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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

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ゴチメイ隊が行く2 メイジー・クレイジー

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第6章 
 
「それにしても、頭の痛いことだぜ。イルミン生以外が安易に世界樹の奧に入り込むからこういうことになるんだよ。まったく。生徒や下宿人だって、たまに迷うんだぜ。ド素人の他校生なんて、一発で遭難だ」
「だから、私たちが急いで捜してるんじゃない」
 悪態をつく高月 芳樹(たかつき・よしき)に、何をあたりまえのことをとアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)は言い返した。
 遭難者救助のピッカー部隊として風紀委員会から招集を受けたものの、こんなことが度々あったのではさすがに疲れてしまう。
「そうだな。これがお勤めだから、しかたないか」
 半ば諦めたように、高月芳樹は答えた。
「とりあえず、一番ごちゃごちゃしているのは倉庫街だろうから、そこへむかおう」
 足早に進む二人であったが、偶然かどうかは知らないが、同じ場所をめざす者は他にもいた。
「地図だと、幹で一番小部屋が多いのは倉庫だよね。マッパーとしては、ここは押さえるべき場所だから、きっと誰かが行っているに違いない」
 雑誌社の腕章をつけた高村 朗(たかむら・あきら)は、独自の理論で目星をつけ、倉庫へと急いだ。
「おかしい、確かこっちに逃げてきたと思ったんだよねー」
 ツァンダ近郊の遺跡から逃げたカリン党を追って、葛葉 明(くずのは・めい)は世界樹の内部までやってきていた。確かに、エントランスでカリン党イエローことナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)を見つけた気がしたのだが、いつの間にか見失ってしまっていた。
「まったく。ツァンダくんだりからずっと追いかけてきて、いつの間にかこんなとこまで来ちゃったし。だいたい、ナガン以外の二人はどこに行ったのよ。これじゃ、絶対に捕まえて賞金もらわなくっちゃ割にあわないわ」
 すでにナガン・ウェルロッドがパラ実生徒会から指名手配解除になっていることを葛葉明はまだ知らなかった。ともあれ、パラ実からは懸賞金を搾り取ることはできなくなっていたが、ナガンにかけられた懸賞金はまだ他にもある。
「やれやれ、みんな好き勝手に騒がしいことだぜ」
 立ち並ぶ倉庫の同じ形の扉を片端から開けて中を捜す他の者たちを見ながら、ラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)はつぶやいた。もっとも、そのラルク・クローディスも、自分の思いで行動している。
 彼としては、遺跡でシニストラ・ラウルスと闘った際に、己の未熟さを強く感じたからだ。あのときは集団戦であったため、敵も味方もタイマンというわけにはいかなかった。そのおかげで、ずいぶんと助けられた気がする。まして、敵にはシニストラ・ラウルスのさらに上をいくと思われるアルディミアク・ミトゥナという十二星華がいる。今のままでは、自分にどれだけのことができるだろうか。
 それゆえ、アルディミアク・ミトゥナと互角に闘ったココ・カンパーニュとぜひとも拳を交えてみたいという思いがあった。つべこべ言葉で教えを請うよりも、その方がどれだけ手っ取り早いことか。それに、それによって、自分の力量という物をあらためて計れるだろう。
「とはいえ、まずは相手を見つけて話をしなきゃならん」
 多少矛盾している気もするが、今はそういう状況だ。
「ああ、そこの部屋は封印中だから。前にスライムが異常増殖して被害者が出た所だから、開けないように」
 高村朗が扉を開けようとして鍵をガチャガチャさせているのを見て、高月芳樹が注意した。彼は、以前、大浴場でマジック・スライムにすっぽんぽんにされて懲りている。この倉庫は、事件後にスライムを隠匿しようとしたグループが自滅した場所だ。その後回収されたスライムは、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)校長たちが処分したということになっている。
 
「まいったなあ。ここはどこなのよ」
 捜索者たちが大声で名前を呼びながら捜しているとき、本人はどこかの倉庫の奥に迷い込んでしまっていた。
 廊下に並ぶ扉はどれも似たような物なのだが、その中は部屋ごとにかなり違っている。手をのばせば手が届く程度の用具置き場ほどの小さな物もあれば、何もないだだっ広い部屋のこともある。おいてある物も様々で、整然と棚におかれて整理されている場合もあれば、ガラクタ置き場かと思うほどにただ突っ込んだままに忘れ去られているような物もあった。
 今ココ・カンパーニュがいるのは、いくつかの小部屋が連なったかなり大きな倉庫だ。入ってすぐの場所はまだ整然と物がおかれていたのだが、奥の小部屋に移動していくにつれて、乱雑なガラクタ置き場になりはててしまっている。しかも、それらガラクタのおかげで、扉同士で繋がったいくつもの小部屋が迷路のようになってしまい、今どの部屋にいるのかがまったく分からなくなっていた。
「メイドとしては、こういう散らかった部屋はかたしたいところなんだけどなあ」
 勝手にいじってもいい物なのか分からなくて、ココ・カンパーニュは途方にくれた。だいたい、今はマッピングが仕事であり、部屋の片づけは仕事には含まれてはいない。いっそ、星拳ですべて吹っ飛ばしてしまえばすっきりしそうなものだが、さすがにそれはまずいだろう。
「だいたい、誰がこんなガラクタ集めたんだか」
 学校内の倉庫であるのだから、ここにある物は学校の備品だと思いたいが、なんともおいてある物に統一性がない。いや、一様に古びた物や壊れた物が多いことから、もしかしたら各地の遺跡から出土した物を未整理のまま保管しているのかもしれない。
「まったく、こんな罅の入った壺とか、いったいなんで取ってあるのやら。価値があるんだかないんだか、私にはさっぱり分からないや。おっとっと……」
 戯れに指先で弾いた壺が倒れて割れそうになるのを、ココ・カンパーニュはあわてて押さえた。ほっと一息ついたとたんに、別のガラクタたちがついに雪崩を起こした。連鎖反応的に、いくつもの小部屋で大きな音をたててガラクタが崩れる音がする。
「冗談じゃない、本当に遭難みたいじゃないか、これじゃあ」
 扉の前を埋めたガラクタをかき分けながら、ココ・カンパーニュは出口と思われる方に必死で進んでいった。何かがいくつか壊れたような気もするが、それはこの際無視することにする。
「ココさーん、そこにいるんですかー?」
 幸いなことに、物音を聞きつけて学生たちがココのいる部屋を特定してくれたらしい。
「おーい、こっちだ、こっちー」
「今行きまーす」
 大声で叫ぶと、返事がああった。
「やれやれ、これで助かっ……!」
 ほっと気が緩んだ瞬間、踏みつけたガラクタでバランスを崩して、ココ・カンパーニュは前につんのめった。あわてて何かをつかむが、運悪くカーテンか何かだったようで、そのていどでは勢いが止まらない。
「おお、こんな所に……ぐあっ」
 運悪く、駆けつけたラルク・クローディスが扉を開けて現れた。スキップを踏むかのように倒れ込んできたココ・カンパーニュをだきとめられたら、それは何かの始まりとなったのかもしれなかったが、現実は、思わず彼女が突き出した拳を顔面で受けとめてしまい、図らずも最初の拳の会話を交わすこととなってしまった。
「わ、悪い、大丈夫だったか?」
 パンチの反動でなんとか転ぶのをまぬがれたココ・カンパーニュは、代わりにもんどり打って倒れたラルク・クローディスに手を差しのばした。
「い、いや、これぐらい、たいしたことねえぜ。かすり傷ってところか」(V ダメージボイス)
 ココ・カンパーニュに軽々と巨体を引き上げられたラルク・クローディスが、虚勢を張った。
「みんな無事かー、いろんな意味で」
 わずかに遅れてやってきた高村朗が、人的被害と物的被害を確認しながら訊ねた。
「よかった。たいしたことはないようだな」
 壊滅的に壊れた物がないのを確認して、高村朗はほっと胸をなで下ろした。
「なあに、ここ、いろいろお宝が転がってるの? わあ、何、その絵」
 後ろから現れた葛葉明が、ココ・カンパーニュの背後を指さして叫んだ。
 その声に、一同があらためてそちらに注目する。
「絵だな。それにしても古いな。いったいなんの絵なんだ?」
 高月芳樹が、掛け布をココ・カンパーニュに剥ぎ取られて顕わになった大きなフレスコ画を見て言った。
 その絵の中央上には、光り輝く美しい女性が描かれていた。その下には、その光をそれぞれに浴びた十二人の娘たちが、集まって輝く女性を見あげている。
「イコンか何かかなあ。羽根みたいなのも見えるから、天使様光臨って感じ?」
 葛葉明が、第一印象を述べる。
「ヴァルキリーか、守護天使なのでしょうか」
 アメリア・ストークスが、自分の背中の翼をカサリと動かして言った。だが、フレスコ画の保存状態はかなり悪く、また写実画というよりは模式的なイメージで描かれているようで、具体的に誰の顔とは言い難かった。手には何か杖か武器のような物を持っていたようだが、その部分ははげ落ちてしまっている。だが、鎧姿で盾を持ち、マントを広げた女性の姿は実に神々しく描かれていた。
「もしかしたら、古王国の女王様かも」
 ふと思いついて、アメリア・ストークスが口にする。
「よくある、救世主現るという絵なのかな」
 ラルク・クローディスが、自分的なイメージで主題を想像した。そう見た場合、下に集まっている娘たちは、群衆か巫女といったところだろうか。
「それにしちゃ、みんな武器持ってるじゃない」
 よく見ようと、フレスコ画に顔を近づけてココ・カンパーニュが言った。
 あちこちはげてしまっているので、すべての武器も、すべての人物の容姿も部分的にしか分からないが、いくつかの武器はおぼろな形からなんであるかが分かる。
「どれどれ、これは両手剣かな、でっかいな。これは、セスタスか。爪が光ってるみたいだが……」
「こっちのはフォーク……、いいえトライデントみたいだわ」
 同じようにフレスコ画を凝視したラルク・クローディスとアメリア・ストークスが言った。
「じゃあ、端の方の人たちが持ってるのは杖かなあ。でも、片方は、巻紙みたいで、周りに渦巻きが描いてあるし。もう一つは、持ち方が杖っていう感じじゃないよねえ。筒かなんかみたいだし」
 まるでシルエットクイズだと、葛葉明が苦笑した。
 後判別できるのは、長い槍と、輝く両手……。
「似ている?」
 思わずつぶやいてしまうと、ココ・カンパーニュは自分の手を見つめた。顔の部分が完全に剥がれたその人物は、両手の甲の部分に光る物のついたグローブをしている。
「まさか、これって、十二星華と星剣って呼ばれている光条兵器じゃないのか?」
 ココ・カンパーニュの仕種を見逃さなかった高村朗が、そう言ってハンドヘルドコンピュータのデータを検索し始めた。クイーン・ヴァンガードが収集した情報の中に、現在判明している星剣の情報も入っている。
「リーブラの持つ星剣ビックディッパー、サダクビアの持つ星槍コーラルリーフ、獅子座の持つ星双剣グレートキャッツ、シャウラの持つ星銃パワーランチャー、アルレシャの持つ星槍サザンクロス、アルデバランの持つ星杖シナモンスティック、星弓はまだ封印を解かれていないみたいだけれど、後は……」
「アルディミアク・ミトゥナの持つ、星拳ジュエル・ブレーカーか」
 ココ・カンパーニュがつぶやいた。
「じゃあ、ココの持つ光条兵器はなんなんだ。星拳エレメント・ブレーカーっていうのも星剣なんじゃないのか?」
 ココたちに関わった者たちの一部がいだいている疑問を、ラルク・クローディスが口にした。
「そんなの、私に分かるわけないじゃないか。あれは、私が地球にいるパートナーからもらった大切な物だ!」
 ココ・カンパーニュが、ちょっと声を荒げていった。
「すまん」
 ラルク・クローディスが、小さく謝る。聞くべきことは時と場所を選ばなくとも、語られるべきことは時と場所を選ぶ。
「あっちは、ココちゃんが仇で、その星拳は奪われた物だって言ってるけど……」
 自分が密かにアルディミアク・ミトゥナと会ったことは伏せて、葛葉明が聞いた。
「それが、まったく覚えがないんだ。なんで、そんなことを言われなきゃならないのかまったく分からないし、それに……」
 そこまで言ってから、ココ・カンパーニュは言葉を濁してしまった。
「そこが大切……」
「それよりも、この娘たちが十二星華だとすると、考古学的には、この絵の意味がかなり変わってくると思うんだが。なあ」
 なおも突っ込んで聞こうとする葛葉明を制して、ラルク・クローディスが話題を変えた。ココ・カンパーニュを助けたということもあるが、考古学に明るい彼としては、この絵は非常に気になるのだ。
「話の腰が……。まあいいわ、あたしだって、ちょっと興味津々だもの」
 葛葉明が話に乗った。急いで警戒されてもまずいし、確かにこの絵の解釈はそれ次第で大きく意味が異なる。
「どういうことなんだ?」
 こういった遺物にピンとこない高月芳樹が聞き返した。日本の美術品や絵巻物などならまだしも、フレスコ画では専門外だ。
「つまりだ、十二星華っていうのは、女王候補を狙って取って代わろうって奴なんだろ。だとしたら、この絵は、女王にむかって命を狙って武器を突きつけているととれるわけだ」
「そうよね。でも、この絵は神々しくて、殺伐としたところがないし、もしイコンの一種だとしたら、どちらかというとあがめているというか、守護しているって感じかも」
「守護者と使徒って感じなのか?」
 二人の言葉に、よく分からないという感じで高村朗が頭をかかえた。この場合、どちらがそうだと言いきれないところが難しい。
「つまり、今は十二星華って言うのは二つに分かれて正反対のことをしているけれど、本当はひとまとまりで、どっちかの意志に統一されてたんじゃないかってことかなあ」
 無理矢理まとめてみようとするが、確証は何もない。
「それとは別に、上空の女王らしき人から下の各娘たちに光がのびて繋がっているだろ。色が褪せてしまっていて何色かはよく分からないが。これにも意味があると、俺の勘がビンビン言ってるんだが」
「まあ、考古学では、野生の勘が重要かつ実にいいかげんなこじつけの原因になるのはざらにあることなんだけどね」
 あてにはならないと、葛葉明がラルク・クローディスの言葉を一笑にふした。
 確かに、色あせて赤なのか青なのか白なのか分からない光が、女王らしき人物から、下の各人物や武器にむかって何かを分け与えるようにのびている。ただ、武器にものびていることから、下から光で攻撃しているともとれるかもしれない。どちらにしても、こじつけで曖昧だ。単なるデザインかもしれない。
「どちらにしろ、絵は絵なんだから、これ以上触って崩したら責任とれないからさあ、さっさとここからおさらばしよう」
 いいかげん頭が痛い会話になってきたと、ココ・カンパーニュが音(ね)をあげた。これ以上根掘り葉掘り聞かれても、ただでさえ頭がオーバーヒートしそうなので無理だ。それに、星拳エレメント・ブレーカーは、双星拳スター・ブレーカーに戻る必要はない。それに、もし誓いが違(たが)ったままなのだとしたら、二つの星拳は出会ってはいけない。それが、ココ・カンパーニュは怖かった。