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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

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ゴチメイ隊が行く3 オートマチック・オールドマジック

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
『ただいま園内に小ババ様が出没しています。もし見かけましたら、駆除するか、最寄りの職員に連絡してください。なお、決して持ち帰ったりしないでください』
 放送部員の平坦な声で校内放送が鳴り響いた。今朝から何度も同じ内容のものが流されている。
「まったく、せっかくXサーバーに注意するように助言してあげたのに、ほとんど無視されるなんて、いくら大変なときだからって、これだから蒼学は……」
 愚痴りながら、ナナ・ノルデン(なな・のるでん)は校舎の中を足早に校庭へとむかっていた。
「ファイヤー・ウォールは完璧だなんて過信しすぎだよね」
 神崎 遥(かんざき・はるか)と共にナナ・ノルデンの横を歩きながら、ズィーベン・ズューデン(ずぃーべん・ずゅーでん)もぼやいた。
 もともとXサーバーは所在すら極秘で、極少数の人間しか近づけない。しかも、御神楽 環菜(みかぐら・かんな)がいなくなったため、稼働はしているとはいえ、管理権限は非常に不安定な状況にある。
 また、新校長として山葉涼司が事態収拾に本腰を入れたということもあった。最初は小ババ様への個人的恨みから駆除に走り回っていた山葉涼司であったのだが、さすがに目先のことで走り回ってはいけないと気づいて、今はXサーバー関係のラインの保全のために動いていた。
 ナナ・ノルデンたちが門前払いされたのも、すでに態勢が整っているところへ部外者を関与させたくなかったからだ。相手が小ババ様の発展型だと考えた彼らは、当然物理的ラインの寸断を脅威と考えて行動していた。それ以外は後回しにされたのである。
「話では、ケーブルにはまだたいした被害がでていないらしいけれど、それはおかしいわよね。大量の小ババ様がいるんだったら、あっちこっちで光ケーブルが食べられて回線が寸断されるはずなのに」
 そこからすでにおかしいと感じなければならないのにとナナ・ノルデンは言った。
「とにかく、イベントをやっているときに小ババ様が現れるなんてできすぎよ。他にもそう感じてる人は多いみたいだし。小ババ様を隠れ蓑にして何かを企んでいる者がいるはずだわ。特に、イルミンに罪をなすりつけようと思っているとしたらねえ」
 そう言って、ナナ・ノルデンが暗にズィーベン・ズューデンに同意を求めた。
「まあ、イルミンにちょっかい出して未だに逃げおおせているってのは、そうたくさんはいないもんね。特に、アイテムを使ってちまちま攻撃してくるのはねえ」
 ズィーベン・ズューデンも、ナナ・ノルデンにおおむね同意する。
「ナナたちが言っているオプシディアンとか言う人たちは会ったことがないのでなんとも言えないけれど、近くまで行って認識できれば、何かつかめるかもしれないよ」
 神崎遥が、周囲に気を配りながら言った。もっとも、ナナ・ノルデンたちも相手の素顔を見たことはない。だからこそ調べるのだ。
 校舎の外に出ると、校庭に広がるテント群が嫌でも目に白く入ってきた。イベント開始を待っている生徒たちが、わいわいと楽しそうに集まっている。ぱっと見た目には、小ババ様のことなど気にもしていないようだ。
 さすがに、前回の小ババ様騒動で、無差別に駆除を行って同士討ちをした経験が心に刻まれているらしい。特に、未だに根強い小ババ様保護団体との無意味な対決は避けたいというのが本音だろうか。
「いたいた。あの三人が、ロボットを持ち込んだんだよね」
 白衣の男たちの姿を認めるとズィーベン・ズューデンがディテクトエビルで彼らを調べた。
「なんとなく真っ黒……」
 ちょっと曖昧に、ズィーベン・ズューデンが言った。悪意はあるのだが、特定の誰かにむけられているわけではないので、今ひとつ曖昧だ。
「充分よ。遥と一緒に見張ってるわ」
「じゃ、ボクは校舎の中に戻って小ババ様を探してみるよね。あんなメイドロボとか作るくらいだから、小ババ様も生き物じゃないかもしれないし」
「気をつけてね。自爆するかもしれないから」
 そう注意をうながすと、ナナ・ノルデンはズィーベン・ズューデンを送り出した。
「私は機械をチェックしますね」
 神崎遥は見物人を装って、三人の方に近づいていった。
 長机の上には、ノートパソコンとメイドロボットのコントローラーらしき物がおいてある。神崎遥はそれらを記憶していった。
「凄いですねー。ついに地球製の機晶姫が誕生なんですか?」
「いえいえ、とんでもない。パラミタの機晶姫とくらべたら、私たちのメイドロボットなどまだまだ玩具ですよ」
 ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)に声をかけられて、ジェイドがお約束通りに謙遜する。
「あー、まだコントローラーで動かしてるんだもん?」
 三笠 のぞみ(みかさ・のぞみ)が、物珍しそうに話に割り込んできた。
 机の上におかれたコントローラーは、円筒を四分の一にしたような形で、左右に取っ手がついており、二本のレバーと三つのボタンがついているだけのシンプルな物だった。
「よくそんなんで動くよなあ」
 少し呆れたように雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)が言う。
「基本パターンは登録済みですから。それに、レバーとボタンの組み合わせでも、連続コマンドならパターンは無限大です。あ、ちなみに僕のは腕時計型の音声命令式です」
 アクアマリンが自慢げに答える。
「そんなのならまだ言い。俺のなんかゲームパッドだぞ」
 ものすごく不満そうにオプシディアンが言った。とはいえ、この中では一番まともに操縦できそうな気がする。
「凄いですねー。私も一つをほしいなあ」
「お買い上げでしたら、コンテスト後に御商談におうかがいいたしますので。今日は、デモンストレーションですから」
 物欲しそうなソア・ウェンボリスに、ジェイドが愛想よく答えた。その声にどこか聞き覚えがあるソア・ウェンボリスだったが、今ひとつはっきりとしない。
「うー、いったいどういう構造なのか興味があるよね」
 三笠のぞみは、メイドロボットに近づくとスカートをめくって中を確かめようとした。
「エッチなのはいけないと思います。中は、多段型無限軌道ですので見ちゃうと幻滅しちゃいますよ。それに、販売が決まるまでは企業秘密ですから」
 アクアマリンが、あわてて三笠のぞみをメイドロボットから遠ざけた。
「商品にはお手を触れないようにお願いします。触らなければ見ても構いませんけれど。あ、機材室には入ってはだめですよ。ちゃんとセキュリティがありますので。一応注意しておきますが」
 さりげなく、自分たちの周囲でちょろちょろする学生たちをジェイドが牽制した。
 すぐ近くに、件の機材室があるのだが、暗幕でしっかりと覆われていて、中に何があるのかははっきりとは分からない。
「そろそろ競技を始めますので、皆様移動してくださーい」
 競技開始時間が近づいたので、大谷文美がジェイドたちを呼びにきた。
「では、正々堂々と勝負しますか」
 楽しそうにジェイドが言い、三体のメイドロボットと共に着せ替え勝負用のテントへと移動しようとした。
「ちょっと待つですぅ。そこの怪しい三人組ぃ」
 突然、神代 明日香(かみしろ・あすか)がジェイドたちの前に立ち塞がった。
「いや、突然現れて怪しいと言われましても……」
 ちょっと困ったふうを装ってジェイドが言った。
「怪しいから怪しいと言ったんですぅ。だいたい、なぜ、あなたたちのイベントに合わせて小ババ様が暴れているんですぅ? あなたたちが持ち込んだに決まっています」
「さすがにその言いがかりはちょっと……」
 わざとらしくジェイドが苦笑した。言いがかりかどうかは、じきに分かるかもしれない。
「小ババ様とかいう謎生物には、私たちも困っているのですよ。なんでも、光ケーブルを食べるというではありませんか。できれば、本社から随時データを引き出したいのですが、どうにも無線LANにノイズが乗るようでして、うまくいかないんですよ。今回、完全にマニュアル操作となっているのもそのせいでして……。できれば、あなた方のお力で、小ババ様とかいう物を駆除してはいただけませんでしょうか」
 逆に頼み込まれて、ちょっと神代明日香が引く。
「何を言ってるんですぅ。小ババ様はあなたたちが持ち込んだに決まっていますぅ」
「自分で自分の首を絞めてどうするんですか。ユビキタスが使えれば、完全自立行動がとれるというのに」
「しらをきるなんて……」
「まあまあまあま、くまったことになってるようだが、証拠がいるだろう」
 雪国ベアが、わざとらしく間に入ってかき回そうとする。もちろん、陽動だ。
「困りましたねえ。コンテストを開始したいのですが。あまり邪魔をするようでしたら、学園に言って警備の方々を……」
 さすがに、困ったように、ジェイドが言いかける。そのとき、突然機材室から大きな物音が響いた。