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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

リアクション

 
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「おやおや、うまくすれ違いになってよかったというところかな」
 草の螺旋階段の外を箒で降下していくペコ・フラワリーたちの姿を見て、メニエス・レイン(めにえす・れいん)はブラックコートの衿をちょっと立てなおして顔を隠した。
 生け簀襲撃のときに顔を覚えられている可能性があり、あまりゴチメイたちと正面から対峙するのは避けたかったのだ。夜のこともあり、そうそう特徴をつかまれたとは思えないが、用心するにこしたことはない。イルミンスール魔法学校を放校となった身としては、あまり目立つのはまずいのだ。
 人のいなくなった展望台に立つと、風が先ほどまでの空気を一掃するかのように吹きすぎていった。
「パラミタの空気は、やはり気持ちいいわね」
 うーんと深呼吸して、メニエス・レインは軽く目を細めた。
「この自然は、誰の物でもない。私の物だわ……」
 自らの王国、あるいは、自らの半身を愛おしむかのように、ぐるりと周囲を見渡す。放校されたとはいえ、イルミンスールからの眺めはやはり最高だ。
「どれ、次は森の様子を下のテラスで楽しみつつ、その後で、お久しぶりに図書室にでも忍び込もうかしら」
 見てみたい本がある。
 それを今のあたしに禁じることのできる者などいないと、メニエス・レインは軽く唇の端でほくそ笑んだ。
 
    ★    ★    ★
 
「だだっ広い部屋ですね。これは、訓練施設でしょうか」
 幹中央の修練場にやってきて、ジュノ・シェンノートは思わず感想を口にした。
「イルミンスールとしても、日々の戦闘訓練は欠かさないということなんだろう。さすがだ」
 室内を子細に見回しながら、ウォーレン・アルベルタは言った。シャンバラ教導団では珍しくもない訓練施設だが、他の学校でもちゃんと戦闘訓練をしているというのは心強い。
「備品もいろいろあるようですね」
 壁際に並んだ備品庫らしい扉の列を見て、ジュノ・シェンノートはその一つに近づいていった。
「鳥さん、ちょっと待て、そのむこうからなんか危険な香りが……」
 鼻をクンクンさせて、清時尭が注意をうながした。
「大丈夫ですよ。まさか、いきなり爆発したりはしないでしょう」
 そう言うと、ジュノ・シェンノートはゆっくりとドアを開けて言ってみた。
「!!」
 中をチラ見した瞬間に、即座にドアを閉める。
「どうした、ジュノ?」
 異変に素早く気がついて、ウォーレン・アルベルタが駆けつけてくる。
「いや、なんでもありません。さあ、他の場所に行きましょう」
 そう答えると、ジュノ・シェンノートはそそくさとその場を離れた。扉のむこうに、赤いうねうねがひしめき合っていたなどと、口が裂けても言えない。言いたくはない。
「枝の方に進みましょう」
「そうだな」
 あまり一つ所でぐずぐずしてもいられない。ウォーレン・アルベルタはジュノ・シェンノートに即答すると、清時尭をうながして、幹から枝の方へと進んでいった。
「こうやって並べられていると、壮観だぜ」
 通路の片側のラックにずらりと並べられた空飛ぶ箒を見て、清時尭が言った。この先に箒の発進場でもあるのだろうか。現在航空戦力を編成中のシャンバラ教導団にとっては、これだけの空中機動力は軽視できないものがある。ぜひとも参考にしたいものだ。
 さらに進んでいくと、枝が細くなって外に出た。枝の中を通路として進んでいくのは、このあたりが限界らしい。後は、枝の上を進めということなのだろう。
 天井裏への階段のような物をあがると、三人は枝の上に出た。今いる枝と他にもいくつかの枝先に支えられて、展望テラスのような物が樹形をなす外殻の下部にある。
「おや、またお客様のようですか」
 携帯用のティーポットを持ったサイアス・アマルナートが、やってきたウォーレン・アルベルタたちを見て言った。
「ゆっくりと休んでもいられないようですね」
 ケーキ皿に残ったイチゴを薄紅色の唇の中にしまって、アルゲオ・メルム(あるげお・めるむ)はゆっくりと立ちあがった。
「ああ、待ってください。私はまだです。先に捜すなんて……させない」
 最後の部分を、溜め息のようにうやむやに消し去りながらクエスティーナ・アリアが言った。急いで残っていたケーキを食べ終えると、勢いよく立ちあがる。
「あれ?」
 ちょっと勢いがよすぎて転けかけたが、すかさずサイアス・アマルナートがフォローに入った。
「お気をつけください、クエス」
「ありがと……」
 腰に回された手をそっと外すと、クエスティーナ・アリアはしゃんと立ちなおした。その間に、他の者たちはさっさと周囲を調べ始めている。
「ここからだと、本当に森の中という感じがするな」
 思いっきり森林浴をしながら、清時尭が言った。
「周囲を草木に囲まれているというのは、ヒラニプラからくらべれはうらやましい限りだ。だが、周囲に身を隠す場所が多いというのは、守るにもしてもいろいろと大変だろう」
 ウォーレン・アルベルタは、見える限りのデータをハンドヘルドコンピュータにインプットしていった。以前、この世界樹を巨大スライムが襲ったことがあったそうだが、またそんな事件でもあれば、今日のデータが役立つかもしれない。そのためにも、マップ作りへの協力は重要だ。
「本当。世界樹……大きくて、凄い。ゴチメイ……そのへんの木に引っかかってたら……いいのに」
 先端の手すりの所までやってきて、クエスティーナ・アリアが他の枝を見回しながら言った。
「そうですね。ここで目の前に現れてくれれば簡単なのですが」
 クエスティーナ・アリアの横に立ったアルゲオ・メルムが、ちょっと疲れたようにテラスの外へ視線をむけた。
「ひゃっほう!」
「もうじきですよ」
「早い早い早い!」
 なんとも騒がしく、いくつかの二人乗りの箒がテラスの外を急降下していった。その乗り手の中に、青いミニシルクハットを被った、ゴチックメイドドレスの娘の姿が見える。
「あら。先……こされてしまった」
 地上にむかう箒たちを目で追いながら、クエスティーナ・アリアはつぶやいた。
「もしもし、イオ? 見つけました。エントランスにむかってください」
 アルゲオ・メルムは、素早く携帯でパートナーのイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)へ連絡を入れた。
 
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「急がなければ、はあはあはあ……」
 マコト・闇音(まこと・やみね)は、クエスティーナ・アリアたちが後にしようとしている展望テラスをめざしていた。
 ところが、ここで問題になったのが日頃の運動不足である。なにしろ、ただでさえだだっ広い世界樹は、その構造上、無駄に上下移動が多い。もちろん、エレベータなどと言う文明の利器はないので、長距離移動は魔法の箒を利用して大通路を移動するか、己の体力を信じて足で進むかである。
 だが、箒で進んでよいことになっている通路はごくごく限られているし、今回はどこか端っこの方に迷い込んでしまったであろう人捜しである。これは己の体力に頼るしかなかった。
「ぜいぜいぜい、だめである、少し休ませて……」
 中央階段を何百段とのぼった所で、マコト・闇音は力尽きた。なんとか幹の中段部分まではやってこれたものの、これから枝の先まで這って行けというのは、彼女に死ねと言っているようなものである。
 そこへ、エントランスで待機しているメイコ・雷動から連絡が入った。
『頑張ってる、まこち。あの人たちが迷っちゃったのは、あたしらのせいにされてるかもしれないんだから、死ぬ気で頑張んなきゃ、だめだよ』
「わ、分かっておる……」
 ゼイゼイと荒い息で、マコト・闇音は答えた。
 死ぬ気で頑張るのと、死にかけているのは根本的に違う。まして、逆恨みで殺されるのもまっぴらである。
「とはいえ、今は休まねば無理であるな」
 通路に倒れていて踏まれるのも嫌なので、なんとか、修練場に入り込んで大の字になる。
『ああ! まこち、聞いてる? きたきたきた! ごめんなさい、あたしたちのせいでこんな目に遭わせてしまって、本当はですね……』
 再度現状確認の電話をかけてきたメイコ・雷動が、途中でなにやら叫び出す。どうやら、誰かがゴチメイを見つけてエントランスまでつれてきたようだ。
「よかった、これで休める……」
 マコト・闇音は、少しほっとして四肢をのばした。
 
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「イオ、あちらに知らぬ者の気配がある」
 展望台に辿り着いたフェリークス・モルス(ふぇりーくす・もるす)が、かすかな物音を耳にしてイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)に告げた。
「よし、さっそく捜すとするぞ」
 イーオン・アルカヌムが、バルコニーに駆けあがって言う。
「騒がしい。さっさと移動するとしようか」
 メニエス・レインは、ブラックコートを翻して、素早く反対側の階段から展望台を後にした。
「おかしい、見失った。逃げた?」
 フェリークス・モルスが、メニエス・レインの気配を見失ってつぶやいた。勘が鋭いと言ってはいるが、さすがに獣人のような超感覚を持ち合わせているわけではない。かすかな人の気配を感じるにも、限界はあった。
「逃げるわけはないだろう。もしかして、迷ってうろうろしているのかもしれないな」
 イーオン・アルカヌムがそう答えたとき、アルゲオ・メルムから連絡が入った。
「分かった。行くぞ、フェル。ペコはもうエントランスにむかったそうだ。出遅れてしまったらしい」
「えー、そうなんだ。せっかく張り切って長い階段をのぼってきたっていうのに」
 イーオン・アルカヌムの言葉を耳にした虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)が、身体を前に折り曲げてゼイゼイと荒い息で言った。慣れない世界樹の中を多少迷いながらなんとか頂上までやってきたのだが、これからまた下まで下りなければならないらしい。
「やれやれ……。しかたない、下りるか。他の人もまだどこかにいるかもしれないし」
 潔く諦めると、虎鶫涼は今来た道を戻り始めた。終わりよければすべてよし、マップ作成のかたわらに誰かを見つけられれば御の字だろう。
 
第4章 
 
「では、私たちは、予定通りジャワさんを捜しましょう」
「うむ、作戦どおりに行こうぞ」
 エントランスから外へと出てきたジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)の言葉に、ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)はうなずいた。
 先の遺跡探索のときのように、ジャワ・ディンブラ(じゃわ・でぃんぶら)はすぐ近くにいるに違いない。彼女とコンタクトがとれれば、携帯電話で直接ココ・カンパーニュと連絡がとれるはずだった。
 二人は世界樹の周囲を見回してみたが、地上にジャワ・ディンブラの姿は見あたらなかった。やはり、あまり人目のつかない所に身を隠しているらしい。
「予定通り、上から捜すしかなさそうであるな」
「ええ。そうしましょう」
 ここまでの事態は予想ずみだったジーナ・ユキノシタたちは、さっそく空飛ぶ箒にまたがって飛び上がった。頂点の展望台まであがれば、なんとか見つけることができるだろう。もちろん、枝と枝の間に身を隠されていたらそう簡単にはいかないが、それはまた次の段階である。
「ガイアスさんも、いつかは自分の翼で飛べるようになるときが来るのでしょうか」
 ちょっと寂しそうに、ジーナ・ユキノシタはガイアス・ミスファーンに訊ねた。
 今のガイアス・ミスファーンの姿からはまだ想像もできないが、ドラゴニュートである以上、いつかは成体に変態する。それが、まさに自分のそばから飛び去られてしまうことのように思えて、ジーナ・ユキノシタは、自分でもはっきりとは分からない不安を覚えていた。
「いつかはそうなるであろう。だが、それはまだまだ先の話だ」
 ガイアス・ミスファーンとしては、あまりその話題には興味がない。彼が成体になれるのはまだ何千年も先のことだ。そのころの彼が、ジーナ・ユキノシタにドラゴンとなった姿を見せることは叶わない夢だ。それを口にする理由も、勇気も、彼は未だ持ち合わせてはいない。
 枝を抜けて、世界樹の表層沿いに上昇していくと、やがて飛空挺の発着場が見えてきた。二人は参加していないが、夏合宿のときに美しい鳥形の飛空挺が到着した場所だ。今は、そこにジャワ・ディンブラが、自分の翼を休めていた。
「見つけました。むかいましょう」
 思ったよりも早く見つけることができ、二人は喜んで発着場へと下りていった。