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リアクション
●Lonely is a word
神社の外れ、ほとんど人のいない池の前でカーネリアン・パークスはゴム怪物を捕まえた。
「ほら、すぐに終わるからじっとしてろ。貴様の仲間を増やすんだ」
言いつつ、小瓶を取り出してフタに手をかけたところで、
「あけましておめでとうございますわ。カーネさんは元旦からアルバイトですの?」
と藤崎凛に声をかけられた。シェリル・アルメストも一緒だ。
「……違う。単なる恩返しだ」
カーネリアンは少し逡巡したが、結局小瓶を隠さなかった。
「どういうことです?」
「以前世話になった人間に頼まれて、借りを返すために来ている」
ごく簡単にカーネは事情を説明した。無愛想なカーネリアンだが、凜にはつい素直に話してしまうようだ。
「恩返しにお手伝いなんて、素敵ですわ!」
「君って結構、律儀なんだね。借りを作りたくないとはいえ、こんなおふざけにも付き合うなんて」
良い意味でピュアな凜と違って、シェリルはその行為がもたらす不健全さがわかるだけに呆れ顔だ。そもそも彼女はカーネリアンを凜ほどには信用していない。
「でも、その……Xさん? というかたは、どうしてこのようなことを?」
「やつにはやつの理由があるのだろう。自分には理解できんが」
凜は会いたがったが、Xはここにいないとカーネリアンは言った。
「そうですか……とすると」
という凜に応じてシェリルが見解を口にする。
「まあ、孤独をこじらせたあまり世のカップルに憎しみをつのらせ、こうした嫌がらせに出たんだろうね。こうすればカップルが別れるとか期待して」
「でも、そんなことしたって逆にカップルさんの結束が深まるだけだと思いますが……」
「!……そうだな」
カーネリアンにしては珍しく、ちょっと目を見開いて彼女は凜を見た。
「凜はときどき、ずばりと真実を突くね。たしかにその通りだと私も思うよ」
シェリルはうなずいて、カーネリアンに顔を向けた。
「だからやめないか? こういうことは」
「一理ある……が、約束は約束だからな」
カーネは瓶の蓋を開けた。
「離れておいたほうがいい。襲われるかもしれん」
「私たちはリア充じゃないから大丈夫だよ。そこの彼(?)も反応しないだろ」
シェリルはカーネの足元にいる先行の一匹を指した。
「でも、ピンクゴムさんたちを解き放ったらお仕事は終わりですわね? これから、予約していた市内のレストランに行くのです。よろしかったら、ご一緒いただけませんか?」
「気持ちだけもらっておく。これから、こいつらの行く末を見守る役目もある」
「そうですか」
残念そうな顔をした凜だが、
「ではまた、機会がありましたら」
と手を振った。
ざらざらと池に桃色の粒が落ちていった。
すると池はブクブクと泡立ち、そこから次々、
「リアジュウメー!」
「バクハツ! カクバクハツ!」
そのような呪詛を(迫力のない声で)吐き散らしながら、じゃんじゃんゴム怪物が飛び出してきたのである。
それらが目の前を素通りしていくことが、ほっとするようでもあり残念なようでもあり――シェリルはそんなことを思いながら、
「まあ、行くとしようか。ここまで知った以上、カーネリアンの邪魔をするわけにも行かないだろう」
と凜の手を引いた。