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冬空のルミナス

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冬空のルミナス

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●ほわわん

 小鳥遊美羽の視線から外れたカーネリアン・パークス……彼女のその後を追いかけよう。
 繁華街が途切れ、あとは神社に続く一本道になったことを確認すると、カーネリアンは周囲をうかがって足元に桃色の粒を置いた。待ち針の頭くらいの大きさだ。一粒だけである。
「これに水分を与える……か。水分……」
 しばらく考えるが、常に携行品の少ない彼女には、ペットボトル飲料の持ち合わせすらなかった。
 近場に自販機は見あたらず、水道もなさそうだ。
「……仕方がない」
 カーネリアンは粒を取って口に含むと再び地面に置いた。
「ホワワワワ〜」
 変な声を上げて突然、粒が巨大化し半径一メートルほどのゴム怪物となった。
「リアジュウどうこうは言わないのか……?」
「ホワワワワワ〜♪」
 ふるっ、ふると怪物は身を揺らした。ちょっと、プリンっぽい。
 しかしゴム怪物の様子には興味がなくなったのか、カーネリアンは顎をしゃくった。
「そのリアジュウとやらがたくさんいるところに案内しろ。そこでお前の仲間を解き放つ。そういう約束だ」
 カーネリアンのポケットには小瓶が入っている。
 瓶には、ぎっしりと桃色の粒が詰まっていた。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 さて、時間の紐をよりなおし、ふたたび場面を空京神社敷地内に戻す。
 藤崎 凛(ふじさき・りん)シェリル・アルメスト(しぇりる・あるめすと)を連れて初詣に訪れていた。二人とも晴れ着、凜の振り袖は鮮やかな紅地で、シェリルの着物は目の覚めるような青色が基調、揃って白いファーの襟巻きをしていた。写真撮影したらそのまま絵葉書にできそうなほど、二人ともよく似合っている。
 二人は神社から出た。参詣は終わったので、道々、初売りの店などのぞいたりする。さすが観光地だけあって土産屋には事欠かない。そればかりではなく、ここぞとばかりに張り切るブティックや雑貨屋、屋台など、年始にしてなかなかの賑わいである。
「まあ、可愛いですわ」
 売り物の服を見て凜は目を細めた。チャイナドレスだ。
「リンにはあの色のものが似合いそうだね」
「今度一緒に着てみません? チャイナドレス」
「いや……私は……ちょっと」
「そんなことないでしょうに」
 いくらか残念そうな顔をした凜だが、すぐにくるっと表情を変えて、
「あそこに福袋を売っていますわ……ペットショップ?」
 と小走りに向かいの店に行く。
「ゼニガメの福袋だって……そんなものまで福袋にするんだ」
 袋を開けたら小さなカメがわさわさ出てくるところを想像して、シェリルは微妙な顔をするのだった。その思考を破るように、
「ピンクの……まあ、可愛い!」
 凜が急に声を上げた。
「ピンクのインコでもいたか?」 
「違いますわ。シェリル、見て」
 凜が示した方向には、黒髪の少女が歩いていた。あの後ろ姿には見覚えがあった。
「カーネリアン・パークスさん、ですわよね?」
 そのカーネリアンは凜たちに気がついておらず、ただ、
「……しまった。まだこんなところを通らなければならないとは……おい、先に行くな」
 そんなことを言っているようだ。
 カーネリアンの眼前には、ちょっと奇妙なペット(?)の姿があった。桃色のアメーバ状生物で、生ゴムみたいなつるんとした外見をしている。カーネはできるだけ目立たないよう歩きたがっている様子だが、どうもこの桃色はあまり彼女の言葉を聞く気がないらしい。
「ちょっと気になりますわ。ねえシェリル、追いかけてみましょう」
 言うが早いか凜はくるりと方向転換して、出てきたばかりの神社の方角へ小走りする。
「気になる? あれが? それに可愛いか……? たしかにピンク色だけど、平べったいゴムみたいな怪物じゃないか」
「可愛いですの! リアジュー、とか鳴いてません?」
「知らないよ。なんかの魔法生物かもしれないぞ」
 シェリルとしては気が進まないのだが、まさかのことがあっては困るので凜に続いた。