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冬空のルミナス

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冬空のルミナス

リアクション


●らばーず! らばーず! らばーず!

 そうだ、と独言してローラ・ブラウアヒメルは、右手首を返して腕時計に目を向けた。
「合流しなくちゃね。南たちと」
 それに今日は柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)からも、一緒に行こうという連絡をもらっている。
 ローラが最初に見つけたのは桂輔のほうだった。
「ローラ、こっちこっち!」
 フライトジャケットに整備科のパンツというのが、彼の本日の装いだ。普段着とあまりかわらないが、やはり普段着(丈短めの制服姿)のローラと並べば、なんともお似合いに見えもする。
 彼女と合流してすぐに、桂輔はローラの周囲を見回した。
「あれ? 同行の人は?」
「まあ、いろいろあったよ……」
 寝坊したことやグラキエスとのことをローラは包み隠さず話した。
 ――そっか、さっきまで背の高い赤毛の兄ちゃんといたのか……でも今はいない、と。
 桂輔はなんだか安堵していた。
 以前のこともあって彼はローラが、グラキエスのことを意識しているのを知っている。だから、
 ――まさかローラ、あの赤毛のこと……好きなのかなぁ……。
 という不安が、ないでもなかった。
 今だって、ローラがグラキエスのことを話すとき、なんだかそわそわと落ち着かず、それでいて幸せそうな表情を浮かべていたのを桂輔は目のあたりにしていた。
 グラキエスは抜群に背が高くてハンサムだから、モデル体型のローラと並んでも見劣りしないだろう。それに引き替え自分は――だがすぐに桂輔は、その考えを打ち消した。
 怯んだり、引け目に感じる必要なんてない。
 ローラに一番釣りあうのは自分だ。そう思うことにする。
 今日この日、二人きりになれたのもなにかの導きに違いない。
「よし、ローラ、参拝に行こう! まずは手水舎で手を洗っていかないか?」
「ここで洗うね? 水、冷たくない?」
「ちょっとは冷たいかもだけど、お祈りの前はこうやって清めるのがいいんだよ」
 さあ、とひしゃくで桂輔がローラの手に水をかけると、
「ひゃ! 冷たいね!」
 なんて言って彼女は身をすくませるのである。でも、きゃっきゃと楽しそうに笑っている。その様子は……可愛い。
 そのまま本殿の列にならんで、お賽銭を投じ桂輔が願ったのもローラとのことだ。
 それは、
 ――今年こそローラと恋人になれますように!
 というもの。
 彼は一心不乱に祈りった。祈りまくっておいた。神様、もし願いが叶ったら賽銭ははずむよ――なんて思ったりもして。
 本殿から離れようとして、桂輔は行く手、人混みのなかに小山内南らの姿を認めた。
 まずい。元々ローラが一緒に行く予定の人たちだ。
 せっかくのローラとの二人っきりが、デートみたいなひとときが、このままでは終わってしまう……!
 即座に脳をフル回転! 頭のアクセルを踏み込み桂輔は一計を案じた。
「ローラ、ローラちょっと……」
 南たちから彼女の視線をそらすべく、桂輔は唐突に下がってローラの袖を引いたのである。
「実はこれからお守りをもらいに行こうと思うんだけど……どのお守りをもらうか迷っててさ、ローラに選んでもらいたいんだ」
「お守り? いいよ」
 企みは成功。ローラは南たちに気づかず、桂輔に同行して社務所へ歩き出していた。
 しばしお守り談義に花を咲かせ、桂輔はうち一つをローラに手渡した。
「はい、これローラの分。お守りは人にもらうほうが御利益があるんだぜ」
「わあ! ありがとね! 桂輔の分は?」
「さっきも言ったように、ローラに選んでもらうのがいいかな」
「はい、これね」
 ローラは一秒も迷わず、『安産』と書かれたお守りを選んだ。
「いやそれ安産のお守りだから! 男には関係ないから!」
「『案ずるより産むがやすし』、日本のことわざね」
 満面の笑みのローラだ。完全に勘違いしている。
「いや、そうじゃなくて……」
 と、ここで桂輔は固まってしまった。
「なんだ、アレ?」
 おかしなものを目にしたからだ。
 ピンクのゴム怪物である。それも、複数。
 あちこちで悲鳴が聞こえる。どうもこのぷよぷよよしたものが騒動を巻き起こしているらしい。
「ゴム怪物? そういや昔そんなのがいたって話を……って、こっち来る!? ローラ!」
 距離が近すぎて避けられない。とっさに桂輔は、身を挺してローラをかばった。覆い被さるようにしてゴムの攻撃を防いだ……つもりだったが。
 不思議と痛みはなかった。変に絡みつかれる感触があっただけだ。つきたての餅のような柔らかいものに。
 絡みつく……? そう、桂輔とローラは布団にくるまれるようにして、びろーんと伸びたゴム怪物に抱き込まれていたのだ。
「ローラ大丈夫か?……って、なんでそんな恥ずかしそうな顔をしてんのさ!?」
「服! 服!」
「服って……?」
 桂輔はすぐに、ゴム怪物にくるまれた自分の服が、すっかり透過されてしまっていることに気がついた。
 ゴムにくるまれているのは自分だけではない。
 つまり、ローラも……!?
「み、見ちゃだめ! 桂輔、見ちゃだめね!」
 服を着ていてもよくわかるのが、ローラのボディーのダイナミックさだった。
 出るところはでて、締まるところは締まっている……ように着衣の上からでも容易に想像できた。 
 いま、ローラは胸回り、そして腰の周囲をピンクのゴムに絡め取られてしまっている。
 そしてゴムは透過能力を発動させた。くるんだ相手の接触した部分だけを透過するというなんとも都合のいい能力だ。
「見ちゃだめー!」
「見てないっ! 見てないよローラ!」
 ぎゅっと目をつぶって桂輔は首を振った。この状況をどうにかすることよりまず、見てないことを強調する。でも本当は……。 
 ――ほんの一瞬だけ、見ちゃったけど。
 ほどなくして彼はここから脱しローラも救ったが、鮮明に焼きついた記憶は瞼の裏から離れなかった。
 着衣のローラから桂輔が想像していたものをはるかに上回る。あまりに完璧で、神々しいほどに魅力的なその裸身が。
 果たして今夜、桂輔は眠れるであろうか。