校長室
【2024VDWD】甘い幸福
リアクション公開中!
33.いつもの、今年だけの、バレンタイン ルドルフ・メンデルスゾーン(るどるふ・めんでるすぞーん)のイエニチェリである、 ヴィナ・アーダベルト(びな・あーだべると)は、 薔薇の学舎の校長室で、ルドルフの校務を手伝っている。 バレンタインであっても仕事があることに代わりはないが、 今日は、普段よりも来客が増えていた。 「ルドルフ校長にお渡ししたいものが……!」 一般生徒が勇気を振り絞り、ルドルフにチョコレートを渡す。 「ありがとう。うれしいよ」 ルドルフは優雅に受け取り、 生徒たち一人一人に感謝の言葉を投げかけていた。 それは、ルドルフがいつも、 生徒の一人一人を見ているのがわかる言葉であり、 ヴィナは、そんなルドルフの声を聞いて、改めて、さすがだと思うのであった。 なお、ヴィナは、ルドルフが生徒達の対応をしている間、 自分は邪魔にならないよう隣室に身を隠している。 ■ 校務がひと段落つき、 二人はお茶にすることにした。 「言っておくけど、 ルドルフさんが貰ったチョコはルドルフさんだけが食べるんだよ? 甘いの苦手でも我慢しなさい」 「もちろん、わかっているよ」 「なら、いいんだ」 ヴィナはうなずいた。 ルドルフは、贈り物を贈った人の気持ちを無下にする人物ではない。 その優しさを改めて確認しつつ、 ヴィナは、ねぎらいを込めてお茶を淹れる。 「今日はどうもありがとう。 ヴィナ、君にもチョコレートを用意していたんだ」 「ありがとう。……とても綺麗な包みだね」 薔薇の刺繍による布で作られたパッケージの中に、 チョコレートが入っているようであった。 「もしかして、ルドルフさんの手作り?」 「ああ、気にいってもらえるといいんだけど」 「ありがとう。俺も、ルドルフさんに。 美味しいチョコの後で食べるとアレかもだけど。 いつもありがと、ルドルフさん、好きだからね」 ヴィナは、さらりと想いを告げ、バレンタインを贈る。 料理は苦手だが、ルドルフへの真心が込められている。 「ふふ、ありがとう。 大切に食べさせてもらうよ。 ……ずいぶん、上手になったんじゃないかな」 以前にもルドルフはヴィナからオランジェットを贈られている。 「本当に?」 「ああ、君の努力の成果を毎年、確認できるのは光栄だな」 ルドルフは微笑を浮かべた。 「これからも、僕の信頼できる大切な存在でいてほしいな」 「ああ、もちろん」 ヴィナは、ルドルフに微笑を返したのだった。