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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)

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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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「さあ、カメラさん、こちらへ。ここは一種異様な一帯となっています。そうです、痛イコン会場です。どちらかと言えば硬派の多いイコンに、全面に美少女の萌えイラストを描き込んだ、ある意味美しくも痛々しいイコンがならんでいます。戦闘機などのように、イコンの肩やシールドなどにエンブレムとして美少女のイラストを描く人は意外といますけれど、機体全面をカンバスにしているのは、ある意味兵器に対する冒涜かもしれません。でも、オタクに対する迷彩だと思えば、ここ空京ではあたりまえなのかもしれませんね。とりあえず、実物を見ていただきましょう」
 少し頬の端を引きつらせながら、シャレード・ムーンが、異空間と化している痛イコン展示ブースに足を踏み入れていった。
「ほう、ここが痛イコンのブースですか。どれも、いい感じに痛いですねえ〜」
 ふらりと立ち寄った月詠 司(つくよみ・つかさ)が、そこに展示してあった二体のイコンを見て言った。
「それにしても、実に対照的な……」
 月詠司が言うのももっともである。
 葦原 めい(あしわら・めい)ウサちゃんは、ある意味正統派の痛イコンだった。キラーラビットの装甲を、より曲面装甲にして跳弾率を上げている。いや、単純にまるっこちい方がかわいいからだろうか。肝心の痛仕様は、機体側面にバニースーツのデザインを使ったラビット隊パイロットスーツをぴちっと着込んだ葦原めいのステッカーがでかでかと貼りつけてある。その反対側には、同じパイロットスーツを着たサブパイロットの八薙 かりん(やなぎ・かりん)のステッカーが同じようにでかでかと貼りつけてあった。
 ラビット隊のパイロットスーツは、白地にシアンのセパレートカラーで色分けされたショルダーレスのレオタード型で、胸元と太腿の部分にはレースの縁飾りがあった。ストッキングや靴にもウサちゃんの飾りがついているし、レシーバーの耳当てもウサちゃん型だ。
「現在展開している右耳がウサ耳ブレードの攻撃ポジション、左耳が待機ポジションとなるんだよね。本来は遠距離支援用と言われているキラーラビットだけど、ウサちゃんなら、どんな敵でもずんばらりんだよ」
 ウサちゃんを背後に、投影型のモニタに概略図を映し出しながら八薙かりんが説明していった。
「――このバイクが、そのまま操縦席の一部になって……」
「データ、記録しました」
「私たちのイコンに応用できそうかな」
 ウサちゃんの図面を記録したアリヤ・ユーストに、杵島一哉が訊ねた。
「形状が違いすぎますから、そのままでは……。でも、コンセプトは参考になるかもしれません」
 アリヤ・ユーストが、ちょっと考えてから答える。
「あれ欲しいなあ……。でも、僕はバイクの免許はないからなあ」
 ちょっと残念そうに藤井つばめがつぶやいた。
 ウサちゃんの隣のブースでは、テオドラ・アーヴィングとイナ・インバースが絶句していた。
「こ、これは、ワイバーンには負ける……。絶対負ける……」
「さすがの私でも、こ、これは……」
 そこに展示されていた舞衣奈・アリステル(まいな・ありすてる)農場兎ストマックアサルトを見てしまったからだ。
 そこには、もうキラーラビットの面影は微塵も残ってはいなかった。後ろ足で立ちあがったそのシルエットは、うさぎの着ぐるみを着たゆる族の小学一年生その物であった。具体的に言ってしまえば、二足歩行のピンクのうさぎが、黄色い安全帽を被り、ニンジンミサイルを無造作に積んだランドセルを背中に背負っているのである。装甲の表面はリベットがむきだして、いかにも無理に装甲を被せましたという感じがする。きっと、中にはノーマルのキラーラビットが……、否! 中のイコンなどいないのだ。
「みんな〜、あたしのかわいい農場兎ストマックアサルトを見てえ〜」
 周囲の目とは違って、自分のイコンの人気に絶対的自信を持っている舞衣奈・アリステルが、きゃぴきゃぴと道行く人をつかまえては、腹筋を崩壊させていった。
「やっぱり、あたしのミルヒ・シュトラッセを持ってきた方がよかったのかなあ。でも、うちの子はまた換装作業中だったんだもん。誘われためいちゃんに面白いイコンって言われてたから、これしかなかったんだよね。みんな、がんばろっ!
 誰にむかってでもなくつぶやくと、ネージュ・フロゥ(ねーじゅ・ふろう)が、楽しげな舞衣奈・アリステルをちょっと複雑な思いで見守った。
「シュールな……。ですが、非合理的だからこその可能性とでも言いましょうか、無理に求めた合理性よりも、自然にできあがった非合理性とでも言いましょうか、こういった痛い物、無駄に見える物にこそ、見えていなかった真実や役に立つヒントが隠れているもの、案外バカにはできないものですからねぇ〜」
 自分で言っていて、ちょっと悲しくなった月詠司であった。
 他に痛イコンはないのかと見回してみると、なんだか地面の下からドラムのビートのような物が鳴り響いてくるのが、直接腹に振動として伝わってきた。
「なんなんだもん?」
 自分のブース横の空き地にいたネージュ・フロゥが、足許がぐらついたのであわててそこから逃げだした。
「大丈夫、ネーおねえちゃん? いざとなったら、あたしたちの農場兎ストマックアサルトの出番だよぉ」
 逃げてきたネージュ・フロゥをだきとめた舞衣奈・アリステルが、期待に目をキラキラと輝かせて言った。だが、ネージュ・フロゥとしては、それだけは避けたいという気持ちで一杯だ。
 すわ何者かの攻撃かと思われたところに、真新しい土がむきだしだった空き地のブースの地面が盛りあがった。
「大変です、これは、何かの襲撃でしょうか」
 駆けつけてきたシャレード・ムーンが、マイク片手に叫ぶ。
「どこのどいつだ。とにかく叩き切ってやる。月夜、黒の剣だ!」
 禁猟区の反応で逸早く駆けつけてきた樹月刀真が、漆髪月夜にむかって叫んだ。
 その目の前で、何かが地中から立ちあがり、激しく土砂を周囲に撒き散らした。
「イッツ、ア、ショータイム!!」
 アドルフィーネ・ウインドリィ(あどるふぃーね・ういんどりぃ)が、光術でスポットライトをあてた。そこへ、イコン用ナックルを使って発泡スチロールの蓋を突き破ったパラデウス ビッグローの太い腕が現れる。続いて、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)の乗るパラデウス・ビッグローがその姿を現した。
「けほっけほっ。失礼しました。どうやら痛イコン会場らしく、痛い登場演出のようです」
 舞いあがる土埃に少しむせながら、シャレード・ムーンが告げた。
「人騒がせな。本当に痛い演出だ」
 ちょっとほっとしながら、漆髪月夜の胸元をつかんだまま、樹月刀真が光条兵器を取り出す手を止めた。
「なぜ……、そこで止める……。やれ!」
 漆髪月夜の命令で、機晶犬がガブリと樹月刀真の臀部に噛みついた。
「にしても、いつの間に埋めたんだろ」
 葦原めいが、お隣さんだったのにまったく気づかなかったという顔で言った。
「ふふふふ、見よ、俺のビッグローを」
 胸のコックピットハッチを開いて姿を現すと、エヴァルト・マルトリッツが高らかに胸を張った。
 ベースはセンチネルであるはずなのだが、もはや原形は微塵もとどめてはいない。ごてごてとスーパーロボットふうに追加装甲を施し、赤白青で塗装された機体は、微妙にシルエットラインがアンバランスだ。
「今はまだ追加装甲しかないが、いずれは、目の部分から発射するレーザー『ディバイディングライン』、胸部からの大砲『キャノン・フェスタ』、腹部からのミサイル『ミサイル・フェスタ』、そして腕部のスマッシュ・パイルを引き出し、パンチと同時に打ち込み、絶大な威力を生む『サドン・インパルス』。いつか、その真の力を見せられる日が来るはずだ」
「どこにそんな予算があるのよ」
 パラデウス・ビッグローが大きすぎて、光術によるスポットライトが上まで届かないのを歯がゆく思いながら、アドルフィーネ・ウインドリィがぼやいた。
「それは、これから交渉して勝ち取る」
 エヴァルト・マルトリッツは自信満々だったが、蒼空学園とて、そうそうそんな予算は出してくれないだろう。パラデウス・ビッグローがその真の力を人々の前に表すのはいつの日のことなのだろうか。