校長室
【2024VDWD】甘い幸福
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28.1年越しの告白 柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)は、バレンタインデーに、 アイリ・ファンブロウ(あいり・ふぁんぶろう)を呼び出していた。 (なんやかんやで1年つるんできて今更自覚するとか、 どこの青春物語だっての……) 恭也とアイリは、頼りになる友人、戦友、といった間柄で、 これまでそういった感情には無自覚だった。 恭也とアイリは、それまでにも2人だけで出かけたことはある。 それでも、きちんと、自分の想いに向き合って、恭也は確信したのである。 自分が、アイリに恋していること。 (……うっわ、何これ恥ずかしい) 身もだえする。 しかし、自覚したからには、即行動に移すのが、恭也のやり方であった。 思い立ったら早い方がいいと、バレンタインに告白するのを選んだ。 (男からならホワイトデー、なのかもしれないが……。 早くストレートに伝えたほうがいいだろう) その方が自分らしい。 自分らしくない、と思っている、その感情と向き合いつつ、恭也はそう判断した。 待ち合わせの時間。 (あー、これ下手なイコン戦や大規模戦闘より緊張するわ。 ったく、ダセェ話だなぁおい?) 時計を確認しながら、恭也は、これからの言葉をシミュレーションする。 戦場での命を懸けたやりとりより、ずっと動悸は激しく、息切れする。 (覚悟を決めろ。 一歩踏み出すと決めたんだ、どんな結果になろうと……) 「恭也さん」 背後から、アイリが声をかけた。 「あ、アイリ」 声が裏返ってしまう。 (ええい、しゃんとしろ、俺!) 「なあ、あのさ、アイリ。 今日呼び出したのは、話がある」 「どうされたんですか、改まって」 一般的に、バレンタインにこう切り出されれば、 その後の展開が読めそうなものだが、 アイリにその手のことを期待するのは間違っている。 アイリは、世界平和を願う魔法少女。 利他主義に生きているあまり、自分の周りのことはおろそかになるタイプである。 「まぁなんだ、こういうのはガラじゃないっつーか、似合わないんだが……」 義手ではない方の手で、恭也は、自分の頭をガリガリとかいた。 きょとんとしているアイリに、恭也が続ける。 「やっぱ駄目だな、ストレートに言わせて貰う」 真剣に、アイリの目を見据えて。 「……俺はアイリの事が好きだ。だから俺と付き合ってくれないか?」 アイリは、目をぱちくりさせて。 「あの、ありがとうございます。 付き合うというのは、今日、ご一緒して……」 「そういうことじゃなくて!」 天然なアイリに突っ込みつつ、恭也は続ける。 アイリは大きな声にさらに驚いているようだったが、かまわない。 「俺の恋人になってくれって意味だよ! ……ちなみに、『好きだ』っていうのも、友達とか、人類愛とかじゃなく、 恋愛対象としての好きって意味だからな」 恭也は、アイリに勘違いの余地を与えないため、はっきり宣言する。 アイリは、しばし、呆然としたのち。 「……ええと、私、その……」 状況をようやく理解して真っ赤になる。 「まったく、やっとわかったのかよ」 「は、はい。 ……ええと、私、魔法少女としての愛については、いつも考えてきました。 ただ、個人としては、友達以上のは、は、初めてで……」 「ああ。なんとなくそんな気はしてたよ。 でも、アイリ、そういうとこもひっくるめて、俺はアイリのことが好きなんだ」 真剣に言われ、アイリは、恭也に、今度はまっすぐ視線を返す。 「……わかりました。 恭也さんに、そう言ってもらえて、とてもうれしかったです。 ……ただ、もう少しだけ、時間をいただけますか? 恭也さんに、真剣に想いを伝えていただいたからには、 私も、真剣に応えないわけにはいきませんので」 「ああ、わかったよ」 恭也はうなずいた。 「アイリのそういう真剣なところは、よく知ってるからな。 返事、期待して待ってるからな」 そして、今度こそ、恭也は、いつものように、にっと笑ってみせた。 アイリも、それにつられるように、微笑を返した。