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リアクション
「ありがとう、レオンさん。私は薔薇学の人たちと合流するわ」
遺跡の前までやってくると、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はここまで案内してくれたレオンハルト・ルーヴェンドルフ(れおんはると・るーべんどるふ)に礼を言った。
ルカルカはこれから共に浮遊島までやってきた薔薇学生たちと合流するつもりだ。
レオンの真意を正した際に彼が口にした言葉をルカルカは「天魔を利用し反体制を纏めた上で中から枯らすため」と解釈した。それ故、彼女は「外から天魔を刈る」つもりである。
教導団に成果を報告する際に、レオンハルトの協力者に薔薇学勢に荷担している者がいなくては、彼に嫌疑をかける者も出てくるだろう。
「うむ。分かっていると思うが、私のことは他言せんようにな」
薔薇学勢に自分の存在が伝わってしまったことは今更どうしようもない。
せめてルカルカと自分の関係は、現時点において隠しておきたい。
あくまでも今回の件に関する責はすべて薔薇学勢に。
成果のみを教導団に持ち帰るためには、自分たちに関する情報の流出をできうる限り抑えなくてはならない。
ルカルカと別れたレオンハルトは、遺跡の入口に罠を作りはじめた。遺跡の入口を自然物を用いた罠で固めておく事で「遺跡に入る者」と「遺跡から逃げ出す者」の双方に被害が出る様謀るためだ。
黙々と罠を作るレオンハルトを、まんじりと監視していたのは、同じく教導団員の松平 岩造(まつだいら・がんぞう)と沙 鈴(しゃ・りん)だった。
「…なかなか接触しないな」
「あのように罠を作っている時点で、薔薇学生に危害を加えようとする意志があることは明確です」
レオンハルトは殺気看破のスキルを発動していたが、岩造たちは後をつけるだけで危害を加える意志はない。それ故、発見されずにすんでいたのだ。
しかし、物陰からレオンハルトを見つめていた人物は彼等だけではなかった。
第六天魔衆が盟主織田 信長(おだ・のぶなが)である。
「娘が身につけていた制服…あれは確か教導団のものか」
レオンハルトに向けられた信長の視線は険しい。
しかし、紬だされた言の葉はどこか楽しげでもあった。
「ここにも光秀がおった…ということかな」
人が集まり、力を得れば得るほど、その力を我が者にしようと企む者が出てくるのは当然である。
英霊として甦った信長は、臣下の一人、明智光秀が起こした天王寺の変で命を落とした際に、そのことを身をもって知った。
今更、驚くことではなかったし、初めから信用しきっていたわけでもない。
むしろ自らの野心に忠実でありながら爪が甘いレオンハルトが、可愛くすら思える。
このとき信長はレオンハルトを監視する教導団員の存在にも気が付いていた。
中の一人がカメラを構えている。レオンハルトが天魔衆の誰かと接触する機会を狙っていることは明らかだ。
レオンハルトは未だ気が付いていないようだが、新たな来訪者が近づいてくる気配もする。
信長は、食わぬ顔で藪から姿を現すと、レオンハルトに声をかけた。
「お主もこちらに参ったか」
「…これは信長殿?!」
「人が近づいてくる。身を隠した方が良いぞ」
驚きを隠せないレオンハルトの肩を叩きながら、信長は物陰に潜む岩造たちの方へと視線を向けた。
儂を撮るならば、格好良く撮らねば許さぬぞ。
信長の鋭い視線には、王者に相応しき矜持が宿っていた。
突然、雷が落ちたような音が響いた。
それと同時に、遺跡が大きく揺れる。
「なっ、なんですか?!」
慌ててライフルを構えた比島 真紀(ひしま・まき)とサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)は、素早く視線を走らせる。
「…ってぇ…」
事の張本人である国頭 武尊(くにがみ・たける)と猫井 又吉(ねこい・またきち)は、頭を抑えながらよろよろと立ち上がった。
雷に打たれたように全身が痺れている。
口を開くのも億劫だったが、苦笑いを浮かべながら、その場にいる全員に話しかける。
「よぉ、なんか見つけちまったみてぇだぜ」
遺跡の最深部に当たる壁に紋章のようなものが浮かび上がっていた。
紋章は一瞬、その光量を増したかと思うと、まるでヒューズが飛んだ電球のようにその光を失う。
その場には、何事もなかったかのように苔むした石造りの壁だけが残っているだけだ。
国頭を拒絶するように紋章が光ったことから、この壁の奥には秘密の部屋があるのは確かである。
思わぬ謎の紋章の出現に、それまで争っていた薔薇学勢と天魔衆の面々は、興が削がれた形となった。互いに顔を見合わせると、慎重な足取りで件の壁に近づいていく。
「…だが、元に戻ってしまったみたいだな」
緋桜 ケイ(ひおう・けい)は、紋章があった壁を拳でこんこんと叩く。
「ピッキングのスキルで開く類のものではない…な」
イルミンスールの魔法使いであるケイは、魔力の痕跡を探ってみたいと思った。
扉を閉ざし、衝撃のトラップを発動している正体が、何らかの魔法であるなら…何か気づくこともあるかもしれない。
それにあの紋章のようなものの存在も気になる。
『博識』のスキルと特技である『ルーン』、『錬金術』の知識から、該当する内容はないか思い出してみよう…とケイは思ったが、薔薇学生たちと対峙している今、悠長に調査などする余裕などあるわけもない。
せめてこの場は休戦としたい所だ…そう思ったケイは、チラリとその場にいる薔薇学生たちに視線を向ける。
すると、薔薇学生の一人スレヴィ・ユシライネン(すれう゛ぃ・ゆしらいねん)が、肩をすくめながらケイに話しかけてきた。
「良かったら一時休戦にしない? 君たちはどうやらこの遺跡に興味があるようだし。このまま無駄に争ってダブルノックアウト…なんて笑えないよ?」
スレヴィもまたケイ同様に遺跡の最深部に興味があるようだ。
新たに開いた入口の奥に島の所有者であることの証になる何かがあるのではと思ったからだ。
「私も休戦には賛成だ」
スレヴィの同意して見せたのは天魔衆の一人、イリーナ・セルベリア(いりーな・せるべりあ)である。
同じく教導団のルカルカがこちらに向かっているとの連絡をもらっていた。通信機代わりになったのは、共に遺跡にやってきた、レオンハルトのパートナーシルヴァ・アンスウェラー(しるば・あんすうぇらー)である。
レオンハルトの話では、ルカルカは薔薇学勢に身をおいている立場を活かし、自分たちに協力してくれるという。
あくまでも囮調査として天魔衆に荷担しているイリーナである。
些か虫の良い話だが、薔薇学勢と敵対するつもりはない。
それだけにルカルカがこちらに到着するまで、時間を稼ぎたいところだった。
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