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ルペルカリア祭 恋人たちにユノの祝福を

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ルペルカリア祭 恋人たちにユノの祝福を

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 友人の結婚式に参列する風森 巽(かぜもり・たつみ)は、とても広い会場だと聞いていたので、余裕を持って早めに会場へやってきた。高校生のらしく礼服には着慣れた蒼学制服を選び、この時期の寒さをしのぐためにコートと大切な人から貰ったイニシャル入りマフラーを付けて、大聖堂の前で鐘楼を見上げていた。
「凄いな……いつか、こんな所で…………」
「あれ、風森?」
 わかりやすいぐらいに肩を跳ね上げて振り返れば、白いドレスを来た愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)。いつのまに自分の頭から抜け出て来たのだろうと驚いていると、ミサは巽が身につけているマフラーに気付いてはにかんだ。
「それ、使ってくれてるんだね。ありがとう」
「あ、うん。あったかいし、愛沢が作ってくれた物だし……愛沢こそ、そのペンダント」
 クリスマスプレゼントに贈った指輪を身につけてくれているのが嬉しくも恥ずかしくて、巽はミサから視線を逸らして思い耽る。いつか、先程思い描いていた花嫁姿のミサに指輪をつけることは出来るだろうかと。
「風森、どうしたの? 俺の格好、そんなに変かな」
「いやっ、そんなことないよ! 凄く綺麗で、花嫁さんみたいだなって……」
 巽に言われて、ふと思い出したようにミサは自分の服装を見る。特に派手な装飾もないシンプルなワンピース風のドレスだけれど、友人の席とは言え彼女が選んだのは白。改めて考えると、不適切だったかもしれない。
「ど、どうしよう風森! 俺、着替えなきゃ。せめて、ストールだけでも交換しないと」
「島村姐さんなら、そんなことで怒るような人じゃないよ」
「でも! 白は花嫁の色なのに……あなた色に染まりますって大切な意味があったはずで」
(愛沢が我色に染ま……っ!? って、違う違う!!)
 不安そうに俯くミサの手を引いて、巽は大丈夫だと言い聞かせるように笑う。その笑顔が、安心感と共に胸を高鳴らすから、ミサは友人であるはずの巽の顔をまともに見ることが出来なかった。
「落ち着いて、愛沢。今日はドレスの試着会があるはずだから、ストールくらいなら借りられるよ。もしかしたら、ゲスト用のドレスもあるかもしれないし……ね?」
「う、うん……」
 巽に言われると、不思議とどうにかなりそうで不安が晴れていく。安心出来るのに落ち着かないこの感じは、一体なんなのだろうか。
(確か、クリスマスのときもこんな感じで……この気持ちって、やっぱり友達じゃなく、好きって事……かな)
「式まで時間もあるし、挨拶は後回しだね。行こう愛沢」
 自分の手を引いて先を歩く巽の背中が、広く頼もしく感じる。ヒールを履いている今日なら背丈もそんなに変わらないはずなのに、そう思ってしまうのは、やはり異性として意識しているからだろうか。
(い、勢いで手を繋いじゃったけど、愛沢嫌がってないかな……)
 そんな不安を巽が感じていることなどミサが気付くはずもなく、2人は互いの緊張を隠したまま、衣装を借りられる場所へ向かうのだった。
 そうして、思い人が来るのを今か今かと待ちわびる迦具土 赫乃(かぐつち・あかの)の耳にバイクの音が聞こえてくる。きっと武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が来たのだと道の端を見れば、音が大きくなるにつれてハッキリと見えてくる。白いバイクに跨り、きっと重攻機 リュウライザー(じゅうこうき・りゅうらいざー)もパーツ合体して一緒に来ているのだろう。
「すまん、事件が思ったほど手こずって……待たせたか?」
 ケンリューガーの衣装のままバイクを降りる牙竜に駆け寄る赫乃は綺麗な白いカクテルドレスを纏い、このデートを楽しみにしていたことが伺えるが、このままではまるでヒーローに助けられたヒロインそのもの。結婚式場であるここでは、些か目立ちすぎてしまうだろう。
「少し、2人で待っててくれ、着替えられる場所が近くにないか探してくる」
 事件後に直行したので衣装のままだった牙竜は、適当な場所を探しに行ってしまい、残されたリュウライザーは緊張した面持ちの赫乃へ躊躇いがちに問いかけた。
「レディ、マスターのことを慕って頂けるのは嬉しいですが……大丈夫ですか?」
「なにがじゃ?」
「マスターは……決して悪気があるわけじゃないですが、鈍感な部分があります。レディにそれが堪えられるかどうか……」
 さりげなく伝えることが出来れば、それも良いのかもしれない。けれど、他の女の子のように相手からのアプローチを待つというのは、負けず嫌いな赫乃の性に合わなかったようだ。
「言わねば伝わらぬのは承知の上じゃ。このルペルカリア祭、妾にとって決戦の日ぞ!」
「……挫けず諦めないことです。押しも大事です。けれど、押しすぎないように。健闘をお祈りします」
 ぐっと拳を握り、決意を伝える赫乃にこれ以上言えることは何も無い。リュウライザーは彼女の強い思いを確認すると、中立姿勢で見守っていければと思うのだった。
「待たせたな。なんだ、イベントをやっていて着替えるところはいっぱいあるみたいだな? まあ動きやすいのが1番ってことで、リュウライザー」
 服を出せ、そう手を差し出す彼の後ろでは赫乃が何か言いたげにしているのが目に入り、荷物を手渡すのを思いとどまった。
「……おや? マスター、申し訳ありません。忘れてきてしまったようです」
「はぁ? どうすんだよ、遊園地ならともかくこんな町並みを楽しむような祭りじゃこの格好は浮くだろう」
「案ずるな牙竜、今日の催しは衣装の貸し出しがあるようじゃ。お主なら、似合うのではないかのう」
 それならば仕方がない。それしか手立てが無いのであれば、どんな民族衣装でも着るしかないだろうと牙竜は腹をくくる。どうやら彼は、ここが結婚式場であることに気付いてはいないようだ。
 そんな2人がどんなデートを繰り広げるのだろうと思いながら、リュウライザーは邪魔しないように駐車場へと1人バイクを移動させるのだった。



 式場の顔となるであろう大聖堂では、模擬ではなく正式な結婚式での申し込みがあり、その準備にスタッフは早朝から慌ただしく動いていた。というのも、世話になっている人の式だからと藍澤 黎(あいざわ・れい)が手抜かりが無いよう細かいところまで指示を出すので、スタッフも出来るだけ期待に応えねばと会場を飾り付けていた。知り合いの多い新郎新婦を祝う人が挨拶に後を絶たず、他のエリアとの兼ね合いもあるので開始までじかんがあるとみた黎は、高 漸麗(がお・じえんり)と2人で式の入退場のためのバイオリンと筑で奏でるを練習しはじめた。
 遠目でゴードン・リップルウッド(ごーどん・りっぷるうっど)が様子を見ていることに気づき、つい今朝作っていたブーケで自分と彼に似合う物などを想像していたことを思い出し慌てふためく面もみられるのだが、穏やかな時間が過ぎていった。
 しかし、来賓の待機室で静かに涙を流す遠野 歌菜(とおの・かな)の姿に、飲み物を運んできた譲葉 大和(ゆずりは・やまと)は心配そうに身を屈める。
「……どうしました? 歌菜がマリッジブルーになるのは、まだ早いかと思いますが」
 本当は、今日一緒に挙式しようかとも考えた。けれど、2人で話し合ってそう急ぐことはないと結論づけたのだから、彼女がそれで涙しているわけではないことはわかっている。けれどあえてそう聞いたのは、冗談めかして言えばなんでもないと虚勢を張らないのではないかという大和なりの優しさからだった。
「悲しいんじゃないの、幸姐さんが着替え終わったと聞いてご挨拶に言って……本当に綺麗だった」
 サムシングフォーの1つになればと、大和との思い出の品でもある銀糸の入った青いリボンも届けたくて、の部屋を訪れた。とても喜んでくれて、すぐに白いガーターへ結んでくれたこと、この日を心待ちにしていたこと、祝ってくれる仲間がいる幸せ……そんな話をしていたら、笑顔で送り出さないといけないのに大好きで尊敬している姐さんが遠くに行ってしまうような、でも凄く嬉しいのが伝わってきて式が始まる前から感動で胸一杯になってしまったような、上手く言い表すことが出来ない気持ちが言葉の代わりに涙となって溢れだしているんだと歌菜は言う。
「今からそんなに泣いてしまっては、最後までもちませんよ。少し、水分補給しませんか」
「ふふ、そうだね。このままだと、終わる頃には干からびちゃうね」
「それはありません。これ以上俺が歌菜を1人で泣かせるわけないでしょう? 気持ちを落ち着けなさい」
 そう言って優しく頭を撫でる大和に、恥ずかしいやら嬉しいやらでまた涙がこぼれそうになるけれど、この涙は式の最後に嬉し泣きするためにとっておこうと我慢する。
「ありがとう大和。ちょっと感傷的になっちゃってたね」
「お淑やかな歌菜もいいですが、やはりそうやって元気に笑っている歌菜の方が好きですね」
「……それって、お転婆だって言いたいの?」
 どうでしょう、なんて戯けながら笑うから、歌菜も少し拗ねたようにポカポカと大和の胸板を叩く。暫くそうじゃれ合っていると、大和が真剣な顔をして歌菜の手を取った。
「今日は、しっかりとお祝いして見学もさせて貰いましょう。歌菜が幸さん以上の幸せな花嫁になれるように」
「大和が隣に居てくれたら、それだけで誰よりも幸せな花嫁さんですよ」
「それは嬉しいですね。この喜びを幸さんたちにもお伝えしないと……」
「もう、大和っ!」
 やっといつもの調子に戻った。そう口にはしないけれど、大和は微笑みながら歌菜の機嫌をとりつつ、近い将来に必ず彼女を幸せにしようと、心の中で誓うのだった。
 そんな部屋の外では、パタパタと元気な足音が聞こえてくる。柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が可愛らしいドレスの裾を揺らして、廊下にある窓の前で物思いに耽る東條 カガチ(とうじょう・かがち)へと駆け寄ってきた。
「カガチ、見てみて! なぎさん、さっきより可愛くなったでしょ?」
「……は?」
 ありがたいことに自分は幸の父親役、そしてなぎこはリングガールとしてこの式に呼ばれたわけだが、パラミタで初めて仲良くなった彼女たちの式とあっては失礼があってはならないとカガチは紋付き袴、そしてなぎこにはドレスを着せてやった。だから、その服装もここで着替えたときに真っ先に見ているので、何がどう可愛くなったと言いたいのかさっぱりわからない。
「もー、わかんないの? カガチは本当になぎさんがいないとダメだね」
 女心がわからないんだから、と小学生の子供に怒られてもさっぱりわからなくて、やれやれとなぎこの前にしゃがみ込む。
「で、何が変わったんだ?」
「ここ! 幸おねえちゃんに口紅塗ってもらったの。お嫁さんらしくなった?」
 ああ、と納得のような同意のような曖昧な返事をして頭を撫でてやると、また外の景色に目を向ける。2人揃ってなんて大任を命じられたのやらという緊張と、ちょっとした寂しさ。隣では「幸おねえちゃんすっごいキレイだし、ガートナおじちゃんも凄くかっこよかったよ」なんてはしゃいでいるなぎこの声が聞こえてくるけれど、それは右から左に流れるだけでカガチは別のことを考えていた。
(化粧、してるんだろうなぁ。綺麗にめかし込んで、俺が見たこともないようなさっちゃんになっているに違いねぇ)
 全く想像も付かないけれど、早々と挨拶に行って本当の父親のように感極まってしまっても困るということにして、迎えに行く時間ギリギリまで顔を出さないと決めた。
 何故、そんな風に思ったのかはわからないけれど、なんとなく、としか自分も答えられない。
「それでね、みんななぎさんのこと可愛いって言ってくれてね…………カガチ?」
 最初は少し面倒そうな相づちが聞こえてきたのにそれすらなくなって、どうしたのかと見上げた先には上の空のまま外を見るカガチの姿。
(カガチ……なぎさん、ちょっとだけ気付いてたよ。カガチ本当は……)
 よくわからないけれど、今はそれを言ってはいけない気がする。けれど、このままだともっといけないと思い、なぎこはカガチの手を引いて併設されたレストランへと向かう。
「カガチ、なぎさん待ちくたびれてお腹空いた! 何か食べよう?」
「おいおい、口紅塗ってもらったって……」
「いーの、お腹空いたのっ!」
 しょうがない、と苦笑を漏らしてなぎこのあとをついて行く。わがままを言われたはずなのに、今はそれがなんとなく嬉しいと感じるカガチだった。