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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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第3章 川沿いにて

 若者達は再び決戦の地へと訪れた。
 先月と同じようにテントを設置し、作業場と休憩所を築いていく。
 荷馬車の荷台乗せていた消毒用の薬品や、破壊用の自作兵器を下ろし、準備にとりかかる。
「では、行って参ります」
 イルミンスールの佐倉 留美(さくら・るみ)が、真剣な顔で皆に頭を下げた。
「お願いね。危なくなったら、逃げてね。でもこっちには来ちゃだめだよ。あっちの作業員さん達の作業場の方に誘導してね」
「解りました。お嬢様達を危険な目に遭わせるわけにはいきませんものね。きっと鏖殺寺院は秘宝『麗しき乙女』を活動資金にするために、そのお屋敷を占拠しているに違いありませんわっ! なんとしてでも、阻止しなければなりません」
 留美はぐっと拡声器を握り締め、覚悟を決めて歩き出す。
 そんな彼女にパートナーのラムール・エリスティア(らむーる・えりすてぃあ)は深い溜息をついた。
「また面倒ごとに首を突っ込みおってからに……」
 呟きながらも、危なっかしい親友を放ってはおけず、別荘へ向かう留美の後を追うのだった。

 先月の戦いの所為か、別荘の2階が幾分崩れかけていた。
 なんだか飛行機の機体のようなものも嵌っており、異様な状態だった。
 修繕はしてあるようだが、窓ガラスが割れている部屋も多く、もはや廃屋と化している。
 留美は見張りの少年が目に入る場所にすくっと立つと拡声器を口に当てた。

「この屋敷はまもなく取り壊される予定ですわ。即刻、屋敷から出ていらっしゃってくださいませ。1時間待っても出ていらっしゃらないならば、すでに中に誰もいないと判断してそのまま取り壊しを始めさせていただきますわ」

 途端、見張りの少年が報告の為に別荘へと入っていく。
「よし、戻るぞ。人質にされんようにな」
 ラムールは急ぎ留美の手をとった。
 見張りに立っていたあの若者の目が、留美の足に向けられていたことに、ラムールは気付いていた。
 留美はいつものように、ヒップラインぎりぎりの超ミニスカを穿いている。
 鏖殺寺院も危険だが、女に飢えた健康的な若者の前にこの姿を晒しておくことは超危険なのだ。

「じゃーん、ミルミちゃん、こんなカンジでどうかな?」
 テントの中で着替えをしていた、百合園の秋月 葵(あきづき・あおい)が制服姿で飛び出てくる。
 金髪の鬘を被って、髪の毛をミルミと同じように同じリボンで結んである。
「直接お会いしたことがない方には、判らないと思います。効果は薄そうですけれど」
 葵のパートナーのエレンディラ・ノイマン(えれんでぃら・のいまん)も、同じようにミルミに変装した姿で現れた。
 変装の提案をしたのは葵。メイクを施したのはエレンディラだった。
 顔まではそっくりに出来なかったけれど、可愛らしい3姉妹のようだった。
「大丈夫、ミルミちゃんはナイトの私達がちゃんと守るから〜」
 葵がそう言うとミルミは頭を強く縦に振った。
「ありがとっ。ミルミ、お揃いで嬉しい☆」
「それじゃ、落ち着いてお茶でもしよ〜。お菓子も飲み物も沢山あるよ〜」
「うん」
 葵はミルミの手を引いて、テントの中に入っていく。
「真面目に護衛しなくちゃ駄目ですよ」
 くすりと笑いながら葵に言った後、エレンディラも瀬蓮とアイリスをテントの中へと招き入れた。
「和菓子を取り寄せてもらったんです。こちらのツァンダ名物のお菓子も食べてくださいねぇ」
 テントの中でお茶を入れながら蒼空学園のルーシー・トランブル(るーしー・とらんぶる)が皆に声をかける。
「あ、この最中とっても美味しいんだよね」
 瀬蓮が最中に手を伸ばした。
「ミルミは芋羊羹食べたい!」
「はいはい、今切りますね〜」
 ルーシーが芋羊羹をナイフで切り分け、紙皿に並べていく。
「……落ち着かれたようでよかったです」
 蒼空学園の牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)が紐を持って、和気藹々としだしたテントの中に入ってきた。
「それにしても、ミルミさんまで狙われるなんて!」
 ミルミの傍に近付くと、肩をぎゅっと抱きしめて頭を撫でるのだった。
「こんな可愛い子まで狙うなんて! 鏖殺仮面とやら許せませんね」
「ありがと。ミルミのこと、葵ちゃんとか皆が守ってくれるって言ってるから大丈夫。それにミルミ、いざとなるとつぉいんだよ! なんたって騎士の家系生まれだからね!」
 ルリマーレン家はシャンバラの女王に仕えていた家系であり、ミルミの祖先はヴァイシャリーにもその姿を刻まれている強き騎士だった。
「お嬢様以外はお強いんですけれどね……あ、いやなんでもありません」
 執事のラザンが目を逸らす。
「では、気高き女騎士のミルミさん。このロープ、テント付近にいくつかかけておきます。このロープを引っ張ると罠が発動するようになっています。まだ作成中ですけれどね」
「どんな罠?」
「爆破の罠です。解体用の爆薬を使って、罠を仕掛けています」
 爆薬は柱を崩す程度の分だけ業者から譲り受けていた。
「う、うんわかった」
「ロープ、赤く塗っておきますね。ミルミさん以外は触ったらだめですよ。自爆用の罠も仕掛けておきます」
「え?」
 驚くミルミに、アルコリアはこう説明をする。
「鏖殺寺院から逃げたりした人間はバイオ兵器の実験台にされるそうですよ……身体の内部からゴキブリ状の生物兵器に食い破られた写真見てしまいました……。でもここまで来ることはありませんから、気にすることはありませんが、念の為です」
 にこにこ言って、アルコリアはロープをテントに下げる。
「う、うん」
 ミルミはごくりと唾を飲み込み、紅茶に手を伸ばす。
「アルコリアさんもお茶、いかがですかぁ〜?」
 ルーシーがティーカップに紅茶を入れていく。
「それじゃ、少しだけ」
 アルコリアも席について、優雅な一時に加わるのだった。

 その頃。
「はてはて? この設置箇所だと……まさかのう、この後護衛をすると聞いておるし。いやいや、久方ぶりの世界、我輩がボケておるのじゃろう」
 アルコリアのパートナー、ドラゴニュートランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)はなにやら独り言を呟きながら、命じられたとおりに罠を設置していく。
「騎士として、前にでるべきなのだ……が……う、う……っ」
 もう1人のパートナーシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)も、眉間に皺を寄せながら呟いている。
「防衛の為の設備を整えるのも、確かにこういう場合に限っては、ボクが手伝う事も、意味がある……うん、そうだ、そうだろう」
 自分で自分を納得させて、爆薬を地中に埋めていくのだった。
「我輩では護衛は勤まらんと思うが、シーマ殿のアルコリア殿も居る」
 ぽむと、ランゴバルトがシーマの肩に手を置くと、シーマは大袈裟なほどに驚いて飛びのいた。
「あ、いや、護衛は任せてほしい、のだがな、敵にもよる、かもな……」
 言って、シーマは作業に戻る。
 テントに近いこの辺りにはアレは出ないが。
 別荘に近付けば遭遇の可能性は高まるわけで。
 しかも、鏖殺寺院がアレを使ってバイオテロを目論んでるらしいし?
 シーマは頭を抱えたい気分だった。目を瞑れば、あの黒く輝く物体が思い浮かんでしまう。
「もうやだかえりたいもうやだかえりたいもうやだかえりたい」
 1人ぶつぶつ呟きながら作業を続ける。