リアクション
19.チョコのお作法
「はあ、やっぱアッシュちゃんは頭弱いのね。正直悪かったわ」
空京デパートの屋上。雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は右手を額に当て、軽く息を吐き出した。
左手は、アッシュ・グロック(あっしゅ・ぐろっく)の右腕を掴んでいる。
半裸でヒーローショーに突入しに行ったアッシュを慌てて連れ戻してそのままだ。
アッシュは左手だけで器用に服を被って袖を通すと、もごもごと言った。
「……早く着たいんだけど。腕、離せよ」
「逃げない?」
「逃げない。……もう、正気に戻った」
よし、とリナリエッタは手をぱっと広げた。アッシュは慌てて服を着直すと、今度は疑惑に満ちた目でリナリエッタを見る。
「あのさ、リナリエッタに貰ったアイスティーなんだけど――」
「――さ、とりあえず本題のチョコさがしよ」
リナリエッタは言葉を遮ると、特設のバレンタインチョコレート売り場へとアッシュを連れて行った。
「買ってらっしゃい、GO!」
……そう、今日はアッシュにバレンタインの過ごし方をレクチャーするという名目だった。
アッシュがどうして俺が、と言いながらも、女の子で賑わう売り場に果敢に突入し――周りが見えていないだけかもしれないが――素直に小さなチョコの包みを持ってくる。
「うーん、正直女の子に渡すのならこれにゼロが二つ付くような値段のチョコにしなさい」
「高すぎねえ?」
「まあ仕方ないわね、私もチョコ買ってあげるわよ。駄菓子屋のじゃなくてちゃんとしたの」
リナリエッタはお洒落なお店に入っていくと、すぐに戻ってきて、ぽんとアッシュの両手に渡した。
「ほら、ザッハトルテ」
「……俺に? ……あ、ありがとな。
でもさ、バレンタインのチョコって手作りするとか聞いたことあるんだけど」
その言葉に、リナリエッタはわざとお姉さんぽく肩をすくめて、
「あのね、女の子の手作りっていうのは世界で一番高いものなのよ。もう少しアッシュちゃんが大人になったら作ってあげる」
「大人って、幾つだよ。俺様もう18だぜ。あと1年後? 2年後?」
……そういうところが子供なのよねぇと、リナリエッタは思うのだった。