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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第2回/全3回)

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第5章 戦い終えて

「行っちゃうのね」
 は、玄関の前で両手を組んで尊敬の眼差しで目の前の大人びた女性――ガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)を見ていた。
「仲間と話し合いの上、原因である百合園の暴言を白百合団が謝罪したら許すことにいたしました」
 ガートルードは『寛大なパラ実女子が大きな心で許してやる』そのように、パラ実女子が上の立場としての交渉を行なうから、自分に交渉に行かせて欲しいと、怒り狂う女性陣を説き伏せたのだった。
「気をつけて」
 軽く頷いて、ガートルードはパートナー達と玄関から駆け出ていく。
 蒼は尊敬の眼差しで後ろ姿を見送る。
「やっぱり、素敵よねぇ。仲間の為に、敵地へ赴くあの姿と顔も!」
 ガートルードの大人の魅力に蒼は魅せられ、溜息をつくのだった。

○    ○    ○    ○


 解体音や、怒声が少し距離のあるこの場所――百合園女学院の生徒達がお茶をしている休憩用のテントまで、響いてくる。
「ひっ」
 時折地面が小刻みに揺れ、ティーカップがカタカタと音を立てる。
 テントの中には、撞車の残骸がおかれており、皆の溜息を誘っていた。
「他に火傷を負った方はいませんかな?」
 が、冷水で仲間の火傷の手当てを行なっている。
 最後まで撞車に乗っていたアクィラアカリは重傷だった。
 教導団を中心としたグループは、そうしてテントの隅で小さくなりながら治療と反省会を行なうのだった。
「……逃げようか、遠くに隠れてようか」
「破壊の音が聞こえるということは、工事が順調に進んでいるってことですよ、きっと。こちらも召し上がって落ち着いて下さいね」
 不安気なミルミに近付いて、ルーシーは、皿に盛ったフルーツを差し出した。
「ありがとっ」
「美味しそう!」
 ミルミや瀬蓮が喜ぶ様子に、ルーシーも微笑みを浮かべた。――その時。
「話し合いをしたいって人が来てるんだけど」
「人数は四人だ」
 周囲の見回りを行なっていたイルミンスールの和原 樹(なぎはら・いつき)フォルクス・カーネリア(ふぉるくす・かーねりあ)と共にテントに顔を覗かせる。
「話し合い? ミルミそういうこと苦手だよ」
 執事のラザンは作業用のテントの方に手伝いにいってしまっている。
「大丈夫、あたしも一緒に行くから!」
 が立ち上がって、ミルミに手を差し出した。
「勿論私も行きます」
 エレンディラも立ち上がり、一番にテントから出て行く。
 その後からミルミ、最後に葵がテントから出て、ミルミを挟んでテントの前で立つ。
「こちらです。あ、でもそれ以上近付かないで、念のため」
 樹は訪れた女性達に、そう指示を出し、女性達はその指示に従って止まった。
「白百合団団長桜谷 鈴子(さくらたに・すずこ)のパートナーにして、騎士の家系、ルリマーレン家のミルミ・ルリマーレン殿とお見受けしますが」
 その乳白金の髪の女は低く、静かにそう言った。
「おうさ、おうさ……っ」
 黒いボディースーツに網タイツに、ブーツ。深紫のマジックローブを羽織った女の姿に、ミルミはビクリと震えて葵の手をぎゅっと握り締める。
「うん、そう!」
 動揺しているミルミに代わって答えたのは葵だ。
「可愛い子供じゃのぅ」
 乳白金の髪の女の隣には、シンプルな白のバニースーツを纏い、バイザーヘルメットを着用し、グローブにロングブーツ――戦闘飛行重視型機晶姫のような存在があった。
「ホント、可愛らしいこと。うふふ……」
 反対側には露出度の高い鎧を纏った、耳の尖った女性の姿があった。褐色系の肌。妖艶な笑み――まるで、女妖魔のようであった。
「食っちまいたいな、くくくっ」
 後に立っているのは、ミルミの2倍近い身長の――異質なモノだった。
 体格は筋肉質な男。顔はまるでブルドックだ。
 背や尻には悪魔のような、蝙蝠型の羽や尻尾が生えている。
 レア焼き骨付き肉にむしゃぶりつきながら、笑みを浮かべる様子にミルミがしゃくりを上げ始めた。
「合成獣、ま、魔人……っ」
「鏖殺寺院の方々ですね。どういったご用件でしょうか?」
 エレンディラが訊ねる。
「まずは、我等への暴言を謝罪していただきましょう」
「暴言?」
 乳白金の髪の女の言葉に葵が首を傾げる。
「ミル……私、悪口なんて言ってないよ」
「不法占拠しているのはそちらではありませんか? 退去をお願いいたします」
 エレンディラは努めて冷静に言った。
「害虫やゴミなど、(我々の)中にはおりません」
「(別荘の中に)うじゃうじゃいたって話だけど?」
「すごいんだよ、凄い数なんだって」
「どうしても謝罪する気はないと?」
「だから、占拠して悪いことしてるのは、そっちでしょ?」
 葵がもどかしげに答える。
 というか、何故か話がかみ合わない。
「仕方ありませんね……」
 冷ややかな目で、口元に引き攣ったような笑みを浮かべ女は背を向けた。
 連れも同じように軽く笑みを浮かべながら女の後に続く――。
「ふ、ふええええええーーーん」
 ミルミはぺたんと座り込んで泣き出してしまった……。

 少し離れた場所にて。
「あらあら、大丈夫かしら?」
 パトリシア・ハーレック(ぱとりしあ・はーれっく)が、ぺたんと座り込んだガートルード・ハーレック(がーとるーど・はーれっく)に声を掛けた。
「まだまだじゃのう、親分」
 シルヴェスター・ウィッカー(しるう゛ぇすたー・うぃっかー)はぺしぺしとガートルードの肩を叩く。
「何の力もないガキに見えたけどなー、あれがSS級か。確かにどれが本物かはわからんかったな」
 ネヴィル・ブレイロック(ねう゛ぃる・ぶれいろっく)は、肉の血がついた手で、労わりを込めてガートルードの頭に触れた。
 ミルミの外見は人質達から聞いてあったのだが、3人とも同じ格好をしていたため、どの人物が本物のミルミなのかはわからなかった。
「……大丈夫です」
 ミルミ・ルリマーレン――敵が白百合団団長のパートナである事を知った時、ガートルードは顔には出さぬものの、戦慄を覚えた。
 白百合団団長。
 それは、パラ実で言ったらSS級四天王キマク家当主クラスではないかと。
 ドージェには勝てないだろうが、打ち合う事の出来る猛者だと、思い込んだのだった。

○    ○    ○    ○


「待ちたまえ、白百合団!」
 凛とした声が響き、別荘から退避しようとした白百合団の冬山 小夜子(ふゆやま・さよこ)達は振り向いた。
 そこには、裸にマスク、マントだけの姿の男の姿があった。
 ズウゥゥン……と、響く足音。続いて現れたのは熊――というか熊のぬいぐるみを被った大きな物体だった。巨大ゆる族だろうか。
 小夜子とエノンは救出した人質達を庇いながらも、思わず後退りしてしまう。
 男――変熊 仮面(へんくま・かめん)は腕を組み、堂々と少女達の元へと歩み寄る。
 熊はのしのしと歩いて。
 同時に地面に膝をついた。
「どうか、お願いします! ハロウィンまで別荘を壊さないでください!」
 変熊は鮮やかに両手を地面について、見事に地面に頭を擦りつける。
「……あ……う……」
 ぱくぱく口を開いたり閉じたりするだけで、小夜子達は何も言葉が出せなかった。
 熊――巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)の方は、ペチョンと別荘の前に足を広げてぬいぐるみ座りし、コテンとその頭をかしげている。
「お前も頭を下げろ!」
 変熊が肘打ちする。
「うぐぐぐっ」
 小さく唸り声を上げながらも、イオマンテは変熊に従い、土下座をするのだった。
「か、可愛い……っ」
 声を上げたのは、歩だった。
「ミルミちゃんも喜ぶかも」
「では、変熊様の方は私が戴いてもよろしいでしょうか?」
 つさかは裸の変熊に興味津々だ。
「兄者! もう我慢の限界じゃ。雄叫びをあげて暴れたい……」
 イオマンテが悲壮な声を上げる。
「動くな! 巨大ぬいぐるみの恐怖を演出するのだ!」
 変熊が僅かな望みに賭け、声を絞り出したその時……!
「崩れます! 外へ跳んで!!」
 真彦の大声が響く。
スゴゴゴゴーーーーーーン
 爆音と共に、別荘が崩れ落ちる。

「いっ、やああああああああああーーーーーっ! 鏖殺寺院なんてふっとんじゃえーーーーーーっ!」
 爆音と震動に、テント前で泣いていたミルミが絶叫をして、テントの傍の紐を引っ張った。
どごーん
 途端、ぼわっと炎が湧きあがり休憩用のテントが炎上する。
「あらあら。撃退用は赤い紐だと言いましたのに。自爆用の朱色の紐を引っ張ってしまわれたのですね。しかし、あれです、敵を欺くには味方から! 味方だけ巻き込まれたとしても、敵を倒すには味方から! ことわざにもあります、ええ、素敵」
 うふふふっと笑みを浮かべているのはアルコリアだった。仕掛けを手伝った……もとい実行犯のシーマランゴバルトは驚いて立ち尽くすばかりだった。
「おのれ、鏖殺寺院め! こんなところにまで、魔法を打ちこんでくるなんて!!
 爆発を受けて驚いて転んでしまい、ミルミは腕をちょっぴり擦りむいていた。
「ミルミ、負けない。負けないだから! 解体業者の人達がきっと頑張って全部壊してくれるって信じてるー!!」
 燃え上がるテントを見て、ミルミは固く決意したのだった。

「テントの方向からも軽い爆発音が聞こえたぞ。戻ろう」
 別荘近くまで見回りに出ていたフォルクスが踵を返すも、の返事がない。
「どうした?」
「あ、うん……」
 樹の目はすくりと立ち上がった変熊の方に向けられている。
「……大人の男はやっぱ違うのかな……。……いや、俺もちゃんと大人だよ? もうちょっと育ってもいいかなーとか思うんだけど……今でも十分……うん」
 ぽむと、フォルクスは樹の肩を叩いた。
「樹……妙な見栄を張る必要はないぞ? お前は、いつまでもそういう成長のない所が愛らしいのだから」
「黙れ変態。あんたの感想なんか知るかっ。しかも、どさくさにまぎれて何言ってるんだ! 順調に成長してるし、これからもするっての! ……たぶん」
 樹は強く言うも、最後の一言だけは自信なさ気に小声だった。
「ふむ、そうか……。成長するならそれはそれで構わんが、立場が逆になることはないからな?」
「……何の立場だよ、何の。あ、いや言わなくていい。嫌な予感がするから絶対言うな!」
 樹は薄っすらと赤くなりながら、テントの方へと走っていく。
 フォルクスは余裕の笑みを浮かべながら、その後を追う――そう、黒き塊が出なければ自分の方が上位なのだ。