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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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「元々ここに、人がいることは聞いてなかったし、知らなかったの。この間は別荘の下見に来たついでに、掃除を少ししておこうとしたら、キミ達がいてさ、良く分からないうちに戦闘になっちゃったんだ。ごめんなさい」
 イルミンスールのカレン・クレスティア(かれん・くれすてぃあ)は台車に食料をいっぱい乗せて、パートナーのジュレール・リーヴェンディ(じゅれーる・りーべんでぃ)と共に、別荘の勝手口を訪れていた。
 対応にでた不良に武器を向けられるも、低姿勢で謝り続け、食料の提供を申し出る。
「でも、さっき呼びかけがあったように、別荘を壊そうって計画が持ち上がってるの。ボクはキミ達に加勢したいと思ってる。住んでた所を追われるのも大変だし、そんなに悪そうな人達じゃないしね」
 カレンが交渉を続ける中、ジュレールは訝しげに不良を見る。
 バイオテロが計画されているというのなら、無闇に別荘を破壊するのはまずいと思ってパートナーの別荘潜入計画に同意したのだが。
 どうもこのモヒカン少年が鏖殺寺院のメンバーとは思えない。単なるヤンキーにしか見えなかった。
「まさか……」
 この少年は騙されているのだろうか。人体実験の材料として、鏖殺寺院のメンバーに捕らえられている実験体なのではないか……。
 などと、妄想が膨らんでしまい、思わず憐れみの目を向ける。
「あと、こんなものも、おいてあったよ」
 カレンは勝手口近くに置いてあった台車を引っ張って、勝手口へと近づけた。
 ぐるぐるに縛られた羊?の身体に、手紙が2枚貼り付けられている。
『羊鍋にしてください』
『美味しいよ♪』
「ふぐーんぐーふぐー」
 意識はあるらしく、羊?は必死にもがいている。
「ふむ、羊の肉が食えるのか、悪くねぇな」
 不良達がドアを大きく開けた。
「まあいい、入れ。監視つきだがな」
 カレンとジュレールは乱暴に別荘内に引っ張られる。

 ――数分前。
「な、なんで僕、いきなり縛られてるのっ!?」
 ベアを手伝い、ソアの手紙を届けにいこうとしたジンギスは、何故か縛られていた。
 そして、何故か台車に乗せられる。
「平和的解決のためだぜ」
 言って、ベアはニヤリ☆と邪悪な目を見せる。
「ぜ、絶対嘘でしょっ!? ひいぃっ、やめてー! おーろーしーてー! も、ぐぐぐもおぐーっ!」
 台車の上で更にぐるぐるに縛られたジンギスはそのままソアの用意した食料と、手紙と一緒にベアの手で別荘の勝手口近くに運ばれ、放置されたのだった。

○    ○    ○    ○


 作業用のテントにて。
 先月拘束をした不良達は、縛られた状態で椅子に座らされていた。
 見張りは薔薇の学舎の藍澤 黎(あいざわ・れい)とパートナー達が現在行なっている。
 片隅では、フィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)が携帯調理具を使って、料理を温めている。
「出来たで!」
 フィルラントが杓子を使って、器に盛ると、エディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)がトレーの上に乗せていく。
 ヴァルフレード・イズルノシア(う゛ぁるふれーど・いずるのしあ)は、無言でグラスに水を注ぎ、不良達に配っていく。
 黎は黙って不良達をじっと見つめていた。
 叱られた子供のように、不良達はふて腐れ気味な顔で目を逸らしている。
「フィルラにーちゃん特製の肉じゃがだよ!」
 エディラントが不良達の前に、肉じゃがを配ると、不良達のお腹がぐ〜と鳴った。
 ――悲しい事だ。
 食事に飛びつく彼等の様子を見て、言葉には出さずヴァルフレードはそう思う。
 彼等が満足に食事を食べることが出来ない日があったこと、昆虫やネズミをも食し、飢えを凌いでいたことがあったことを、耳にしていた。
(この世には、美味しい物があるのだ)
 片手だけ縄を解き、スプーンを渡すと、不良達はまだ料理が揃ってもいないのに、夢中で食べ始める。
「味噌汁とスープはどっちがええ?」
 わかめと豆腐の味噌汁と、野菜たっぷりのスープを器に入れて、フィルラはトレーの上に置いていく。
「どんどん食べてね。ご飯も直ぐよそるから!」
 ヴァルフレードはトレー持ち、不良達の周りを回っていく。
 不良達は我先にと両方をとっていく。その姿に憐れみを感じてしまう。
「お腹いっぱい食べてね。沢山用意してきたから。料理もフィルラにーちゃんが色んな種類のものを作ってくれるからね」
 エディラントはご飯をよそって、不良に配り、空いた器を持ってフィルラにお代わりを入れてもらう。
「パエリヤもどうや? シーフードやで。百合園のお嬢様にも大人気の料理や」
 出来上がったばかりのパエリヤを大皿に盛って、ヴァルフレードに手渡す。
 ヴァルフレードは大皿をテーブルの中央に置いて、小皿を並べ動けない不良達に代わり、取り分けていく。
「美味いだろう?」
 黎は、紅茶を淹れて、不良と自分、パートナー達に出していく。
「お前達の望みはなんだ? これまでの暮らしで満足なのか?」
 そして、質問を始める。
 不良達も、豪華なデザートが出始めた頃には、腹が膨れて気持ちが緩くなったのか、時折目を合わせるようになり、ぶっきらぼうだが返答を返すようになる。
「別に」
「オレは、パラ実に入って気ままに暮らしてぇな」
「雨風を凌げれば、住処なんかどこでもいい」
「…………」
 マフィン、スコーンとテーブルに並べながら、ヴァルフレードも黙って耳を傾けていた。
「元気ないね〜? 皆はどんなことが楽しい?」
 エディラントが空いた器を片付けながら訊ねる。
「博打」
「女遊び」
「つまり、金が欲しい。金があれば、何だって手に入るんだ」
「カツアゲなんかちまちまやってても、大した収入にならねぇしなー」
「……なるほど」
 黎はある意味感心をした。彼等はもう十分パラ実生だ。
「交代しよう」
「見張り頑張るよ。お菓子も持ってきたよ」
 同じ薔薇学の早川 呼雪(はやかわ・こゆき)ファル・サラーム(ふぁる・さらーむ)が作業用のテントに顔を出す。
「ま、茶でも飲むか」
 黎は二人にも茶を淹れて席に座らせ、百合園生達のテントと同じように和やかに談話を始めるのだった。

 数十分後。
「うぅ、それは酷いよ……そんな事されたら、ボクもきっとグレちゃう」
 ファルは涙を浮かべていた。
 不良達が鼻水をすする音も響いている。
「そうか、大変だったんだな……」
 呼雪は不良の肩に手を置いて、労わった。
 美味しい食べ物の提供と、親身な問いかけを続けた結果、不良達はぽつぽつと身の上話を語るようになっていた。
 両親に捨てられた者。友に裏切られた者。
 全員ではないが、不良とならずにはいられなかった大きな理由があった者もいた。
「別荘で鏖殺寺院やテロの研究のことを何も知らずに荷担している仲間に、事の次第を伝え、賛同した奴は連れてきてくれないか?」
 そんな呼雪の言葉に、頷く不良もいた。
 根っから悪い奴等ではないと判断をした呼雪達は、不良の数名を独断で解放することにした。
「こんな事に巻き込まれて酷い目に遭う前に、やり直す機会があっても良いじゃないか……」
 呼雪は軽く会釈をして去っていく不良を見ながらそう呟き、ファルは手を大きく振って見送った。
「いらないというなら、あの者達に貸し出して管理させればいいだろう、が……」
 黎は馬車の方に目を向ける。作戦決行時間が迫っており、解体の準備が進められている。どうやら交渉の場はもてそうもなかった。

「とりっくおあとり〜と?」
 目と腕の部分に穴を開けた、白いシーツを被った人物が3人、別荘近くで見回りをしている不良に近付く。 
「ん? なんだテメェら、ハロウィンはまだ先だろが、近付くんじゃねぇ」
「はーい」
「はーい」
 可愛らしい子供のお化けの声を上げて、3人はパタパタと走り去った。
 不良は背を向けて、見回りを続ける。
「ああっ、大変、足が滑ったー!」
 言葉と同時に、突如男の背にイルミンスールのクラーク 波音(くらーく・はのん)のドロップキックが決る。
「おっと、こっちは腕が滑るよー!」
 横からはララ・シュピリ(らら・しゅぴり)のラリアットが炸裂する。
 そっと戻ってきた白い幽霊達だった。
「ぐげっ……て、めぇら……!」
 激怒し武器を抜いた男に、最後の1人アンナ・アシュボード(あんな・あしゅぼーど)は、
「ご、ごめんなさい!」
 と言いながら、弁慶の泣き所を蹴り飛ばす。
 更にララが足の小指辺りをダンと踏み潰した。
「うぐ……っ」
 不良は痛みに悶え蹲る。
「いたずらが嫌なら早く別荘からでることだね〜」
「とりっくおあとり〜と」
「トリックオアトリートですーっ!」
 幽霊達は笑いながらダッシュで走り去っていく。

「……凄い人数いるみたいだけど、イヤでも燃えたら逃げちゃうよね〜! トコロテンさせなためにもねー」
 少し離れた場所で波音は別荘に目を向ける。
「でも、トコロテンって何だろうね? 美味しいことなのかな? 別荘の中には沢山強そうな人いるみたいだね」
 ララはお化けの格好のまま首を傾げた。
「良く分からないけど、やったらダメなことみたいよ」
 波音もお化けの格好のまま答える。バイオテロと聞き、トコロテンと同じようなものかなーと考えていたら、元々の言葉を忘れトコロテンだと思い込んでしまっていた。でも、そんなことはどうでもいい。元々それが何なのかは全然分かってない3人だから!
「火を点けるのはやめましょう?」
 アンナは不安気な目で言った。
「ここがトコロテンになっちゃったら困るし、火事になればみんな逃げるよ! それに、もう直ぐ全体攻撃も始まるしね」
 正面の方に目を向ければ、なにやら大きな道具が見え始めたところだった。
「じゃっじゃあ、せめて全体攻撃が始まってから、火の回りを遅くして、逃げられる時間が長くなるように上の階からやりましょうね」
 アンナは波音に訴えかける。
「うーん、ま、自分達だけでやって、集団で襲われたら、あたし達も危ないしね」
 波音はしぶしぶ頷いて、全体攻撃を待つことにした。