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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

リアクション


【1】日日是鍛錬!……4


 上の世界がそんなことになってる中、再びシーンは下水道に戻る。
 万勇拳門下生ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は前回同様『鋼勇功』の修行に励んでいた。
 某男子のネクストドアーを叩いた筋骨隆々の上半身を晒し、両の掌を胸の前で合わせ瞑想に耽っていた。
 先ほどから微動だにしないが、かれこれ30分この姿勢のまま、全身に気を張っている。
(こいつは予想以上にきついぜ……)
 気と言うものは全開で放出するより、一定量の放出を持続させることのほうが遥かに高等技術だ。
(まだだ。まだ実戦レベルにゃ程遠い。最低でも1時間は継続できるようにしねぇと……)
「お互い気の操作には苦労するわね」
 月美 芽美(つきみ・めいみ)は言った。
 何故か彼女は画材を広げて、ラルクをキャンバスに描いていた。
「でもちょうど良かったわ。モデルに最適な人がいて。そのまま動いてはだめよ」
「…………」
「それにしても凄い筋肉ね。彫刻みたいだわ。やっぱりその身体は自慢なのかしら」
「…………」
「む、どうしたのそのお腹の傷。酷い傷だわ。あなたみたいな人でも深手を負わされることがあるのね」
「……すまねぇが、話しかけないでもらえるか。見てのとおり修行中なんだ」
「あら、話しかけられたぐらいで気を乱すようじゃ実戦じゃ使えないんじゃないかしら?」
「……そいつは一理あるな。お前はさっきからそこで何してんだ?」
「決まってるじゃない。気を操作するイメージトレーニングよ」
 線を気の流れに例え、どこから描き始めても最後は自分の利き脚である左脚に辿り着くように人体画を描いている。
 修行中の奥義『抜山蓋世』は気の一点集中による最大火力を捻出する技。
 流水の如き気の操作技術が必要不可欠なのだ。
「けど最終的にはイメージも不要にならないとな。戦闘は咄嗟の対処の連続だ、いちいち頭を経由するんじゃ遅すぎる」
「頭に思い描くよりも先に身体が反応するようにするってこと? 身につけるには随分長くなるわよ、その極みは」
「千里の道も一歩からだ。まずは歩き出すためのコツを掴まないとな……」

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「下水道で何をしているかと思えば、まさか修行とは……」
 国軍所属のクローラ・テレスコピウム(くろーら・てれすこぴうむ)は言った。
 万勇拳の門下生ではないものの、コンロンでのブライドシリーズ探索では老師に世話になった経緯がある。
 事件を報道で知ったクローラは真相を知るため、セリオス・ヒューレー(せりおす・ひゅーれー)とここまで訪ねてきたのだ。
「面識はなかったが、コンロンの一件では感謝を」
 クローラは老師に敬礼した。
「すまんのぅ、わざわざ来てくれたのにお茶も出せん……」
「気にしないでくれ。ここでお茶を出されても飲む気になれん。それより何があったのか聞かせてもらえないか?」
「ううむ……」
 ため息まじりに語られる経緯に、クローラは「なるほど……」と頷く。
「黒楼館か、厄介な連中が空京に入り込んだようだな」
「思いのほか奴らの力は大きい。これ以上力を付ける前になんとかせんといかん」
「しかし老師、警察とは不用意にことを構えないほうがいい。どう万勇拳の無実を証明するつもりなんだ?」
「おぬしが知らんのも無理はないが、今の警察は黒楼館の手先じゃ、署長のバンフーを倒さねば元には戻らん」
「?」
「身の証は自分で立てるのが天宝陵の流儀。看板にかけられた泥は自分の手で拭うのじゃ」
「……なるほど、状況は了解した」
 それから、クローラは上着を脱ぎ捨てた。
「コンロンでの礼だ。もうしばらくここで修行をするなら、俺も万勇拳の修行に付き合おう」
「なら、向こうのラルクに稽古をつけてやってくれんか。あの技の修行はひとりではなかなかはかどらんだろう」
「了解だ。俺はどうすればいい」
「そうじゃなぁ。いい機会だしもう一段階上の修行を課してみようかの……」

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「ちくしょう、まだ一時間も経ってねぇのに限界かもしれねぇ……」
 ラルクの身体を冷たい汗が流れ落ちた。
 錬功の修行にかかる負担は想像を超え、両の肩にのしかかる疲労感に集中も途切れそうだった。
「すまないが、休憩はもう少し先にしてもらえるか。老師からの特別カリキュラムだ」
「というか、凄いねここの臭い……。頭がくらくらしてきた……」
 修行に割って入ったクローラとセリオスに、ラルクはなんだなんだと眉を寄せた。
「おまえら、一体なにを……ぐっ!?」
 突然、衝撃がラルクの身体を打った。
 不意打ちによろめいたところを、謎の衝撃は容赦なく打ちのめし、彼の巨体を壁に叩き付けた。
 攻撃自体はそれほど重いものではなかったが、限界まで疲弊した今の状態では大分こたえる。
「くそ、サイコキネシスか……いや、違う。この感じ、フラワシか……!」
「流石、察しがいいね。心身ともに鍛え抜いた君たち拳士でも、フラワシを見切るのは骨が折れるんじゃないかい?」
 フラワシを操りながら、セリオスは言った。
「よく知ってるじゃねぇか」
 ふとラルクは、クローラ達の後方で修行を見守る老師の視線に気が付いた。
「こちとら限界間際だってのに、うちの師匠はしごいてくれるぜ」
「自分の決めた限界に意味はない。限界を超えて集中しろ。そう、これは『集中力向上』の修練だ」
「そういうこと。集中を高めないとフラワシは見切れないよ」
「下水道の匂いに集中力を乱してはならない。心頭滅却すれば腐敗臭もまた……けほっ」
「ちょっと大丈夫、クローラ?」
「な、なんでもない。ともかく……」とラルクを指差し「自分の殻を打ち破ってみせろ!」
 次の瞬間、ラルクの気合いが、身体を包む気をはっきりと実体化させた。
「……はっ! 限界突破望むところだ!」
 フラワシの動きはまるで見えないが、けれど感じることは出来る。
 気が新たな感覚器官となり、細かな空気の動き、音、気配をレーダーのように読み取った。
鋼勇功……!!
 身体を包む気が鋼鉄の如く硬化。
 ラルクの突き出した腕が、フラワシの見えざる一撃を次々に弾く。
 身体は限界まで疲労しているのに、気は身体の奥底から溢れてくるようだった。
「情けねぇ話だ。追いつめられなきゃコツが掴めねぇなんてな。けど今なら身体を流れる気をはっきりと感じるぜ」
「どうやら限界を超えたようだな」
「それは良かった。僕もそろそろ限界だったんだ……」
「セリオス?」
 くらくらとよろめく彼をクローラは抱きかかえた。
「ごめん、ちょっともうこの臭い無理……。早くうちに帰ってお風呂に入りたい……
「ここの空気にあてられたのか……。仕方あるまい。手伝いはこの辺にしておこう」
「おいおい、大丈夫か?」
 ラルクも心配して声をかけた。
「ああ、心配ない。すこし気分が悪くなっただけだ。それより修行の途中だったのにすまない」
「なに充分だ。お前らのおかげで、気の操作も大分掴めたぜ。ありがとうな」
「クローラぁ……」
「軍人が情けない顔を見せるな。ほら、風呂なら空京のホテルを使っていいから、イジイジするんじゃない」