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リアクション
●らばーず! らばーず! らばーず!(3)
「――!」
カーネリアン・パークスは突然頭上を振り仰いだ。
そして斜め上方から飛んできたものを受け止める。
パシッ、と音が立った。それは一枚の小さな板きれだ。
ただの板ではないようだ。手鏡のような形状、しかし手鏡よりは大きく、片面には和風の筆タッチで描かれた桜井静香の絵が載せられていた。
「変わり羽子板、っていうんです。それ」
と言ってカーネの前に立ったのは富永 佐那(とみなが・さな)だ。
「カーネさん、あけましておめでとうございます」
「佐那か」
「あいさつ、交わしませんか?」
「……そうか。ああ、おめでとう、だな」
カーネリアンは仏頂面のまま、形式的に挨拶を返していた。前会ったときもそうだったが、なぜかカーネは佐那のペースに乗せられがちである。
どうにもすっきりしないカーネの祝賀に構わず、佐那はにこりと微笑んでなにか取り出した。やはり、変わり羽子板だった。コリマ・ユカギールの絵が描かれている。
「私と羽根つきしませんか?」
「……」
怪訝な目でカーネリアンは佐那を見る。この騒ぎが見えないのか、とでも言っているようだ。
なんともケイオティックな状況だった。賑わう神社が突然、ゴム怪物飛びかう奇天烈空間と化したのだ。悲鳴がほうぼうで聞こえるが、なんだか嬉しそうな声も混じっているような……そればかりか一部、盛り上がっているところもあったりする。
「あのヘンテコリンな生物、ここまで連れてきたら、やることはもうあまりないのでしょう?」
図星なのだがカーネリアンは、意固地になったように首を縦に振らない。
「少しお付き合い下さいな♪ あれ〜、夏やったビーチサッカーのリヴェンジ、しなくていいのですか〜?」
カーネリアンの返答を待たず、佐那はさっそく、羽子板で羽根を打ち上げた。
いや、それは通常、羽子板で使う羽根ではなかった。
「羽根の代わりにこれを突きましょう♪」
なんと佐那、手近なゴム怪物をむんずとつかむと、これをぽーんと打ったのだった。
「ニゲルナリアジュウ−!」
このゴム怪物はカップルを追いかけていた最中だった。だからなにやら怒っている様子だ。
「ちっ……!」
カーネはこれを見てもまるで動じず、機械のように正確に打ち返した。
「リアジュウ〜!?」
「お、乗ってきましたねっ。それっ」
「リアジュウセイバ〜ツ〜!? ココハドコー??」
「くだらん」
ムスッとしているカーネだがこれが地顔、案外軽やかに打ち返してくる。
「羽根突きはミスした人の顔に墨で落書きをするものですが、変則ルールです」
佐那は打つ。打ち返されたらまた打ち返す。
「お互いの着衣に幾つゴム怪物を羽子板で打って、どれだけ叩きつけたかで競い合うとしましょう。30分1本勝負です!」
などと言う佐那だが、これに対しカーネは強烈なレシーブで対抗した。受け損ね、佐那の服にぺしゃっとゴムが着いてしまう。はたき落としたが脇の部分が透けてしまった。佐那の白い素肌がさらされる。
「おや、やりますね」
「さっさと終わらせる」
ちょっとだけ、カーネの口調に得意げなものが見えるような。
「ではこちらも本気を出しましょう。カーネさん、そちらの羽子板の絵、実はシールになっていましてね。剥がすと本当の絵が出てきます。どうぞやってみてください」
「これか?」
何気なくカーネリアンは応じて、
「な……!」
さすがに動じたか電気でも流されたように硬直し、二の句をつげなくなった。
カーネリアン自身の絵姿ではないか! といってもそれは、普段とは大いに姿を変えていた。ロングヘアのウィッグをかぶり、緑色と金色のカラーコンタクトでオッドアイにしている。なお髪に襟足はシャギーっぽくととのえており、あげく服装はメイド服だ!
「昨夏のお姿です。可愛いでしょ? ちなみにこちらは朝斗さん♪」
佐那は自分の羽子板のシールを剥がし、ネコ耳メイドの榊朝斗の姿絵を披露した。そして電光石火、
「はい、油断大敵!」
べつのゴム怪物をふんづかまえて打ちこんだのだ。
「させるか!」
バシュッと激しくカーネも打ち返す。強い。佐那は間一髪レシーブするも、直後もう一度激しいのが飛んできて面食らう。だが佐那とてブラジリアン柔術の達人、あえて石畳に倒れ込み、ブレイクダンスのように両脚をブンと回転、通称ウインドミルのテクニックで素早く立ち直り強打した。
「く……」
カーネリアンは対応できず右肩にゴムを受けてしまった。
当然、その部分は透過してしまう。付着が浅かったか下着までは透けないものの、ジャケットと百合園制服は透明になり、丸みを帯びたラインと、ブラの肩紐がさらされた。
「スポーツブラですか。機能的でカーネさんらしいですが……ちょっと勿体ない。今度一緒に、可愛い下着を買いにいきませんか♪」
「こちらの下着より、自分のことを心配するがいい!」
かっ、とカーネは目を見開いた。
「これ以上はさせん!」
かくてはじまる羽根つきならぬゴムつき。ゴム怪物飛びかう中、これを少女二人が打ち合う打ち合う不思議なお正月。
のどかななようでいて、互いの衣服があちこち透明になっていたりするので凄艶……いや凄絶な光景であったりする。
その結果がどうなったか、そこまで書きたかったがまことに残念! 紙幅が尽きてしまった。
そこから先はご想像にお任せして、ここで場面転換するとしよう。