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リアクション
メニエスの暴走による混乱の最中、比島 真紀(ひしま・まき)は2体の剣の花嫁を持ち出そうと、棺へと駆け寄った。
できることなら覚醒してもらった方が警護がラクになる。
「眠れるお姫様よろしく、目覚めのキスが必要なのでは?」
そう推測したものの、実直勤勉な軍人である真紀にとって、それは途方もなく高い壁だった。
まさか初めてのキスが見ず知らずの相手となるとは思ってもみなかった。
せめて好みのタイプならば救われるのだが…。
真紀は期待と不安に胸を高鳴らせながら、棺の蓋に手をかけた。
石造りの棺の蓋は、常人には動かせないほど重いものであったが、ドラゴンアーツの怪力を使えば何て事はない。
ガタリ…という音とともに重い棺の蓋が床に落ちる。
棺の中を覗き込んだ瞬間、真紀の目が大きく見開かれた。
「え…?」
そこには頭から外套を被され顔が見えない剣の花嫁。
そして、花嫁を大切そうに抱きしめる変熊 仮面(へんくま・かめん)であった。
どうやら変熊は、呼雪たちが休戦交渉を行っている間を狙い棺の中に潜りこんだようだ。
不審者扱いされることが多い変熊だが、その顔立ちは意外にも麗しい。
きちんと制服を着た変熊は眠れる王子様に見えなくもないが。
やはり最初のキスの相手はもっと普通の人が良かった…別に変熊とキスをする必要性など全くないのだが、期待が大きかっただけに真紀の失望も大きい。
「…何で貴方がここにいるのです…」
「剣の花嫁は渡さん」
渡すも渡さないも、真紀は薔薇学に協力している立場である。
しかし、大河とアディーンが脱出する時間を稼ぐことだけに意識を集中していた変熊には、敵も味方も関係がなかった。
「ブルーノ先生、もう一体はお任せしました!」
これはあくまでもブラフである。
あのときブルーノに花嫁を救出する余裕などなかったことは変熊も分かっている。
しかし、敵が上手く騙されてくれれば、大河脱出のための囮になるだろう。
一度は師と仰いだ相手を囮に使うのは胸が痛むが、ブルーノならば分かってくれる…。
変熊はそう自分に言い聞かせた。
「渡さないっ!」
ヒ首を構え立ちふさがるロザリアスに、変熊は不敵に笑う。
「俺の必殺技をくらえっ! パンツ・リヴァース!!!」
またもや制服を脱ぎ捨てようとする変熊であったが、同じ技に再び引っかかるようなロザリアスではなかった。
要は変熊の下半身に目を向けなければ良いだけの話である。
視線を変熊の顔に固定したロザリアスは、迷いの欠片も見せずヒ首を振りかざす。
その横では、標的を変熊に定めたメニエスが、魔法を詠唱しはじめている。
もう逃げられない…そう覚悟を決めた変熊は遺跡の出口を見つめ、ぼそりと呟く。
「…大河よ、ここでお別れだ。ブルーノ先生、負傷の弟子をお許しください…」
パラミタに初めて来たときには、まさか自分がこんな場所で首を切られ、炎に焼かれ死ぬなんて思ってもみなかった。
もっと裸の素晴らしさを世間に知らしめしたかったし、イエニチェリにもなりたかった。
成し遂げたかったことのほとんどは実現しないままだったが、友のためこの身を捨てるのも悪くない。
目を閉じた変熊は、すぐそこまで迫った死の痛みを待った。
しかし、待てど暮らせど、その痛みはやってこない。
不審に思った変熊の耳元で聞き覚えのある声が響く。
「馬鹿なこと言ってんじゃねぇ」
「ブルーノ先生?!」
「大河たちはすでに脱出した。俺たちもさっさと逃げるぞ」
ブルーノは脇に抱えていた人物を変熊に突きつけた。
年の頃はアディーンと同年代に見える。
肩まで伸びた金の巻き毛に白磁の肌。
神々の彫像を彷彿とさせる美貌の男は、棺の中で変熊が抱えていた剣の花嫁であった。
間一髪で駆けつけたブルーノは右手で変熊の首を掴むと同時に、花嫁もまた救出していたのだった。
「ソイツはお前が背負っていけ」
変熊を庇って負ったのだろう。
ブルーノの背は焼けただれ、斬りつけられた深い傷があった。
メニエスが放った炎のお陰で、出血が止まっていることだけが救いではあったが。
平然とはしているが、ブルーノが光学迷彩を解除していることからも、その傷の深さが推し量れる。
しかし、心配したところでブルーノは「大丈夫だ」としか答えないだろう。
歯を食いしばった変熊は、師の傷ついた背中に向かって黙礼する。
「行きましょう。ブルーノ先生。早く大河たちと合流し、この島を脱出しなくては」
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