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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)

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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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リアクション

 

強奪

 
 
 模擬戦会場が収拾つかなくなっているころ、メイン会場の方でも混乱が広がりつつあった。
「なんだって、怪しい仮面の者たちがあちこちに出没してるって? さっそく連絡を……」
 ヴィゼント・ショートホーンが、あわてて警備にあたっている者たちに連絡する。
「そうか。奴ら堂々と現れやがったか。む、あそこか。貴様、そこのマントの男だ、止まれ!」
 さっそく怪しいマントの男を見つけたラルク・クローディスが、警告を発した。だが、男は止まるどころか、走って逃げだそうとする。
「警告はしたからな! くらいやがれ!!
 周囲の一般人たちが、ただならぬ雰囲気に左右に逃げるのを確認して、ラルク・クローディスがドラゴンアーツを放った。
 直撃を受けた男が倒れ込む。
「まったく、手間をかけさせやがって……。なんだ、これは!?」
 素早く駆け寄ったラルク・クローディスであったが、昏倒させたはずの男の身体が、彼の目の前で霧となって消えてしまった。
「何か、魔法でもかけているのか!?」
 すぐに周囲の殺気を探ってみるが、敵意はどこにも感じられない。肉眼で見回すと、離れた場所を黒マントの人影が走り去っていった。
「いつの間に……。逃がすか!」
 ラルク・クローディスは、急いでその後を追いかけていった。
 
    ★    ★    ★
 
「何か、異変でも起きているのか?」
 怪訝そうに、樹月刀真が顔を顰めた。警戒するような連絡や、不審者発見の報告がさっきから縦横に飛び交っている。だが、禁猟区には何も反応がないのだ。
「敵意のない敵など存在するのか?」
 そう樹月刀真がつぶやいたとき、一斉に反応が現れた。天御柱学院、空京大学、百合園女学院、葦原明倫館、シャンバラ教導団、薔薇の学舎のブースから異常を感じる。
「一気に仕掛けてきたか」
 どこにむかうか迷ったところへ、すぐそばを黒いマントに身をつつんだ仮面の男が通りすぎていった。
「追うぞ、月夜!」
 即座に、樹月刀真が後を追う。それに合わせるようにして、漆髪月夜が回り込んだ。
「……押さえよ」
 命じられた機晶犬が、素早くマントの男に飛びかかった。そのとたん、男の姿が霧と消える。
「しまった、囮か! 狙いはイコンか!?」
 樹月刀真は、急いで手近な百合園女学院のブースにむかおうとした。だが、その前に、別の黒衣の男が立ちはだかる。その周囲には、魔導球が飛び回っていた。
「月夜、剣を! 少なくとも、飛んでる奴は本物だ」
 漆髪月夜がら黒の剣を取り出すと、樹月刀真は身構えた。
 
    ★    ★    ★
 
「あれは、オプシディアン?」
 黒いマントに、のっぺりとした仮面の男たちを見つけて、ナナ・ノルデンが身構えた。すぐにイルミンスール魔法学校のブースを離れて追いかけようとするところへ、ズィーベン・ズューデンが戻ってくる。
「待って、ナナ。なんだか、偽物がたくさん徘徊してるって連絡が!」
 ヴィゼント・ショートホーンから入ってきた情報を受けて、ズィーベン・ズューデンがあわてて戻ってきたのだった。どうやら、あちこちで、多数の不審者が徘徊しているらしい。
「陽動ということ? だったら、ここを離れたら敵の思うつぼなのかしら」
 逡巡しつつも、ナナ・ノルデンはズィーベン・ズューデンと共に、アルマインのそばに踏みとどまった。
 
    ★    ★    ★
 
「なんだか騒がしいわねえ」
 会場の雰囲気が変わったことに気づいて、蒼空学園のブースでキャンギャルをしていたリカイン・フェルマータが、ちょっと不安そうに周囲を見回した。そこへ、ヴィゼント・ショートホーンが連絡が入る。
『とにかく、何が起こるか分からないので、迂闊に動かないで警戒してくだせえ』
「分かったわ。でも、いったい何が起こっているのかしら……」
 携帯のむこうのヴィゼント・ショートホーンに答えると、リカイン・フェルマータは背後にそびえ立つイーグリット・アサルトを見あげた。
 そこへ空京稲荷狐樹廊が戻ってくる。
「ここへ、メカ小ババが来ませんでしたか?」
 どうやら、メカ小ババ様の姿を見つけて追いかけてきたのだが、これもまた霧で作られた偽物だったようで、手がかりを求めてリカイン・フェルマータと合流しに来たらしい。
「よくは分からないけれど、迂闊には動かない方がいいわね」
 リカイン・フェルマータはそう言うと、蒼空学園のブースを守ることにした。
 
    ★    ★    ★
 
「待って、誰がイコンを動かしているの?」
 突然動きだしたシパーヒーを見て、水無月睡蓮が叫んだ。
 各学校のブースのあるメイン展示会場では、基本的にイコンは無人のはずだ。大会開催中は、そのエリアでイコンを動かす予定はない。
 薔薇の学舎のブースの者たちも、何やら激しくあわてている。
「まさか、イコンが強奪されたのでは……。急いで羽々斬丸の所へ戻るわよ」
 鉄九頭切丸をうながすと、水無月睡蓮は走りだした。幸いにして、羽々斬丸はメインブースに一番近い場所にある。
 携帯で暗証番号を入力すると、コックピットハッチが開く。鉄九頭切丸が水無月睡蓮をだきかかえて、一気にハッチまで飛びあがった。
「すぐに出すわよ!」
 コックピットハッチが閉まる間に、二人がパイロットシートに着く。体形にぴったり合わせたシートに水無月睡蓮が身を沈める。背後では、鉄九頭切丸が体形のままのくぼみがある操縦シートに身を押しつけた。ガチャガチャと音をたてて、いくつものフックが鉄九頭切丸の身体をシートに固定すると共に電気的接続をはたす。固定が完了すると、シートがスライドして水無月睡蓮のシートの後ろに合体して一体化した。
 ピアノの鍵盤をなでるかのように水無月睡蓮がコンソールのスイッチ群をオンにしていくと、モニタに次々と「良」の文字が浮かんでは消えていく。
「羽々斬丸、出ます!」
 水無月睡蓮が、羽々斬丸を発進させた。
「皆さん、危険ですから避難してくださーい」
 イナ・インバースが、メインブースから個人ブースへと人々を避難誘導している。
『動きだしたイコンは、私が押さえますので、避難誘導お願いします』
 イナ・インバースのそばを通りすぎながら、水無月睡蓮が外部スピーカーを使って告げた。
「こ、これは、イコン同士のガチバトルが見られる!?」
 ちょっと邪な期待を感じて、イナ・インバースが目を輝かせた。
「やれやれ、簡単すぎると思ったが、即応できる者もまだ残っていたと見えるな」
「ゴパ」
 シパーヒーのコクピットの中で、オプシディアンが感心したような、胡散臭そうな顔をして言った。サブパイロット席には、メカ小ババ様が形だけサポートメカとして鎮座している。
「そこのイコン、おとなしく止まりなさい」
「そう言われて、従う馬鹿もいないだろうが」
 水無月睡蓮の呼びかけを一笑に伏すと、オプシディアンがレイピアを抜き放った。展示物なので武器といってもこの程度しかついていないが、とりあえずは充分だろう。
「少しぐらいなら、壊しても怒られないわよね。怒られませんように……」
 呪文のようにつぶやくと、水無月睡蓮が羽々斬丸に鬼刀を抜かせた。
 オプシディアンの乗ったシパーヒーが、まっすぐむかってくる。
 羽々斬丸が、大上段から鬼刀を正面のシパーヒーにむかって振り下ろした。
 正確な狙いで、シパーヒーの腕が切り落とされるかに思えたとき、ふいにシパーヒーが真横に移動した。腰部のスラスターで急激な横移動をしたのだ。狙いを外した鬼刀がむなしく地面を抉る。
「正確だが、大振りな動きだ。予測も回避もしやすい」
 横に回り込んだオプシディアンが、レイピアの切っ先を羽々斬丸の装甲の隙間に突き込んで、関節部を破壊した。
 外的損害を見せずに、一瞬で羽々斬丸の右腕が役にたたなくなる。
 さらに素早く背後に回り込んだシパーヒーが、羽々斬丸の膝裏に連続して突きを入れた。あっという間に活動不能にされた羽々斬丸が擱坐した。
「おや、もう終わってしまったのですか。つまらない」
 アルジュナをあっさりと強奪してきたジェイドが、オプシディアンに言った。比較的警備の薄いイコンの中から、それぞれが気に入った物を強奪してきたらしい。
「遊びじゃないんだぞ」
 オプシディアンが釘を刺す。
「遊びですよ。面白い面白い遊びです。そうでなきゃやってられないじゃないですか」
 いけしゃあしゃあとジェイドが答えた。
「相変わらずだな」
 そう言うと、オプシディアンがイコンサイズの巨大な黒曜石の鏡を作りだした。
「行くぞ」
 そううながすと、ジェイドの乗るアルジュナと共に、シパーヒーがその中に入っていった。二機のイコンを呑み込むと、その鏡は霞み始め、現れたときと同様に忽然と消えてしまった。