校長室
イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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★ ★ ★ 「お待たせしましたー」 「遅いー」 焔虎を強奪してきたアクアマリンを、キラーラビットに乗ったエメラルドが迎えた。 「そこまでだ。もう逃げられないのだよ」 そこへ、有栖川美幸と合流した綺雲菜織の不知火が駆けつけた。 「そちらには、弾薬は搭載されていないのであろう。おとなしく投降するのだよ」 綺雲菜織が、アクアマリンたちに投降を呼びかけた。 「それはいいけれど、後ろがあ、お留守ですよー」 少しも動じずに、エメラルドが言い返す。 「菜織様、後ろに敵が!」 外周モニタを監視していた有栖川美幸が叫んだ。いつの間にか背後に、ヤークトヴァラヌスがいる。 「なんで、こんな物がここにいるのだ!?」 今にも襲いかかってこようとしているヤークトヴァラヌスに、不知火が電光石火でビームサーベルを抜いて一閃させた。 みごとヤークトヴァラヌスを横一文字に切り裂いたかと思ったとたん、その姿が映像のように乱れて霧と化した。そのまま、形を失った霧は流れるようにして逃げて行った。 「偽物!?」 ヤークトヴァラヌスがいた場所には、小さな小瓶が割れて落ちていただけであった。 「じゃあ、またね」 エメラルドの声にあわてて振り返ると、百合園女学院のブースが水浸しの池と化していて、すでにキラーラビットにまたがった焔虎が、ほとんど没しようとしているところだった。 「逃がしはしないのだよ!」 不知火が、アサルトライフルを放った。だが、焔虎の頭部に命中した物はペイント弾だ。まさか、転送術を使って盗んだイコンを運び去るとは思っていなかったのだ。 「これでは、追跡できません」 有栖川美幸が悔しげな声をあげた。磁気塗料の反応も、距離的には大したことはない。 水の中に消えていった二機のイコンを、綺雲菜織は苦々しげに見送るしかなかった。 ★ ★ ★ 「誰か、仕掛けてきたようですね。エクス、このまま無人のふりをして、荒人に敵を引き寄せてつかまえますよ」 「了解したのだよ」 葦原明倫館に展示してある雷火の中で、紫月唯斗とエクス・シュペルティアは、じっと敵を待ち構えた。情報では、いくつかのイコンが強奪されたらしい。だが、もしもこの雷火が無人だと思って犯人の一味が乗り込もうとしてくれば、それはこちらの思うつぼだ。コックピットハッチを開かれる前にイコンの手でつかむか、ハッチが開いたときに不意打ちすれば逃げようもなく捕獲できるだろう。 じっと罠をはって紫月唯斗が待ち構えていたときだった。突然、葦原明倫館ブースの裏手で資材置き場の紅白の幌が大きくうねった。 強奪されたイコンがやってきたのかと、紫月唯斗が身構える。そのとき、突然、幌が翻って荒人の視界を被った。 「くっ」 無人のふりをするのは諦めて、紫月唯斗が荒人のマニュピレータで幌を取り払った。 「敵はどこです?」 「0時方向、真上なのだ!」 センサーを見たエクス・シュペルティアが叫んだ。 あろうことか、荒人の頭の上に、イコンが立っていた。腕を組んだまま、まるで重さがないかのようにバランスをとりながら、荒人の上に立っている。その紫色の機体は忍者を彷彿させるシルエットで、かなりウェイトを落としたほっそりとしたボディに、高出力型の可変ブースターが腰部にとりつけられていた。後頭部からのびたポニーテールのような光条が美しく、また特徴的だ。 「そこかあっ! 馬鹿な!」 イコンの頭の上に乗るイコンなど、どんな機体だと、紫月唯斗が荒人が背負った鬼刀をつかんで斬り上げた。 その切っ先を軽々と避けて伸身の宙返りをうった敵イコンが、音もなく少し離れた場所に降り立つ。 「あの機体は……」 「データ照合。出たぞ。あれが玉霞なのだよ」 「あれが玉霞だと言うのですか!?」 エクス・シュペルティアの言葉に、思わず紫月唯斗が唸った。今まで謎のヴェールにつつまれていたイコンがあろうことか敵として目の前にいるのだ。 「とにかく、今は敵として撃破するまでです。たとえ破壊してでも、このまま強奪させるわけにはいきません」 鬼刀を構えなおした紫月唯斗が、玉霞に切りかかろうとした。だが、その姿が、一瞬にしてかき消えたように見える。 「どこへ……」 あわてて索敵すると、敵は荒人の背後に、ぴったりと背中を合わせるようにして立っていた。まさに忍者のごとく、動きを読むことができない。次の瞬間、強烈な足払いを食らって荒人が転倒した。 身を沈めて足技を繰り出した玉霞が、ゆっくりと立ちあがる。 こちらも立ちあがって反撃しようとした荒人の四肢の関節に、玉霞の放ったクナイが突き刺さった。駆動部をやられて、荒人が動けなくなる。 「やられる……」 紫月唯斗が覚悟を決めかけたが、玉霞は止めは刺さずに忽然と姿を消してしまった。