイドルは、皆に夢と愛と希望を振りまく存在! 何より、羽純くんへのこの気持ちは、断じて変態なんかじゃないもんッ! 変態なんかに負けていられませんッ!」
 そう言ったその時、歌菜はぴーんと閃いた。
「もしかしたらこれはいい機会かも……」
「どういうことだ?」
「私と羽純くんの……愛の力?」と自分で言ってはにかむ「で、敵変ムスを完膚なきまでに叩きのめせば、愛は変態に勝つ! って証明できるかも」
「ほう?」
「つまりは変態力を超えるものは、愛……!」
 歌菜はアルティメットフォームで変身する!
「この世に愛を振りまく魔法少女アイドル! マジカル☆カナ!」
「……愛云々は照れくさいが、このままここに囚われているわけにもいかない。突破してAIを矯正する」
「愛の力見せてあげます!」
 歌菜は歌う。エクスプレス・ザ・ワールドによって具現化された無数の槍が降り注ぐ。
 続けて、ハーモニックレイン。歌の魔力が町をビリビリと震撼させ、変ムス達の足を止める。
 その隙に自らも紅焔と月光の槍と大空と深海の槍、二槍の槍を豪快にぐるぐると回し乱撃を繰り出す。
 背中にピタリと寄り添うのは羽純。歌菜の背中を狙う殺人鬼の「ひゃっはぁ!」と繰り出される肉切り包丁を行動予測で躱し、剣の舞で斬り倒す。
「羽純くん!」
「おう!」
 トドメの薔薇一閃。舞う薔薇のような連携攻撃がドM野郎を吹き飛ばす。
「これが愛の強さよ!」
 一瞬の攻防。もくもくと舞う砂埃が次第に晴れていく……すると、信じられない光景が広がっていた。
 散々攻撃を叩き込んだはずの変ムス達が無傷で突っ立ているではないか。
 コキコキと首を鳴らし、何かした? とでも言いたげにこっちを見ている。
「ど、どういうことなの……?」
「か、歌菜! これを見ろ!」
 2人の横に表示されるパラメーターにはレアリティ【コモン】の表示。
 対する変ムス達は少なくとも【アンコモン】、強力な奴には【レア】の表示がされている。
 ここは変態度だけがモノを言う世界。現実ならさっきの一瞬で叩き伏せていただろう2人の連携攻撃も、変ムス達には春に吹くそよ風の如く、ただ頬をくすぐる程度の攻撃でしかなかったのだ。
 愛では変態に勝てない!
「こうなったら、こっちも愛ある変態プレイをして変態レアリティを上げるしか……」
 カッチャカッチャとベルトを外そうとする羽純に、歌菜は一撃。
「どわっ!」
「毒されてるよ、羽純くん!」
「ぱんちゅ……」
「!?」
 下着マニアがのそのそとゾンビのように腕を突き出して向かってきた。
「ぱんちゅちょーだい、ぱんちゅぅ〜」
「こ、こんなヒドイ奴にも勝てないのか……!」
「こんな世界オカシイよー!」
 ぱんちゅぱんちゅの下着マニアから逃げるのは情けなくって許せなかったが、こんな奴にパンツを奪われるのはもっと許せない。
 泣かされる前に一目散に逃げ出した。

「現実世界からやってきたのはいいがこれがゲームの世界って奴か」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は物珍しそうに空京そっくりな町並みを見回していた。
 突如、この世界に引きずり込まれた彼だが、特別動揺する様子もなかった。
 とそこに歌菜と羽純が走ってきた。
「ま、また変態……!?」
「人の顔見て変態ってどういう了見だ」
「あ、ごめんなさい。普通の人だ良かった……」
「安心している場合じゃないぞ、奴が来る……! あんたも早く逃げたほうがいい。ここじゃ俺たちの世界の常識は通用しないようだ」
「ほう、そんな強い奴がいるのか、ここには?」
「ああ。なんか色々とおかしい……」
 走り去る2人を見送り、ラルクはそのまま残った。
 強い奴がいるならちょうどいい。わけもわからず引きずり込まれたこの世界も、強敵と戦えるなら楽しめそうだ。
「どうせなら変体力……ってのが高い奴と戦いたいがな。やっぱ強い奴と拳を交わらせなけりゃ熱くなれねぇ」
 しばらくすると2人を追っていた変ムスたちが来て、今度はラルクを囲んだ。
 しかし何も臆せず、彼はこう言う。
「一番強い奴が出てこいっ!」
「ほう……少しは骨のある奴のようね」
 その意気に答え、セーラー服おじさんが一歩前に出た。
 名が体を表すようにセーラー服を着たおじさんである。脂ぎった長髪を三つ編みにして、毛で覆われた生脚をこれでもかと見せ付けてくる。
 ラルクはううむと唸った。どう見ても弱そうだからだ。
「おっさん、見逃してやるから行きな」
「くくく……それはあたしを甘く見すぎじゃないかね?」
「!?」
 おじさんの三つ編みが鞭のようにしなり、ラルクを激しく打った。
 凄まじい衝撃にガードが弾かれ、遥か後方に吹き飛ばされた。巨大なモンスターの一撃を受けたかのような威力だった。おじさんなのに。
「これが変態力が高い奴の一撃か……!」
「如何にも。おじさんのレアリティは【レア】。そこらの変態とは格が違う」
「へへっそうかい。なら相手にとって不足はねぇ! 見せてやる、これが拳聖の姿だ!!」
 ラルクは闘気を爆発させた。衝撃で纏っていた衣服が一瞬にしてビリビリに吹き飛ぶ。
 無論のことパンツも、いやパンツじゃなくてフンドシ派かもしれないが何分一瞬で吹っ飛んだので詳細はご容赦頂きたい。
 ただ、下着に拘束されていた半紙サイズはあろうかという巨根があらわになった。
「や、やだぁ! 変態!」
 これにはおじさん、乙女の心で思わず目を背ける。
「あ? 変態だって? それがどうした! 強くなる為には何かを犠牲にしなきゃならねぇんだよ! それが変態だって言うのであれば俺は変態を受け入れる!」
 その意気やよし!
 チャーラッチャラー♪
 ラルクのレアリティが【コモン→レア】に上がった!
 ラルクはまず小手調べの雷霆の拳。おじさんのガードを弾き、続け様に回し蹴りを叩き込む。
 しかしおじさんもレアの端くれ、攻撃をいなしては豪快にパンチラも大サービスで連続蹴り。これには色んな意味で目が眩む。
 だが、歴戦の雄であるラルクにおじさんのパンチラ(白と水色の縞パン)による精神的動揺は皆無。
 ぶらんぶらん象の鼻のように巨根をひるがえし、蹴りを紙一重で躱す。
 ーー強いやつと戦えるなんてな……。戦いや修行や鍛錬が好きな俺にとってはすごく幸せな事だ。
 この対戦相手を前に真摯にそう思えるラルクはスゴいと思う。
「はっ! 思わず興奮してきちまったぜ! 興奮しすぎて股間が膨張してきたが、ほら、スポーツにもよくある生理現象だから仕方ねぇ!」
「何が仕方ないのよ……ぶげらっ!!」
「む?」
 意図せぬ一撃で吹っ飛んだおじさんを見て、ラルクは目をぱちくりさせた。
 これまでの経験から一度に打てる攻撃の数を把握している彼だが、今日は攻撃がいつもより多目にヒットしていることに気付いた。
「ははぁこいつの仕業か!」
 なんと、膨張した股間の棍棒が動作に合わせてフルスイングしてるのだ。
「こりゃいいや! 俺と俺の連携攻撃だ!」
「ひっ!?」
 怯んだおじさん目がけて、拳と蹴り、そしてちんこから七曜拳を放つ!
 その物理的威力と精神的破壊力は人智を超えた!
 トドメはシャイニングウィザード。本来はジャンプして膝を相手の顔面に叩き付ける技だが、今回はスペシャルバージョン、膝の代わりにちんこがセーラー服おじさんの顔面をぶっ飛ばした!!
 チャーラッチャラー♪
『おめでとうございます。ただいまの行為により、変態値が大幅に加算されました』
 ラルク、ちんこを武器化。レアリティ【レア→スーパーレア】!
「おっと……歯が刺さってら」
 ちんこにめり込んだおじさんの歯をぴしっと弾いて、ラルクは人ちん一体の構えをとった。
 まだまだ悪そうな変ムスはまわりを囲んでいる。
 今日は楽しい日になりそうだ。

「殺人鬼なんて……医者として、人の命を奪うのは許せません」
 変コレには殺人鬼が平然と闊歩していると聞き、九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)はガガーンとショックを受けた。
 彼女は医者、命を救う側の人間として、命を奪うことを楽しみにするような人間は見過ごせない。
 名前とメアドを入力して登録を済ませ、変コレにログイン。
 この瞬間、普段の温厚な医者の彼女から、もう1人の内に秘めた凶暴なもう1人の彼女に変わった。
 空京を模した町に到着するなり、闘気を解放し、超感覚で獅子の耳と尻尾を生やした戦闘民族モードに。
殺人鬼は……どこだぁぁぁ!!!
 ソリッドステート・スカウターにピピピと反応。ラルクと彼を囲む変ムスを確認。
「目標は殺人鬼……殺人鬼には目には目を、ダーティ・ディーズ・ダーン・ダート・チープ(いとも容易く行われるえげつない行為)をだ!」
 武器は使わない、神速と行動予測による高速の格闘がこうなった彼女の戦闘スタイル。
 行く手を遮るM男と下着マニアを素手による一撃で仕留める!
 スピードも然ることながら、特筆すべきはその一撃。その一撃で2人は沈んだ。いや、正確には沈んだのはマニアだけでM男は喜びに悶えていた。
 ただ、アンコモンクラスの敵を一撃で、だ。
 ローズのレアリティはいきなり【アンコモン】だった。
 普段は創世学園の医学部教諭、プッツンするとただの戦闘民族。まぁこれを変態事案としないでなんとするという話である。
 とは言え、対する殺人鬼のレアリティは【レア】、向こうも向こうで一筋縄で倒せない。
「ひひひひ、なんだぁねーちゃん。この俺に切り刻んでほしいのかぁ?」
 肉切り包丁を振り上げて襲いかかる殺人鬼。
 右から左から凄まじい速さで繰り出される攻撃に、ローズはザックリと肩に一撃をもらってしまった。
 ズザザザザーっと地面をこすり押しやられる彼女だが、けれどその顔には苦痛は浮かんでいなかった。
 浮かんでいるのは、むしろ喜び。
「血ッ! 興奮せずにはいられないッ!」
「な、なんだぁこいつ……!」
 殺人鬼は更にローズを切り刻む。
 しかし、刻まれれば刻まれるほど、ローズは喜び悶える……Mっ気もあるようだ。
 ピロリロリン♪
「瀕死になればなるほどアツくなるってもんだぜぇぇ!!」
「はぁはぁ……な、なんだとぉ……?」
 疲弊した殺人鬼に高速の突きのラッシュ!
「アリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリアリ……ッ!!」
 バッと離れ、人差し指を突き出す。ローズの人差し指は超感覚の影響で、メキメキと現在進行系で異様に長く伸び続けている。
 見開いた彼女の目には見える。医学で培った人体構造から……敵の急所が!
アリヴェデルチ!(さよならだ)
 ドグシュッ!
 喉元に一撃!!
 缶にボールペンを突き立てた時のように勢いよく鮮血が吹き上がった。
 これが決定打となって殺人鬼は崩れ落ちた。
「貧弱貧弱ぅ! ……おっと殺しちゃあ不味い。これからがお楽しみ……ダーティ・ディーズ・ダーン・ダート・チープ!」
 ローズは積まれたM男とパンツの上に座り、爪切りを殺人鬼の前に差し出した。
「この爪切りで私の爪を切れ、綺麗にだ」
 げほげほっと血を吐きながら、殺人鬼は爪切りとローズを交互に見た。
「え? なんで?」
「ダサい爪切りだと……野郎!!」
 ドゲシッ!
「ほげぇ!」
 靴の先で殺人鬼を蹴り上げる。
「ん、んなこと言ってねーだろ!」
「ごちゃごちゃよく喋る奴だな……。いいかよく聞け、私が聞きたいのは切るのか切らないのか、それだけだ。言っておくが、殺人鬼を潰すことに私の良心はちっとも疼かない。三数える前に決めろ。ウーノ(1)! ドゥーエ(2)!」
「わ、わかりましたよ……」
 しょうがなく殺人鬼はぱちんぱちんと爪を切り始めた。
「ンッン〜♪ 深爪なんてしたら承知しないからな、白いところも少し残すんだ。ちゃんとやすりもかけるんだぞ」
 切った爪は、前々から自分の爪を保管している爪瓶に入れる。
 瓶の中にビッシリと詰まった爪をうっとりと眺めた。
「……美しい。レロレロレロレロ」
 ここまでの猟奇的な変態行為により、ローズのレアリティアップ!
 レアリティ【アンコモン→レア】に!