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リアクション
こうして、ようやく糸口を見つけた明花と生徒たちは、条件を変えて実験を繰り返した。
「やはり、ロブ以外の人ではだめですわ」
アリシア・カーライル(ありしあ・かーらいる)がため息をつきながら言った。愛の告白のようにも聞こえるセリフだが、何のことはない、パートナーのロブ・ファインズ(ろぶ・ふぁいんず)以外の地球人と手をつないで《冠》を使ったらどうなるか、という実験の結果の話だ。
「ロブとでしたら、《冠》をつけている間も意識を保っていられますし、一度に力を放出してしまうこともないのですが。他の方とですと、いくら努力しても、途中で気を抜いたり心が折れてしまわない様に気をつけていても、あっという間に気が遠くなってしまうのですが」
「大変な思いをさせて済まないな。だが、俺が代わってやれるものではないし……」
ロブは苦い表情で言う。
「いいえ。次につながる結果が出ているのですもの。ロブのためにも頑張ります」
アリシアは静かに微笑んだ。
一方、残念そうな表情をしているのがハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)だ。
「……使う者によって、エネルギーの性質が違うのではないかと思ったのですが……」
ハンスは、可能ならば《冠》を防御に使いたいと考えていた。光条兵器にはさまざまな形状のものがあるが、それと同様に、《冠》から得られるエネルギーを盾のように広げ、防御に使えないかと考えたのだ。だが、《冠》の使用者によって得られるエネルギーの質が違う、ということはなかった。
「エネルギーはエネルギー、動力でしかないわ。それを何らかの装置に供給して一種のバリアを形成することは先々可能かも知れないけど、今の段階では難しいわね。長時間連続して使うとなると、使用者の精神力の問題もあるし」
と明花はハンスに言った。
他にも、戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)が疑問に思っていた《冠》とSPリチャージの関係についてや、《冠》の使用中に使用者がどのようなことができそうか、なども調べた結果をまとめ、明花はひとつの結論を出した。
「……つまり、《冠》をつけている者が動力源で、出力を調整する装置がそのパートナーの地球人、ということだと思うのよね。原子炉みたいなものかしら」
他に、以下のようなことが判っている。
●《冠》を使っている間、使用者は喋る程度のことしか出来ない。魔法や、その他の技能も使えない。
(慣れて来れば、訓練によって改善される可能性はあるかも知れない)
●地球人パートナーは、《冠》を制御している間に魔力や精神力を消費することはない。
ただし、《冠》使用者に触れている必要があるため、行動は制限される。
(手で触れなくても良いし、触れる場所もパートナーの手である必要はない。たとえば、隣り合わせに身体を寄せ合って座るなどでも構わない)
●使用時間には限界があり、使用者の魔力や精神力に依存する。《冠》をつけている者に対して魔力や精神力を回復するような魔法や技能を使えば、その分使用時間は延びる。
●《冠》を制御できるのは、使用者のパートナーである地球人に限る。
「……《冠》を使っている間はコイツとずっとくっついてろとか、どんな罰ゲームですか!」
実験結果をまとめたレポートを読んだルケト・ツーレは、震えながらパートナーのデゼル・レイナードを指差して、明花に向かって叫んだ。だが、明花はあっさりと答えた。
「そうやってみたら制御出来てしまったけど、どういう仕組みなのかは、私にもまだわからないのよ。もともと、対応する機能がある機晶姫が使うためのものを、何とかして無理やり使おうとしているんだから、そのくらいは我慢しなくては。どうしても嫌なら、今から被験者を辞退してもいいのよ?」
「うう……」
ルケトはデゼルと明花を見比べて唸る。
「すみません、教官。触れるのが手同士である必要はないということは、膝に乗せても構わないということでしょうか?」
朝霧 垂(あさぎり・しづり)は手を挙げて明花に尋ねた。
「そうよ。何なら試してみる?」
明花の言葉と共に、研究室の奥の大きな扉が開き、隣接した工作室から一台の小型軍用車両が現れた。
「急ごしらえで一台だけだけれど、《冠》を接続できる火器を搭載してあるわ。火器と言っても、量産型機晶姫の武装を参考に作った、光条兵器に近い構造のものね。これが上手く行けば、あと十一台作るつもりなのだけど」
幌を外した軍用車両の後部には、重機関銃サイズの火器が取り付けられている。垂はこっくりとうなずいた。
最初の実用試験は、本校に隣接した演習場で行われた。垂はライゼを膝にのせ、後部座席に座る。他に、狙いをつける砲手と、運転手が車に乗ることになる。
「砲手は、朝霧のコントロールと息をあわせてちょうだい」
明花が砲手に指示する。訓練によって出力のオン・オフや、ある程度の強弱調節が可能になっているし、発射の指示は垂が手元の発射スイッチですることになるが、砲手と息があわないと、とんでもない所に向けて撃ってしまうことになる。
「照準、よーし! 撃(て)ッ!」
砲手のかけ声にあわせて、垂がエネルギーを解放してスイッチを押すと、照準の先にあった築山が土煙を上げて吹き飛んだ。見守っていた生徒たちからため息が漏れる。
「朝霧、出力はどのくらい?」
「できるかぎり抑えたつもりなんですが……」
明花の問いに、自分でも驚いた表情で、垂は答える。
「これで、ですか。量産型機晶姫の比ではありませんな……」
青 野武が唸る。
「これは屋内では使えないわね。多分、パートナーが居るのと居ないのの差なんでしょうけど、パワーがあるのも良し悪しだわ」
明花は両手を腰に当てて息をつく。
「でも、実験は一応成功ね」
そう言われて、垂は膝の上のライゼを抱きしめた。
「頑張ったな、ライゼ」
「えへへ……」
照れたように笑うライゼの頭から、垂は冠を外してやった。ライゼは垂の胸にぐりぐりと頭をすりつけてなつく。垂は、にっこり笑ってライゼの頭を撫でた。
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