校長室
【2024VDWD】甘い幸福
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25.おうちデート 「ハッピーバレンタイン! 4度目だけど、初めてよね。今年は……」 リネン・エルフト(りねん・えるふと)は、驚くフリューネ・ロスヴァイセ(ふりゅーね・ろすう゛ぁいせ)の顔に悪戯っぽく微笑んだ。二人の目の前には、自宅でもある、航空機・ガーディアンヴァルキリーがある。 リネンは早速フリューネを中に案内する。 「艦……驚かせちゃった? 本当はもっと早く話したかったんだけど、色々ごたついててね……でも、すごかったでしょ?」 「ええ、驚いたわ。『シャーウッドの森』空賊団の拠点兼自宅ってところかしら?」 「そうなの。でも手に入れても、平和になった後のことを色々考えているよ」 リネンは居間に当たる部屋に案内すると、お茶の用意を整えた。 フリューネが物珍しそうに周りを見ている間に、二人の前のテーブルにお茶を置く。 「ありがとう」 「――はい、チョコレートよ」 視線を戻したフリューネにリネンがさっと差し出したのは、チョコレートの包みだった。 そう、今日はバレンタインだ。 フリューネは不意を突かれてまた驚きつつ、嬉しそうに微笑んでそれを受け取った。 「ありがとう、リネン」 「開けてみて」 「その前に……私からも、チョコレートよ」 フリューネもまた綺麗にラッピングされた包みをリネンに渡した。 「開けてもいい?」 「ええ。一緒に開けましょう」 二人は互いのチョコレートの包みをそれぞれ丁寧に開いていった。 リネンが包み紙をはがして、箱を開くと中から出てきたのはお酒の瓶を模した包みでひとつひとつ包まれたチョコレートだった。 「ウィスキーボンボン、お酒入りのチョコよ。少しくらいならいいでしょう?」 お姉さんぽい笑みを見せたフリューネに、ありがとうとリネンは返した。 そしてリネンがあげたチョコレートの中には、細くてまっすぐなプレッツェル状の生地に、チョコレートをかけたものがたくさん入っていた。 日本で大人気なお菓子だが、機械で作ったものと違って均一でなく、少し不恰好なところもある。 「もしかして……リネンの手作り?」 「ええ」 頷き返すと、フリューネは満面の笑みを浮かべる。 「ありがとうリネン。大事に食べるわね」 それでリネンもドキリとする。フリューネの笑顔は見てるだけで嬉しい。 (それに、フリューネが食べるだけじゃなくて、両側から……) 思わず頬を赤らめてしまうリネンだが、いやいや、と首を振って妄想を追い払った。 今日はバレンタインだけど、デートの他にも言わなきゃいけないことがある。 「あのね、フリューネ」 「何?」 フリューネは持ち上げかけたカップを再びソーサーの上に置いた。 リネンの声音には先ほどと違って真剣な響きがある。 「私が『フリューネになら殺されてもいい』って言った時、すごく怒ってくれたでしょ?」 「ええ、覚えてるわ」 「あれからよ、色々考えたの。絶対二人で幸せになってやろう、って」 リネンの新たな決意の告白だった。 「もしかしたらフリューネに迷惑かけることも出てくるかもしれない……」 リネンは、重い空気を払うように悪戯っぽく笑った。 「でも、付き合ってくれるのよね?」 「……ええ、勿論よ。空の果て、月までだって付き合うわ」 「ありがとう、フリューネ」 二人は微笑みあう。 リネンは、フリューネとの将来を……結婚を考えていた。 そのためには、今のままではいけないとも思っている。もう春には19になるのだ。 (結婚のためにも、半非合法な義賊じゃない、確固たる立場になるために頑張ろう) そう胸に誓うリネンだった。