校長室
【2024VDWD】甘い幸福
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26.結婚の約束を 「寒いと、いつもより空気が澄んでいる感じがしますね」 バレンタインのヴァイシャリー。 「でしたら、もう少し近くにいらっしゃい」 冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)と泉 美緒(いずみ・みお)は互いに腕を絡め、石畳の道を歩いていた。 美緒は恋人に甘えるように腕を両手で抱え、身体を寄せてくっつける。 「もう少しこうしていたいですわね」 「それは一旦お預けですよ。ほら、着きましたもの」 小夜子が美緒を連れて来たのは、一件の瀟洒な服飾店だった。 以前小夜子が友人と訪れたこともある店で、以前小夜子は美緒にそのことを話したことがある。 「いらっしゃいませ冬山様、お待ちしておりました」 ジャストサイズのスーツを上品に着こなした女性の店員が二人を出迎える。 お姫様のクローゼットをイメージした店内には、カジュアルからスーツ、そして様々なワンピースやドレスが壁面を中心に並び、アンティークのテーブルやドレッサーには、ダイヤやパールなどの宝石、ガラスや金属のアクセサリーが飾り付けられていた。 「うふふ、じゃあ美緒。以前約束したとおり、お互いの服を選びあいましょうか」 「はい」 「美緒は好きな服を選んで私に着せてね? 私も美緒に着せるから。美緒は私に何を着せてくれるかしら。楽しみですわ」 美緒と小夜子は並んだり離れたり、あちこちから服を引っ張ってきてはお互いに見せ合ったり、サイズを確認したりする。 「……選んだ?」 小夜子は、服を何着か手にして、遠くでドレスをかざしている美緒に声を掛ける。 「はい」 「じゃあ、行きましょう。ここは簡単なオーダーメイドができる店で……広い試着室が特徴なんです」 小夜子は美緒の背に手を当てて、奥の試着室に誘った。 一段高くなる試着室の床に、ロングブーツを脱いだ小夜子の白い脚が崑崙旗袍の深いスリットを割って現れる。 小夜子は、パンプスのために一足早く上がってドレスをハンガーラックにかけた美緒が、自分の脚に視線を注いでいるのに気付き、くすりと笑った。 見とれている美緒にそっと近づくと、ワンピースの背中のフックを外すと、ファスナーを下げていく。最後まで下ろしたところで、床に落ちないよう、布を抑えていた美緒は恥ずかしげに脚を抜き、それをラックにかける。 そうして振り向いた下着姿の美緒に、小夜子は一枚のドレスを見せた。 「今日は私じゃなくて、美緒が着るのですわ」 小夜子が選んだのは、普段から彼女が着ている崑崙旗袍のような色っぽいチャイナドレスだった。 彼女は恋人に、チャイナドレスを着せていく。薄いレースの下着姿ももちろん魅力的だが、外では楽しめないし……、 「小夜子、この服……あっ、くすぐったい……」 美緒が身じろぎすると、崑崙旗袍に負けず劣らず深いスリットから、美緒の白い太ももが現れる。生地も薄手で、美緒にぴったりと張り付くようだった。 「似合うと思いますよ。美緒の美しさを際立たせてくれると思いますから」 小夜子はファスナーを背中の中ほどまで上げると、 「ほら、魅力的な身体の線が分かりますから」 不意に美緒の胸を掴んでむにむにした。ぴったりした布地と、胸に開いたスリットから、色っぽい谷間が形を変えながら覗いている。 「……さ、小夜子……」 「ファスナーが上がりにくいですね。でも大丈夫ですよ、オーダーメイドできるって……言ったでしょう? ここをもう少し大きくしてもらいましょう?」 「まだ着替えが済んでませんわ」 「ふふ、ごめんね。あまりにも魅力的だから悪戯したくなっちゃった。それにここも……入れてしまわないと」 胸を寄せて詰め込み、ファスナーを最後まで上げて。小夜子は頬を赤く染める美緒をぎゅっと抱き締めて、頭を撫でる。 「小夜子は私に何を選んでくれたの?」 「わたくしは、こちらを……」 小夜子の想像通り、美緒が選んだのは彼女の趣味らしい、清楚で可愛らしい白のワンピースだった。レースがふんだんに使われている。 「小夜子は、普段こういう服は着ないでしょう? たまには試してみて欲しいですわ」 美緒は嬉しそうに、ベージュのパンプスや茶のブーツ、パールのアクセサリーなどを小夜子に勧めた。 「じゃあ、今度は、美緒がこれを着てみて」 一通り、互いに試着し合っていちゃいちゃしてから。 二人は店員に採寸をしてもらい注文を済ませて、近くにあるカフェに入った。 「そういえば美緒、以前ジューンブライドで私と一緒に模擬結婚式に参加したけど……今年のジューンブライド、私と一緒に本当の結婚式を挙げる気はある……?」 「……えっ?」 熱気を冷ますためにオレンジジュースを飲んでいた美緒の頬にまた朱がさした。本当に可愛らしくて愛しいと思いながら、小夜子は続ける。 「勿論、無理強いはしませんわ。まだお互い学生ですし未成年ですもの。私は美緒の意思を尊重しますわよ。すぐに返事を、とは言いませんから。 色々あったから、美緒とより強い絆で結ばれたいと思うのですわ……私には美緒が必要だから」 「ええ、わたくしにも小夜子が必要ですわ」 小夜子は抱きしめて小さな唇に口付けをする。美緒はうっとりと目を閉じて、それを受け入れていた。 そうして顔を離してから、美緒は思いがけないことを言った。 「もし近いうちに式を挙げる機会がありましたら、結婚しましょう。それから、少し休んだらドレスや指輪を見に行きませんか? 今のうちに見て勉強しておきたいですもの」 ……思ったより、積極的かもしれない。 そんなことを小夜子は思うのだった。