校長室
【2024VDWD】甘い幸福
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24.恋人の条件!? バレンタインデスマッチ――それは大荒野で行われるお突き合い。 イングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)がその男女の(拳的な)出会いの場から戻ってきたのは、夕方になってからのことだった。 汗をさっぱりと流したイングリットはそのまま待ち合わせ場所に向かう。 そこにいたのは、天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)だった。 ……が、雰囲気が違う。 いつも結んでいたツインテールはおろして、ちょっと落ち着いた大人っぽい服を着て。 可憐ななかに凛とした雰囲気のあるイングリットに対し、結奈は天真爛漫な性格と、控えめな発育で子どもっぽく見える。けれど本当は、結奈の方がひとつだけ年上なのだ。 「ねぇ、バレンタインデスマッチはどうだった?」 「ええ、いいお突き合いができましたわ。ただ、歯ごたえのある方がもっと沢山いらっしゃると良かったんですけれど」 「いんぐりっとちゃんは強いからね」 「勝負をしてくださった方には……以前お話しましたわよね? チョコレートを差し上げましたの」 結奈は散歩をしながらイングリットにバレンタインデスマッチの様子を聞きつつ、タイミングを窺う。 (今日はバレンタインなんだもん……) クリスマスでもバレンタインでも、いつでも戦える・戦いたいイングリットはちょっと変わっている――チョコ付きだけど。 結奈は普通の女の子だ。だから、普通のイベントの方が好きなのだ……好きな人がいれば、特に。 (……なんか私らしくないなぁ) イングリットは楽しそうに、戦いの様子を話している。 「いんぐりっとちゃん、あのね!」 「……何でしょうか?」 結奈は話を遮った。このままだと帰る時間になるまで、ずっとバリツの話を続けそうだ。 「私は、あなたを愛しています! 世界中の誰よりも……あなたを……」 「……!」 イングリットは目を丸くして立ち止まった。 「……びっくりさせちゃった……?」 「申し訳ありませんわ。あの、ええ、少し驚いたものですから……」 イングリットは、ほんの少し前、イングリットが結奈に話した“特別な大好き”、それが具体的な言葉になって今現れるとは思っていなくて。 「お返事ですけれど、今しなくては駄目……でしょうか? 本当に気持ちの整理がまだつきませんの。 ……それに、やはりわたくしは、わたくし自身と拳を交え、わたくしよりも強いことを証明できる方とお付き合いしたいですわ」 ――お突き合いで、お付き合い。 思いがけない返事に、結奈もまた驚くことになったのだった。