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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)

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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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メイン展示ブース

 
 
「琴の音が流れる、こちら葦原明倫館のブースですぅ」
 メイベル・ポーターが、マイク片手に葦原明倫館ブースの前から中継を入れた。
 ここに展示されているの雷火だ。
 細身の鎧武者を彷彿とさせるイコンで、通常装甲のような一体成形の物ではなく、複数のプレートを組み合わせた日本の鎧のような構造の装甲に全身を被われている。理論上、装甲の合わせ目が弱点とはなるが、装甲によって自由度が制限されにくいため、白兵戦型のイコンとしては攻守のバランスの取れたいい物であると言えた。
 武装の特徴としては、背部のハードポイントで、鬼刀を二本装備できることだろう。また、羽織状のガードも特徴的である。
 地上での白兵戦を想定して作られており、実体剣による斬り合いに特化している。
 また、今ここに展示はされていないが、高機動型の玉霞という機体も存在するらしい。
「やはり、明倫館のイコンは雰囲気が独特ですね。明倫館はアメリカから支援を受けているはずですけれど、自衛隊のヤマトタケルのように、このイコンも地上の支援国家で同型機が制式採用されているのでしょうか?」
 そこに展示されたイコンを見つめて、フィリッパ・アヴェーヌが自然な疑問を口にした。
 イーグリットの同型機であるヤマトタケルは日本の自衛隊に配備されているようではあるが、他の国にどんなイコンがあるのかは一切発表されてはいない。
「警備のためとはいえ、じっと待機しているのも退屈なものですね」
 荒人の中で紫月 唯斗(しづき・ゆいと)がつぶやいた。
 葦原明倫館のブースに展示されているのは、無人の雷火ではなく紫月唯斗の荒人だった。クレイモアや光条サーベルなどに武装は換装しているものの、外観をいじっていないために、ノーマルの雷火であると偽って展示されているのだ。
「何かあったときのための用心なのだよ。退屈なのは結構なことなのだ」
 サブパイロット席で、エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が紫月唯斗をたしなめた。
「あれ、兄さんたちの荒人かなあ。おーい、唯斗兄さーん」
 お昼から戻ってきた紫月睡蓮が、荒人を見て手を振った。
「おっ、睡蓮ですね。手を振り返してあげますか」
 そう言って荒人の腕を動かしかけた紫月唯斗の頭をエクス・シュペルティアが扇でペチッと叩いた。
「動いてしまっては、中に人がいるのがばれてしまうではないか」
「おおっと、そうでした」
 微かに腕を上げかけたところで、あわてて紫月唯斗は動きを止めた。少しゆれたかもしれないが、気づく者は少ないだろう。
「おかしいなあ、乗っていないのかしら」
 反応がないので、紫月睡蓮が首をかしげる。
「お仕事中ですからね。エクスに見張られているでしょうから、真面目にやっているのでしょう」
 うんうんと変にうなずきながら、プラチナム・アイゼンシルトが言った。
「つまんないですね」
「じゃあ、他のイコンを見に行きますか」
 そう言って、二人は葦原明倫館のブースを離れていった。
「今、イコンが動かなかった?」
 めざとくイコンの動きに気づいた天貴彩羽がスベシア・エリシクス(すべしあ・えりしくす)に聞いた。手にしたスーパー袋には、チョコイコンのプラモと、これじゃないイコンのプラモが入っている。
「風でゆれたのではござらぬか? ノーマルのイコンでは、彩羽のイロドリと比べるとどうも貧弱に見えるでござるからな」
 スベシア・エリシクスはそうは言うが、イロドリも外観はほぼノーマルのイーグリットだったりしている。
「そうかしら。中身はかなりいじってそうだけれど、あのイコン」
 ジーッと荒人を見つめながら天貴彩羽が言った。
「そうですなあ。確かにちょっと……」
 すぐそばで、バトラーふうにぴっちりと身なりを整えたロマンスグレーの初老の紳士が同じように小首をかしげていた。
「あれよりは、後ろに隠されているイコンの方が気にはなりますな」
 雷火の後ろに広げられた紅白の巨大な垂れ幕の後ろをしきりと気にしながら、アラバスターが言った。
「なんか重そうなイコンだよね。あんなので、ちゃんと動けるんだもん?」
 雷火を見あげて、フェルクレールト・フリューゲル(ふぇるくれーると・ふりゅーげる)が言った。
「そうだね。いったい、どういった仕組みで動いてるんだろ」
「それは秘密でござる」
 相づちを打つ十七夜 リオ(かなき・りお)に、キャンギャルをやらされていた真田 佐保(さなだ・さほ)が答えた。
「そんなことは言わないで、ちゃんと教えろ」
 ぬっと顔を突き出したロイ・グラード(ろい・ぐらーど)が、真田佐保を見下ろして訊ねた。大柄で強面のロイ・グラードは、それだけで圧倒的な威圧感を放っていた。
「こ、こいつ、なんでござる」
 思わず真田佐保が後退った。
「少し訊ねただけなのに……なぜ後退る」
 ズンズンと真田佐保に大股で近づきつつ、ロイ・グラードが質問を続けた。思わず、ずざざざーっと音をたてて真田佐保が逃げだした。
「待て。どうして逃げる。さっさと俺の質問に答えろ。俺は面倒が嫌いなんだ」
「拙者だって、面倒は嫌いでござる!」
「なら、せめて資料だけでも……むっ!」
 カカカッと、ロイ・グラードが翻したブラックコートに、幾本もの手裏剣が突き刺さった。とっさに真田佐保が投げつけた物だ。
『うわっ、死ぬ! 死ぬ! 服を盾にするんじゃねえ、相棒!』
 ブラックコートの下で、魔鎧の常闇の 外套(とこやみの・がいとう)が必死に叫んだ。どうやら、手裏剣の先が少し刺さったらしい。コート型の魔鎧としては、同類とも言えるブラックコートが穴だらけにされたのを見て、さすがに恐怖を感じたらしい。
「何をしてるであります! この犯罪人共!!」
 ドガッと鈍い音を響かせて、ロイ・グラードが常闇の外套と諸共ぶっ倒れた。
「まったく」
 血の滴る野球のバットを肩にかかえて、アイアン さち子(あいあん・さちこ)が倒れた二人を見下ろして鼻息も荒く言った。
「まて、俺たちは被害者だ」
『おうよ、いろんな意味でな』
「どこからどう見ても、人を殺したくてたまらねえって今にも言いだしそうな犯罪者に見える御主人が、いたいけなキャンギャルに襲いかかろうとしているの図であります」
 アイアンさち子が決めつけた。
『それは言えるな。よし、俺様が相棒のアフレコをしてやろうじゃねえか。コホン、あー、こんな感じかな――よぉよぉよぉ〜ひっさしぶりだなァさち子! 元気してたかァ? いやぁ〜まさかこんな所で再開するとは思わなかったぜ! 相変わらずイイ太腿してるじゃねェか、たっまんねェなオイ! ウヒャハハハハハハ! まあ立ち話をするのもアレだしよ、ちとそこいらのホテルにでも行って一汗かいてから昔の話でもしようぜ……んがっ!』
「とりあえず、死ねや布!」
 下からのぞかれて切れたアイアンさち子が、ゲシゲシと常闇の外套を踏みつけた。
「ま、待て。中身が、中身が入って……」
 踏みつぶされたロイ・グラードが悲鳴をあげる。
「失礼したであります。ぢゃっ!」
 ピッと敬礼をすると、アイアンさち子がロイ・グラードたちを引きずって去って行った。
「ええっと……、今のはいったい何だったんだ!?」
 思わずつられてピッと敬礼してしまってから、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)が言った。
「質問してもいいかしら?」
 あらためてミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)が真田佐保に訊ねた。
「明倫館のイコンは、どうやって動いているの?」
「そうだな。質実剛健な教導団のイコンと比べると、ずいぶんとデザイン的だとは思うんだが。まるで、東洋の鎧武者のようだし……」
 ついでに、トマス・ファーニナルも質問をする。
「ええと、明倫館ではイコンのことは鬼鎧と呼んでいたのでござる。その昔、マホロバにいた鬼の力を再現したという伝説が……」
 説明用のメモを取り出して、やや棒読み気味に真田佐保が説明を始めた。
 再現したのが、鬼その物の姿であるのか、鬼の持つ力に匹敵する力を持つ物なのかは定かではないが、コンセプト自体が他のイコンと違うのはそのへんに由来しているらしい。もっとも、雷火にしても、現代地球の技術があって初めて再稼働できたということには変わりがない。
「さすがに、和風イコンといったところですね」
 見学に来ていた大神 御嶽(おおがみ・うたき)が、興味深そうに言った。
「ふっ。しょせんはハリボテの鎧ですら。我が校のアルマインの敵じゃないですら」
 見下したようにキネコ・マネー(きねこ・まねー)が毒舌を吐いた。
「そんなことはないでしょう。できれば、玉霞の方も見たかったですが、展示はされていないようですねえ。どこかにあると思ったのですが」
 ちょっと残念そうに、大神御嶽が言った。