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リアクション
★ ★ ★
「うおー、でかいじゃん。すげーじゃん。さあ、早く行こうじゃん」
エントランスの前で、首が折れるのではないかと思えるほど上をむいて世界樹を見あげたアンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)が、元気よく叫んだ。
「そんなにはしゃぐものではありませんことよ」
周囲の警戒を怠ることなく、ジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が、慎重な足捌きでアンドレ・マッセナに近づいていった。
「お義姉様、後ろは大丈夫ですわ」
ジュリエット・デスリンクの背後を守るようにして、ジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)が摺り足で進みながら言った。
「二人とも、何してるじゃん?」
怪訝そうな顔で、アンドレ・マッセナが、訊ねた。直後に、軽く上を見あげる。
「上ですの!」
「いやあ、赤いぼたぼたがぁ!」
それを見たデスリンク姉妹が悲鳴をあげて走り出した。
「どうしたん?」
あわてて後ろに隠れた二人に、戸惑い気味にアンドレ・マッセナが聞いた。いきなり盾にされるのもあれだが、敵がなんだかさっぱり分からない。そもそも、何か怖いものがここにいるのだろうか。
「大丈夫ですわ、お義姉様。今は、時季外れだそうですから」
「ええ。わたくしの殺気看破にも、何も感じられませんもの」
ほっとして、デスリンク姉妹が顔を見合わせる。
「まったく、なんという人騒がせなことをするんですの」
ジュリエット・デスリンクの怒りが、アンドレ・マッセナにむかった。
「だから、なんのことじゃん」
未だに、アンドレ・マッセナとしては、何がなんだか分からない。
「まったく、無知というものは困ったものですわね。いいですか、ここには、スライムが出るんですのよ」
ああ、恐ろしいと、ジュリエット・デスリンクが言った。
かつて、ビュリ・ピュリティアを訪ねて世界樹にやってきたデスリンク姉妹は、運悪く大量発生していたマジック・スライムに襲われて衆目にすっぽんぽんを晒すという、女性としては耐え難いトラウマをかかえていたのだった。
「気がついたら、イルミンの保健室でしたし、お土産の銘菓百合園饅頭は一つも残っていないし、もう散々な目に遭ったのですわ」
「それはそれは。……そのスライムって捕まえたら売れるかなあ」
ジュリエット・デスリンクの言葉を聞いたアンドレ・マッセナは、ちょっと考えてからそんなことを言いだした。
「なんて恐ろしい!」
ジュスティーヌ・デスリンクが悲鳴をあげる。
「かつて、それと同じことを考えた人は、ことごとくすっぽんぽんになって、玉のお肌や醜い物をさらけ出したのですよ。あなたも気をつけないといけませんわ」
力説されて、アンドレ・マッセナはチェッと小さく舌を鳴らした。
「とにかく、早くこの橇で上に行きましょう。空の上からなら、捜しやすいでしょうし、スライムもそこまではやってきませんわ」
ジュリエット・デスリンクが、二人を急かした。
実際にスライムの群れと死闘を繰り広げたわけではないので、二人は噴水やスプリンクラーから水圧を利用して飛んでくるスライムの恐ろしさをまだ知らないでいた。
そそくさとサンタのトナカイの牽く橇に乗り込むと、三人は一気に離陸した。
「枝の間を飛ぶのは無理でしょうから、いったん外へ参ります」
手綱を引いたジュスティーヌ・デスリンクが告げた。
そのまま低空を地面と平行に進んでから、反転して上をめざす。急激に高さが増した世界樹は、かつてのように枝を横に広く広げたというイメージは少し弱くなっている。それでも、その枝の広がる範囲は広大だ。
「ほんっと、大きいよねー」
あらためて、アンドレ・マッセナが感心する。
ヴァイシャリー湖の大きさにくらべれば、面積的にはまだまだ世界樹は小さいと言えるが、高さで言えば、世界樹に匹敵する構造物は空京に建設中のシャンバラ宮殿ぐらいしかない。
「あら、あそこに人が集まっていますわ。ヴァイシャリーで見たことのあるドラゴンもおりますわよ」
飛空挺発着場にいるジャワ・ディンブラを見つけたジュリエット・デスリンクが、そこに着陸するようにジュスティーヌ・デスリンクに言った。
「見つけましたよわ。これで、編集長から、ボーナスがたっぷり出ますわね」
発着場に着陸した橇から優雅に降り立ったジュリエット・デスリンクが言った。
「でも、ジャワさんは、行方不明者リストに入っておられませんけれど……」
愛用のメモを確認して、ジュスティーヌ・デスリンクが言った。
「なんだってぇ。それじゃダメダメじゃん」
ただ働きかよと、アンドレ・マッセナが唸る。
「まあ、お待ちなさい。こうして、ジャワさんを見つけられたのは大きな一歩ですわ。あの方から、ゴチメイの方々に携帯電話で連絡を入れていただければ……」
「それが、だめなのですわ」
自信満々のジュリエット・デスリンクの言葉に、狭山 珠樹(さやま・たまき)が申し訳なさそうに答えた。ジーナ・ユキノシタたちに前後して箒で飛空挺発着所に到着したのだが、ここで消息をつかめたのはジャワ・ディンブラだけであった。
「どういうことですの?」
理由を言いなさいと、ジュリエット・デスリンクが詰め寄った。
「ココは、携帯をほとんど使わないのだよ。光条兵器に収納する必要があるからなのと、基本的に電話が嫌いらしい」
少し面倒くさそうに、ジャワ・ディンブラが説明する。
「それは、迷惑なことですわね」
それでは、連絡のつけようがないではないかと、ジュリエット・デスリンクが憤慨する。
「やはり、虱潰し作戦しかありませんわね。行きますわよ、ジュスティーヌ、アンドレ。やはり、情報は足で稼ぐものですわ」
「でも、お義姉様、もし中にまたあれがいたら……。それに、もっとじっくり調べた方が……」
ちょっと、ジュスティーヌ・デスリンクが躊躇する。
「大丈夫ですわよ。こんなときのために、今回は盾がいるのですから。下手なハンドガンもスプレーショットすれば当たりますわ!」
そうジュスティーヌ・デスリンクに言うと、ジュスティーヌ・デスリンクは世界樹の中へと入っていった。その後を、あわてて二人のパートナーが追う。
「やれやれ、騒がしいことです」
入れ違うようにやってきた菅野 葉月(すがの・はづき)が、去っていくジュスティーヌ・デスリンクたちを振り返って言った。
「そうよね。せっかくの、ワタシと葉月のデートだっていうのに」
誰かに取られでもするのを防ぐかのように、ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が菅野葉月の腕にしっかりとしがみついて言った。
「違うでしょうに。今日の目的は、世界樹の地図作りと、人捜しです」
「いいじゃない、いいじゃない、デートと同じようなもんだもん」
あまりにも二人の目的が違うので、これはどう対処したらいいのかと、瞬間、菅野葉月が悩む。
「で、ここに、ペコさんたちはおられないのですね」
場の雰囲気を聡く感じて、菅野葉月が訊ねた。
「ええ。皆さんは、他の場所にバラバラに散っているようですわ」
狭山珠樹が、代表して答えた。
「じゃあ、また他の所を見て回れるね。葉月と一緒一緒♪ 今度は、もっと高い展望台がいいなあ」
ここが終点じゃないと分かって、ミーナ・コーミアが喜んで言った。
「しかたないですね。簡単にはいかないようです」
「じゃあ、元に戻って、上に行こうよ」
そう言うと、ミーナ・コーミアが、さっき渡ってきたのとは別の枝にむかって歩き出した。
「やれやれ」
目が離せないなと、菅野葉月はあわててその後を追った。
「その次は、カフェテリアでお茶を飲んでぇ、その後は、おっきいお風呂があるらしいから、そこで……きゃっ♪」
話し声の絶えないミーナ・コーミアたちを見送ると、狭山珠樹はゆっくりと腰をあげた。
「我も、ココさんを捜しに行きますわ。こういうバイトをすると分かっていたら、最初から同行して案内してさしあげましたのに。我の失敗ですわ」
「いや、それは、おぬしのせいではなかろう。みんな自由気ままだからな、好きにさせるのが一番であろう。そうではないのかな」
「我は、まだそう考えることができませんから。では、またお会いしたときに、お世話させていただきます」
そう言ってジャワ・ディンブラに一礼すると、狭山珠樹は倉庫の方にむかって歩き出した。
「ジャワさんは、ドラゴニュートとして、ずいぶん先を歩いておられるのですね。ドラゴニュート……、いえ、もうドラゴンとお呼びした方がよろしいのでしょうか」
人気の減った飛空挺発着所で、ジーナ・ユキノシタがジャワ・ディンブラに訊ねた。その質問に、思わずジャワ・ディンブラが大笑いする。
「我がドラゴンなどと名乗ったら、年長の者たちに大笑いされて、笑い声とともにもれた炎の息で、イルミンスールの森がすべて灰になるわ。まだまだ、そこのドラゴニュートの御仁の方が近しいと断言できるからな」
「ドラゴンに近づくことで意識が変化したりすることは……。あの、凄く失礼で申し訳ないんですけど、人を食べたくなったり、パラミタにくる飛行物体を攻撃したい衝動を感じたりとか、しませんでしたか」
「そなたは、いったいドラゴンをなんだと思っておるのだ?」
おそるおそる訊ねるジーナ・ユキノシタを、ジャワ・ディンブラが金色の目でギロリと睨んだ。そして、彼女のパートナーであるガイアス・ミスファーンに目をむける。
「我は、ジーナを食べたりはせぬぞ」
ガイアス・ミスファーンも、少し苦笑しながら言う。
「ドラゴンの変化は、長い時を必要とする。それが何を意味するか分かるかな?」
逆に訊ねられて、ジーナ・ユキノシタは考え込んだ。
「身体が成長するのに、それだけの時間が必要だからでしょうか」
おずおずと、ジーナ・ユキノシタが答える。
「成長に時間は必要だ。それは正しい。ただし、成長すべきは身体ではない、それはあくまでも副次的なものだ。我らにとって、真に成長すべきは心のありようなのだよ」
静かに、ジャワ・ディンブラが語った。
「考えてもみるがいい。なぜ、パラミタでも最強の生物を自負する我らドラゴン族が、まだ幼生のドラゴニュートとはいえ、人間などという生き物とパートナー契約を結ぶのかを。我らが求めるのは、ただ契約による力だけではないはずだ。我らドラゴンが成長するには、遙かな年月がかかる。だが、人は、それを速めてくれている存在だと我は思っている。すなわち、今のパラミタでは、パートナーこそが我らを成長させていると言っても過言ではないと思う。まあ、我も、ココと出会ってから初めてそう思うようになったのであるから、あまりえらそうなことは言えぬが」
ジャワ・ディンブラは、おかしそうに笑った。彼女の考えは、彼女だけの物かもしれないが、笑って語れるほどの話題であるといえる。
「先ほど、そこの御仁は、自分がドラゴンになった姿を見せることはないだろうと言っておったが、はたして本当にそうなのであろうかな」
そう言うと、ジャワ・ディンブラは、自らの身体を見せつけるかのように大きく翼を広げた。
第5章
「イルミンスールで迷うと言えば、言葉の迷宮。大図書室に決まってるよね」
確信を込めて、三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)は言った。
「決めつけるのはどうかと思いますわ。わたくし、図書室で迷ったことはありませんから……」
元気な三笠のぞみとは対照的に、しずしずと後をついていきながら、讃岐 赫映(さぬき・かぐや)が言った。
「えー、だって、赫映は図書室の座敷童って言われてるから。迷うはずが……」
「誰が、座敷童ですか。失礼ですね。ちゃんと注意していれば、整然とした図書室で迷うことなんでできません」
さすがに、讃岐赫映がちょっと怒ってみせる。
「うー、でも、迷う人は迷うよ。さー、早く捜しに行こ!」
「あっ、これ、廊下を走っては……」
待っていられないと走り出す三笠のぞみを、讃岐赫映はあわてて呼び止めた。だが、それで止まるような三笠のぞみではない。
「あなたが、迷子にならないでくださいねー」
「大丈夫ー」
距離を取りながらも、互いの位置を見失わないようにしながら、二人はそれぞれの速さで図書室をめざしていった。
「ついたー!」
重い防音扉を開けて、体操の着地ポーズをとるように両手を広げた三笠のぞみを、司書がギロリと睨んだ。
あわてて追いついた讃岐赫映が、三笠のぞみを押さえて、無言ですいませんと頭を下げて謝る。
「図書室……、やっぱり、素敵……」
すぐ後ろからやってきた漆髪月夜が、イルミンスール大図書室の中を見回して、うっとりと言った。
人の背丈の何倍もある本棚が林立する図書室の中は、それだけで本の森と言える凄さだ。高い所にある本を探すために、梯子を本棚にかけたり、魔法の箒で飛んでいたりする生徒たちの姿も見受けられる。
世界樹の形状に合わせてか、中央が閲覧ホールとなっており、椅子やテーブルが整然と並べられていた。そこから放射状に、本棚の壁が外へとむかってのびている。分類に従ってそれらの本棚の間に入って進んでいくと、広がった本棚の間に新しい本棚が現れ、左右にもう一段階分類が進むという形に蔵書が整理されている。
もちろん、今見えているのは第一閲覧室であり、一番一般的な書籍が収められている場所でしかない。他にも、特殊な専門書を収めた特別室や、閲覧権限がなければ入れない書庫などがいくつも存在し、その全貌は、ここの主と呼ばれている司書長しか把握していないと言われている。
「はあ、しあわせ〜」
独特の紙とインクの匂いに、讃岐赫映と漆髪月夜が悦に入って放心状態になる。
「うー、ちょっと何してるのよ。早く捜しましょうよ!」
大声を出す三笠のぞみに、周囲の人間が一斉にしーっと唇の前で指を立てた。
「どうするの。手分けして捜す? それとも……。あー、あたしこっち捜す!」
人よりも本の背表紙ばかりキョロキョロと見回す二人に愛想を尽かして、三笠のぞみが駆けだした。
「だめですよ、ここで走っては」
放ってはおけないと、讃岐赫映は後を追った。なし崩しに突き合わされる形で、漆髪月夜もついていく。
「早くおいでよ」
本棚の間をすり抜けながら、三笠のぞみが振り返って言った。その一瞬よそ見をした隙に、前方で本を読んでいた人影に突っ込んでしまう。
「あらあら、走ると危ないですわよー」
三笠のぞみをだき止めたチャイ・セイロン(ちゃい・せいろん)が、おっとりとした口調で注意した。
「あー、見つけたー」
「はいっ?」
歓声をあげる三笠のぞみに、チャイ・セイロンがきょとんとした顔をして言った。
「まあ、そうですの。そういえばあたし、図書室で遭難したことになってましたわねえ。ほほほほほ。つい、本の海に溺れてしまったものですからあ」
三笠のぞみたちに捜索隊のことを聞いたチャイ・セイロンは、ちょっとごまかすように答えた。珍しくかけている丸眼鏡を、ちょっと指先でなおす仕種をする。
図書室に来て迷ってしまったのは確かなのだが、そのまま本を読むことに夢中になってしまい、バイトのマッピングなど、ころっと忘れてしまっていたのだ。
「なにはともあれ、一安心ですね」
とにかく当面の目的を果たせたことに、讃岐赫映はほっと安堵した。
「さー、もどろー」
三笠のぞみを先頭に、チャイ・セイロンたちはとりあえず中央の閲覧ホールへとむかった。
「ところで、なんの本……読んでいたの?」
チャイ・セイロンが手に取っていた本に興味をいだいて、漆髪月夜が訊ねた。
「これですか? 昔のシャンバラ王国の本ですわ。当時の、王室の体制とか、いろいろ書いてありますのよ」
「王室に興味がおありですか?」
チャイ・セイロンの返事に、讃岐赫映が興味を持って訊ねた。
「ちょっと気になったものですから。十二星華という存在が……」
「それで、何か書いてありまして?」
「なあんにも」
あっけらかんと、チャイ・セイロンが讃岐赫映に答えた。
「それでは……」
役にたたないと、讃岐赫映が言いかけた。
「何も残されてはいないということが分かりましたあ。それも不自然なほどにい」
いつもの間延びした口調で言うが、そののんびりした口調とは裏腹に、言っている内容はのほほんとしたものではない。
アルディミアク・ミトゥナが名乗った十二星華という物には、何かしらの意味があるはずであった。意味のない言葉など、この世に存在しない。
奇しくも、同じ十二星華を名乗る者たちが、複数クイーン・ヴァンガードの前に立ちはだかっている、あるいは、クイーン・ヴァンガードの中にも、十二星華を名乗る者がいるという噂まである。
ところが、肝心の十二星華に関する記録のような物がまったくないのだった。まるで意図をもって抹消されたかのように。
ココ・カンパーニュの持つ星拳エレメントブレーカーと同等の特殊な光条兵器を持つ以上、まったく文献に登場しないというのは不自然だった。
つまりは、記録に残るとまずい存在であるということだ。存在してはいけない存在。あるいは、存在しないはずの存在。あるいは、本来存在しないはずなのに、存在させられた存在なのだろうか。いずれにしても、これではただの言葉遊びに等しい。
「歴史の闇に潜む者……なんていうところなんでしょうかねえ。ほほほほほ……」
「でも、その本、発行が二〇一五年なの……」
ごまかすように笑うチャイ・セイロンに、漆髪月夜が突っ込んだ。あらと、チャイ・セイロンがさらに苦笑する。
「いずれにしても、この短い時間では、すべての文献をあたるのは不可能でしょう。まだ調べてない文献に、何かの記述があるかもしれないですわ」
少し興味をそそられて、讃岐赫映がちょっと考え込んだ。
「この大図書室には、隠された秘密の書庫があると聞きますから。それを見つけだすことができれば、あるいは……」
「素敵……」
讃岐赫映の言葉に、漆髪月夜がうっとりとする。
「あら、でも、禁書の類は、禁書閲覧許可証のような物がなければ触ることもできないと思いますけれどお。それに、なんでもふるうい本は、自ら意志をもつなんてことも言われてますしい」
「魔道書……なの?」
「そんな名前でしたかしらあ。本が自らの意志でページを開かない限り、その真の内容は読み取れないみたいですしい。なかなか、難しいお相手のようですわよお」
「いつか、それもすべて読破したいものですわ」
話すうちに、ホールへと辿り着く。手に持っていた本を返却カートにおくと、チャイ・セイロンはちょっと休むように椅子に座った。
「あー、もう、のんびりしすぎ。早くエントランスに戻ろうよー」
くつろいでどうするのかと騒ぐ三笠のぞみを無視して、讃岐赫映と漆髪月夜も椅子に座った。
「あの、聞いてもよろしい……ですか?」
おずおずと、漆髪月夜が口を開いた。
「ココさんのパートナーのことなんですけれど。この間、生け簀には剣の花嫁はいなかったと思うんですけど、どこかでお留守番しているんですか?」
「さあ。そういうことは、あまりあたしたちは聞きませんし、話したがりもしませんからあ。でも、あたしたちも、リーダーのもう一人のパートナーは見たことがありませんからあ。きっと、地球にいるんじゃないでしようかあ」
ちょっと小首をかしげながら、チャイ・セイロンはそう思い出すように語った。
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