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フリースタイル戦

――救護室。

「……あれ?」
 ベッドで眠っていたユウキ・ブルーウォーター(ゆうき・ぶるーうぉーたー)が目を覚ます。
 最初に目に入ったのは白い天井。一体ここは何処なのか、何故こんな所にいるのかと混乱する。
 近くの救護スタッフに問いかけると、試合中に気を失ったので運ばれたとの事。脳震盪のようだ。
「……そうだ、ボク試合してたんだっけ」
 その話を聞いて、徐々に記憶が蘇り始める。

――後半戦第一試合のエキシビジョンマッチとしてユウキは試合に参加した。
 ユウキが希望したのは子供部門プロレス――子供同士での戦いである。
 だがここで問題が発生した。対戦相手が居ないのである。
 そこで暇をしていた天野 空が「暇だしいいよ」という事、容姿が子供っぽいという事で急遽対戦相手として選ばれた。
 リング上で空と対峙したユウキ。
(あれくらいの体格ならボクでもパワーボムとかできるかな……でも女の子相手に必殺の往復ビンタとかやりにくいなぁ)
 身構えつつ、自身がどの様な技を仕掛けられるかというのを考える。
 更にどのように動くか、というのを考えようとした――ところで記憶がプッツリと途切れている。

「……あれ? 全く覚えてないよ?」
 そこからの記憶が一切ないユウキはスタッフに試合の事を問う。
 曰く、試合が始まりゆっくりとユウキに向かって歩いてきた空は、いきなり飛び上がり後頭部への蹴り――延髄切りをぶちかましたらしい。
 その一撃でユウキは崩れ落ち、試合はTKOで終了。駆け寄ったレフェリーが声をかけてもピクリとも動かなかったため、ユウキは救護室へと運ばれたのだという。
「……一切覚えてない」
 その事を聞かされてもユウキの記憶には当てはまらない。
 だが今自分が眠らされているという事は紛れもない事実。つまりこのスタッフが言う事は間違っていないのだろう。
 一撃で沈んでしまった事を不甲斐ないと思いつつも、起こってしまった事は仕方ないとして試合後に他選手やスタッフに振舞うバター茶や緑茶の用意をしようかと考えていた。
 その時ふと、モニターが目に入った。会場を映しているようで、リングの映像が画面に表示されている。
「――え!?」
 ユウキが思わず声を上げる。
 その映像には良く見知った顔――ユウキの父親、リアトリス・ブルーウォーター(りあとりす・ぶるーうぉーたー) の姿があった。
 そしてリアトリスが立つリングは、何故かロープが有刺鉄線になっていた。

エキシビジョン子供マッチ
●ユウキ・ブルーウォーター (12秒 TKO※延髄切り) 天野 空○