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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

リアクション

「外への攻撃は治まったようですし、そろそろ本格的に消毒しましょうね」
 イルミンスールのナナ・ノルデン(なな・のるでん)ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)は、消毒用のエタノールが入ったタンクを抱えて、空飛ぶ箒で浮かび上がった。
「改めて別荘を見ると、ほんと悪の巣窟って感じだね……」
 怒声が飛び交い、炎が舞い、瓦礫が飛び散る別荘を身ながら、ズィーベンは呟いた。
「この辺りでいいかしら。少し周りにも飛んじゃいそうですけれど」
「でもナナ……これって本当にお掃除なの? 確かに汚物は消毒だー! とかっていうけど」
 ナナとズィーベンは屋上よりずっと上で箒を止めて屋敷を見下ろした。
「もちろん掃除です。デストロイ的な。それじゃ分担して撒きましょう」
「了解」
 ナナは博識とハウスキーパーのスキルを活かして、狙いを定める。
 ズィーベンはナナと離れて空中で止まり、せーので、タンクを武器で破壊した。
 一気に液体が零れ落ち、別荘に降り注いだ。
「それじゃお願いしますね」
 ナナはその場から飛び去っていく。
 ズィーベンはギャザリングヘクスで魔力を上げた後、
「火の精霊よ、我が魔力の元に集いて浄化を成す炎とならん……」
 詠唱と共に下降し火術を放った。
 ぶわっと炎が広がり、屋上の一角を炎が包み込んだ。急ぎ、ズィーベンも避難する。
「各自、一斉砲撃! ふぁいあー!★」
 屋敷前では蒼空学園の弥隼 愛(みはや・めぐみ)が、声を上げ、ロケット花火を別荘に向けて打ち込んだ。
 内外から炎が広がっていく。
「あとは、皆さんにお任せですね。炎沢山上がっているようですし」
「それじゃ、戻ろうか。ミルミちゃんも狙われてるみたいだし」
「ええ、戻りましょう」
 ナナとズィーベンは炎渦巻く別荘を残して、ミルミ達の待つ休憩所に戻っていく。
「凄い勢いで燃え始めたね。ようやく飛び出てきたか〜。ふふふっ」
 愛は集落で大きな桶をいくつか借りてきていた。
 桶の傍で待っていると――。
「水水、水ー!」
 頭や身体から火を生やした不良達が駆け込んでくる。
「どけぇー!」
「愛、こちらへ!」
 突き飛ばされそうになった愛を、パートナーのミラ・ミラルド(みら・みらるど)が引き寄せて庇った。
「のわちぃ!!!」
 桶の水を被った男達がのた打ち回る。
「あははは、はははははっ」
 愛は腹を抱えて笑い出す。桶の中には熱湯を入れておいたのだ。
「……ぷ……っ、いえ、必死な方々を笑ったりはしません」
 ミラは根性で笑いを堪える。
「それじゃ、続けていくよー! ふぁいあ〜!」
 次のロケット花火を愛が打ち込む。エタノールが撒かれた辺りに突っ込んで、パッと炎が広がった。
「くっそー!」
「百合園め、舐めた真似しやがって!」
 パラ実の女性達が武器を手に飛び出てくる。
「っと、百合園生と間違えられたら厄介ですね。いえ、もう十分愛も攻撃しているわけですが」
 集団で飛び出た水商売風の女性達を見て、ミラは愛の腕を引っ張って沼とは反対の方へと駆けた。
「あちゃっ!」
「あっ、はははははっ」
 熱湯を浴びて驚き、喧嘩を始める不良達に愛はまた大笑い。
「わ、笑ってる場合じゃありませんよ、笑ってる場合じゃ」
 顔を緩ませながら、ミラは愛を引っ張るのだった。

 光学迷彩で近付いた少女が、不良の首を七首で切り裂いた。
 声も出さずして、不良は勝手口の前で倒れる。
「チンピラのような方ばかりで、凶悪そうな方は全く出てきませんね」
 パラ実の藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は、頃合を見て別荘の中へと入り込む。
 鏖殺寺院と白百合団が絶滅戦争を開始するという噂を聞き、嬉々として混ざりに来た優梨子だが、別荘の中から現れるのは弱そうな不良少年ばかりだった。
 パラ実らしき女性も見かけるが、威勢はいいが、風俗系――優梨子からみれば、堅気で働いているような女ばかりだった。
「覚えてろよ、てめぇら!」
 化粧の濃い女が銃を撃ちながら、勝手口の方へと向かってくる。
 流れ弾で優梨子の身体が傷つくも、優梨子はそれさえも面白いと感じる。
「あなた、元パラ実の方ですよね? 統制が厳しそうですけれど、鏖殺寺院ではどのくらい人を殺せるんでしょう?」
 光学迷彩を解いて、にこりと微笑むと、女性は優梨子に銃を向けたまま、顔を歪める。
「攻めてきた奴等にも鏖殺の名を出す奴がいるが、うちらは鏖殺じゃねぇ! 鏖殺もぶっ殺す対象だろうが!?」
「おかしいですね? ここで鏖殺寺院の方が興味深い研究を行なっていると聞いたのですが」
「知らねぇよ! どけっ」
 どく振りをして、優梨子は女性を背後から斬りつけて倒す――。
「なるほど、鏖殺寺院の所為にして、殺ってしまおうというわけですね」
 ふふっと笑みを残し、廊下へと走り込むのだった。

「典型的百合園お嬢とは話が噛み合わん。てめーらはハナから何にもしてねーじゃねーかよっ」
 ぶつぶつ文句を言いながら、蒼空学園の永夷 零(ながい・ぜろ)もパートナーのルナ・テュリン(るな・てゅりん)を連れて、炎渦巻く別荘へと突入した。
「どこだ、変態舞士! 既にこの別荘に潜伏しているんだろ!!」
 声を上げて、廊下を走り――見つけた。
 全裸で袋を被り、よろよろと起き上がった男を。
「噂どおりのいやらしいマスクだぜ……」
 そのマスクは目の部分を開けただけのビニールの袋だ。
「ホント、噂どおりの変態っぷりでございます」
 ルナもきっぱりと言った。
 怪盗舞士かどうかはともかく、その男の異様な格好――というか全裸だが。に、ゴミ袋と思われるビニール袋を被っただけの面に対し、フォローの余地はなかった。
「逃げもかくれもしねぇって訳か」
 零が変態の肩を掴む。
「我が名は変能マスク! 変態ではない!」
 その刀真という男が腹をさすりながら吼える。
「その精巧なマスクをはがして正体をみせろ」
「いえ、精巧ではございませんけれど」
 ルナは思わずつっこみを入れる。しかし零は真剣そのものだった。
「正体を晒しやがれ! ヘンタイ野郎が! ひん剥いて百合園お嬢の元に連れてってやるぜ!」
 零がマスクに手をかける。
 黙ってみている月夜がぐぐぐっと拳を握り締める。
「さあ、引っ張り出してやるぜ、白百合団の元に!」
 零がマスクを破る――瞬間!
「結構です!」
 ドーンと突き飛ばされ、変能が覆い被さる状態で零と共に倒れる。
「た、たとえ変な趣味をお持ちの方でも、白百合団は普通の格好をしていてくれれば、受け入れます。く、崩れそうですから、逃げて下さいッ!」
 突き飛ばした相手、白百合団の小夜子はそう叫びつつ2階へ駆け上がっていく。
「無茶しないで。私達もそろそろ脱出しないと!」
 エノンも急ぎ小夜子を追う。
「くぅ、変態舞士、侮れん……」
「ゼロ……」
 裸体の男の下敷きになっているパートナーに、ルナは哀れみの目を向けた。

「げほっ、こほっ、流石にこれ以上は無理か。おいつかさ! 脱出するぞ!」
 1階に下りて、探し物をしていたヴァレリーだが、煙が充満し、炎も迫っていることから2階に向けてそう言葉を発し、勝手口に向かおうとする。
「気をつけてね。ありがと」
 そう言ったのは、ミクル・フレイバディという名の百合園の生徒だ。
 ヴァレリーの後に続き、一緒に1階に下りた後、しきりに何かを探していたのだが……。
「命より大事なものがあるのなら、勝手にすればいい」
 ヴァレリーは炎が立ち上る隣室へと向かうミクルを止めはしなかった。

「うわっ、すげぇことになってきたな。そろそろ限界か?」
 教導団のウォーレン・アルベルタ(うぉーれん・あるべるた)が、降りかかる火の粉を払った。
「ラザンさんも地下のことは知らないって言ってたし、これ以上は無理かなぁ」
 薔薇学のクライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)はふうと息をついた。
 次第に暑くなっていく。
 本格的なゴミ拾いを始めたウォーレンとクライス、そしてクライスのパートナー達は、ゴミ袋を手に別荘の中まで入り込んでいた。
 だがしかし、価値のありそうなものは何一つなかった。
 価値のあるものがあったのなら、長い間占拠していた不良達が売り払わないわけがない。
 ただ、簡単には持ち運べない家具や調度品の中には、また使えそうなものもある。
 そういったものは、皆で持ち上げて窓から外へ出しておくことにする。
「炎迫ってるけど、進むの〜? どうするの〜?」
 ドアの前で、サフィ・ゼラズニイ(さふぃ・ぜらずにい)が声を上げた。
「大して収穫ないまま、逃げるものなぁ……」
 ウォーレンは欲しいものを入れている袋がまだ全然満たされていないことに、溜息をつく。
「行くんなら、戦いに出てもいいか? まだ抵抗してる奴等がいるようだ」
 ジィーン・ギルワルド(じぃーん・ぎるわるど)は目をギラつかせながら、ドアの向こうを見ている。
「戦闘はダメだよ。強敵が奥にいるからそこまで見つからずに進むため隠れておくんだ」
「勝手な行動はするなよ。サフィは監視を続ける。ジィーンは護衛だ。それとも手伝うか?」
 クライス、そしてローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)がちらりと2人を見ながら、声をかけた。
「女の子に汚れ仕事させないでよ。わかってるって」
「へいへい」
 サフィとジィーンは別荘の状態を見ながら、その部屋のゴミ収集が終わるのを待つ。
「隣の部屋にも行ってみよう、ギリギリまで粘ろう。地下に逃げ込めばどうにかなると思うんだ。食料も沢山持ってきたし」
 主であるクライスの言葉に、ローレンスが頷く。
 サフィは満足気な笑みを漏らす。
(お堅い騎士様がお宝なんかに興味持ってるんだもの、これを機に物欲で堕落させてあげないとね♪)
 などと考えつつ、ドアの向こうに本をばら撒いてみる。……エッチ本だ。
「そんじゃ、隣室付近の敵は倒していいってことだよな〜。行くぜ!」
 本を飛び越え嬉々として飛び出たジィーンは、早速咳き込んでいる不良と遭遇する。
「腕に覚えがあるならかかって来い、よ!」
「うわああああーっ!」
 剣を振り上げて迫り来る不良に向け、ランスを左右に振って打ち飛ばす。
 その時、声が響いた。
「崩れるぞ! 地下を見つけてある、避難しよう!!」
「っと、地下だってよ? 俺は秘宝には興味ないが行くんなら付き合うぜ、クライス」
「うん! 秘宝が怪盗の手どころか、テロリストの手に渡るなんて絶対に許せないから!」
「そっか、それ持ち帰ったら団長も褒めてくれるかもなー」
「寺院……ま、行くことには変わりないか」
 ローレンスは怪訝そうに眉を顰めながらも、2人を先に行かせ、殿を務める。