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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)

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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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「なんだか甘い香りが漂ってきました。どこかで模擬店でもでているのでしょうか。ああ、いいえ、違います。こちらもある意味では痛いイコン、板チョコイコンです」
 シャレード・ムーンが、夏野 夢見(なつの・ゆめみ)ヴァレンティーナを見て言った。
 装甲をチョコレートでコーティングしたイベント用イコン、チョコームラントチョコームラントである。
 本来ならば、コームラントの外部装甲にチョコレートを塗装として吹きつけただけの物であるのだが、夏野夢見はもっと大胆にチョコレートを被せていた。型抜きされた女の子の頭部がイコンの頭部を被い、チョコレート製のキャミソールとホットパンツをチョコームラントが着ている。モデルはどうもセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)のようだが、いかんせん巨大なのでそっくりそのままとはいかない。だいたいにして、体形がイコンとセイニィ・アルギエバとではまったく違うので、もし本人が見たら悶絶するだろう。
「さあ、見てよね。職人さんの究極の技、イコンのチョココーティングだよ。今日は、それをみんなに味わってもらうための試食会なんだもん」
 夏野夢見が説明をするそばでは、アーシャ・クリエック(あーしゃ・くりえっく)が従者たちと共に紙皿とフォークを配っている。
「わーい、チョコー、チョコー。おやつの時間まだかなー。ねえねえ、食べられちゃう前に写真撮って、撮って」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、しきりにエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)にねだった。
「はいはい。でも、本当にこれを召しあがるつもりですの?」
 携帯で写メをとりながら、エリシア・ボックがヴァレンティーナを見つめた。
 魔法大会のときに影野 陽太(かげの・ようた)の財布を丸ごと預かってしまっているので、軍資金的には困ってはいない。なので、あえて、試食会でお昼をすますことはないのだが……。
「えーっ、でも、食べてみたいんだもん。もしかしたら、もうこんな機会は二度とないかもしれないんだよ。そうそう、さっきの写真、陽太にも送ってあげようよね」
「はいはい。送信っと」
 ノーン・クリスタリアに言われて、エリシア・ボックが撮ったばかりの写真を影野陽太へと送信した。とりあえず、再びナラカへ旅立つまでの間、少しは暇潰しのネタになるだろう。
「こちらのパネルを見てよね。これが、ヴァレンティーナの製造過程を記録した写真だよ。まず、3Dプリンタを使って、セイニィさんの鋳型を作るところから。これにチョコを流し込むわけだけれど、もうほとんど大仏をつくる乗りなんだよね。このへんは職人さんならではの技だよね。できあがったチョコレート装甲をチョコームラントに貼りつけたり被せたりするんだけれど、溶けたり欠けたりしないようにすっごく大変な作業が続くんだよ。最後の写真は、職人さんが表面の飾り彫りをしているところだよ。よーく見てもらえば分かるけど、細かい飾りとかが、ぜーんぶ再現されているんだよね」
 もの凄く自慢げに、夏野夢見が説明を続けた。
 ちょんちょん。
「なんなんだもん? お姉様」
 いいところでアーシャ・クリエックにつつかれて、夏野夢見が不承不承振り返った。
「チョコ、溶け始めてますわ」
「ええーっ! すぐに試食会を開始するんだもん!」
 心なしかヴァレンティーナのチョコセイニィの被り物がななめに傾き始めているのに気づいて、夏野夢見が叫んだ。ヒートマチェットを取り出すと、事務員たちに梯子で手伝ってもらって、ホットパンツのあたりをえいやっと切り取った。
「ううむ、まだスケッチが終わっていなかったのだが……。まあいい、一口いただくとしよう」
 スケッチブックをたたんで、土方歳三がチョコレートの載った紙皿をアーシャ・クリエックから受け取った。
「わーい、チョコだー」
「これ。溶けたのが手につきますから、ちゃんとフォークをお使いなさい」
 ぐわしとわしづかみにしてチョコを食べようとするノーン・クリスタリアに、エリシア・ボックがあわてる。
「うーん、ちょっと埃っぽいですが、味は悪くないですね。少し持って帰って、ヒロユキさんの出店で売ってみましょうか……」
 近くに展示されている土だらけのパラデウス・ビッグローの方をチラリと見てから、テオドラ・アーヴィングが言った。
 さすがに、埃っぽい屋外で、しかも装甲面のチョコレートは、本来の衛生面から考えると、ちょっと問題はありそうだ。
「食べられるイコン、食べちゃいたいくらいのイコン……。さすがはイコンです。次は目の中に入れられるイコンをぜひ!」
 じゅるりとよだれを手で拭ってから、イナ・インバースが、早くちょうだいと手を振った。
「このイコンって、飾っておく物だよね。だったら、僕でも扱えるのかなあ」
 アーシャ・クリエックが空を飛んで切り取ってきてくれたチョコイコンの髪の部分を囓りながら、藤井つばめがつぶやいた。
 
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「……シャーウッド……です。見てって……」
 身体にぴちぴちのパイロットスーツを着たリネン・エルフト(りねん・えるふと)が、ぼそぼそっと言った。否が応でもたっゆんな胸が強調されていて、周囲の男性の視線が痛い。
もうっ! 世話が焼けるわねっ。いいかよく聞けお前ら。今目の前に立っているのが、シャーウッドだ」
 口べたなリネン・エルフトに代わって、ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)がイコンの説明をする。
 クェイルをベースとしているシャーウッドだが、全体的に装甲や装備をすっきりとまとめ、無駄のない洗練したデザインのイコンとなっている。
 どうも、ヘイリー・ウェイクたちの属するシャーウッドの森空賊団が、森の中での戦闘を想定してカスタマイズしたらしい。そのため、フレッシュグリーンの塗装も鮮やかに、実にスリムなシルエットとなっている。
「このシャーウッドには、次世代操縦装置の試作型が搭載されており……」
 ヘイリー・ウェイクの説明に合わせて、リネン・エルフトがおずおずとコックピートのモックアップに乗り込んでいった。
「――よいしょっ……」
 シースルーのコックピットのモックアップに、カメコたちが一斉にシャッターを切る。
「ちょっと、お前ら、あたしの説明を聞かないで何を写真に撮っている!」
 さすがに、ヘイリー・ウェイクが切れた。
「写真を撮るなら、なぜあたしを撮らない!」
 
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「ここは個人展示ブースですが、イコンはどこにも見えません。どうやら、イコン随伴兵の説明などを行っているみたいです」
 続いてシャレード・ムーンが紹介した場所では、ならべられた小型飛空艇を前にして、ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)がパネル展示を行っていた。
「どうぞ……」
 そのすぐそばでは、エシク・ジョーザ・ボルチェ(えしくじょーざ・ぼるちぇ)がチョコームラントの着ぐるみを着て、エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァ(えりしゅかるつぃあ・にーなはしぇこう゛ぁ)と一緒にミニチョコのついたパンフレットを配って呼び込みをしていた。
「こ、これは……。どこで売っていたんですか? 教えてください!」
 思わず、イナ・インバースが、がっしりとエシク・ジョーザ・ボルチェをつかみながら言った。
「い、いえ、手作りで……」
 着ぐるみの中からちょっとくぐもった声で、エシク・ジョーザ・ボルチェが答えた。
「作り方教えてー!」
 イナ・インバースがブンブンとエシク・ジョーザ・ボルチェをゆさぶった。さすがに、動きの鈍い着ぐるみを着ているので逃げることができない。
「はわ……、うゅ……、えーっと、えーっと……、ふゅゅん。菊媛、助けないとなの……」
 それを見たエリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァが、上杉 菊(うえすぎ・きく)に助けを求めた。
「大丈夫、危険はありませんよ」
 冷静に、上杉菊が答えた。
「はうっ……。でも……なの」
 エリシュカ・ルツィア・ニーナ・ハシェコヴァがまだはらはらしているが、さすがに絞め殺されたりはしないだろうことを確認すると、上杉菊は接客もキャンギャルのお仕事の内と、エシク・ジョーザ・ボルチェには経験値を溜めてもらうことに決めた。
「――のように、イコン戦といえども、随伴歩兵としての航空戦力は重要な位置を占めております。特に制圧戦に関しては、イコンではせっかくの施設を破壊してしまう可能性があります。敵歩兵の排除を行う場合、随伴歩兵は必須となるわけです」
 ローザマリア・クライツァールが、パネルに映し出した兵力展開図を元にして解説を続けていった。
「特に、イコンといえども、ここパラミタでは、生身で対等に戦える猛者の存在があります。このような者たちを相手にする場合、メリットの一つである機体の大きさがデメリットとなる場合もあるわけです。イーグリットなどは音速で飛行できますが、それは音速で動けるという意味ではありません。また、視野も制限を受けます。そのため、一部の機動力という点では、イコンはかなり不利になります。それを補うのが随伴歩兵であり、この場合、連係攻撃が最重要課題として……」
 淡々と展示の解説を続けていくローザマリア・クライツァールであったが、彼女の目的としては展示以外のものがあった。
 こうしてすぐに小型飛空艇に乗れる位置で万全の装備と共にいれば、何かが起きた場合に素早く対処できるはずである。もし、テロのような物が起きたとしても、それを阻止するか、逃げる犯人を迅速に追跡して確保することができる。
「ここには、怪しい者や、こまっちい物はいないようですね」
 愛用の扇を口許あたりでパタパタと扇ぎながら、空京稲荷 狐樹廊(くうきょういなり・こじゅろう)が言った。空京稲荷の地祇としては、これ以上空京を荒らされるのは不本意だ。そのため、自主的にパトロールして回っているのである。
「むっ、なんでしょう。何か今悪寒が……」
 突然嫌な感じがして、空京稲荷狐樹廊は周囲を見回した。なんだか、急に水に突き落とされるような気がしてブルンと身を震わせる。
「もしかして、オレ自身に危険が近づいている?」
 フラワシを召喚すると、空京稲荷狐樹廊は周囲に注意しながら移動していった。