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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

リアクション


【1】日日是鍛錬!……5


 数ある修行の中でもより効率的なのはやはり実戦である。
 どれほど強力な技を修行しても肝心な時、その威力を発揮出来ないのであれば、それは技を持たざると同じことだ。
「……それではお相手よろしくいたします」
 探偵少女シャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)は脱力の構えをとった。
 相対するのは、前回同様に奥義『抜山蓋世』の習得を目指す爆炎拳の緋柱 透乃(ひばしら・とうの)
 それからもうひとり、蹴技に絶対の自信を持つクールな白星 切札(しらほし・きりふだ)
 二人を見比べると、シャーロットは透乃を目下の標的に定めた。
「万勇拳が攻撃を最大の防御とするなら、実戦合気柔術は防御こそ最大の攻撃……」
 見た目には武術とは縁通そうな少女であるが、こう見えて実戦合気柔術の達人なのだ。
「私のような使い手が会得することで真価を発揮する技もあります」
「へぇ自信満々……。でも、お互いどんな技を使うのかわからないのはワクワクするね」
「ええ、こういう緊張感があってこそ、修行は意味を成すものです」
 シャーロットは間合いを詰めた。
 透乃が迎撃態勢に入るのを察し、目前で素早く死角を位置取るように身を翻す。合気柔術独特の体捌き『入身』だ。
「逃がさないよっ!」
 透乃も身体を捻り、その勢いを乗せた正拳を突き出した。
 しかし、その拳を掌で円を描くように力の方向を変え捌く。こちらも合気柔術の『転換』とよばれる技だ。
「まるで柳みたいな動き……どうも守りに長けた技みたいね……!」
「これが合気柔術の基本の動きです」
「それなら、この抜山蓋世は捌けるかしら」
 透乃は腰を深く落とし、利き腕である左手を前に突き出した。
 その途端、ゾッとするほどの闘気が左手に集束した。
 前回は通常状態からの技の発動を練習したが、拳術は実戦で磨いてこそ武器となる。
「シャロちゃんの腕ならわかると思うけど、直撃したら死んじゃうからね。危なくなったらちゃんと降参するんだよ」
「……あいにくですが、そう言われると不思議としたくなくなりますね……!」
「ふふ、そういう負けず嫌いな人、嫌いじゃないよっ!」
 更に鋭く速度を増した裏拳が放たれる。
 とは言え、シャーロットもサンドバッグではない。
 こころ、空にして脱力の構え。カッと目を見開き、裏拳をおもむろに弾き飛ばした。
 するとどうだろう、放った技の衝撃が反転し、透乃はとんでもない速度で壁に叩き付けられた。
 コンクリートを粉砕し、大きな横穴を空けてしまうほどの衝撃だった。
「……な、なに、今の……?」
 これこそ、相手の攻撃の威力をそのまま相手に返す奥義『武産合気』
 壁の穴はそのまま抜山蓋世の威力の凄まじさを表しているのだ。
 ただ彼女にとって幸運だったのは、武産合気が不完全だったことである。
 もし完全な状態で技が返っていたら、透乃は即死していたかもしれない。
「……しくじりました」
 ちょうど反対側に、壁を突き破ったシャーロットがぼろぼろで倒れていた。
 抜山蓋世の威力を完全に返しきれず、自分も衝撃で吹き飛ばされてしまったのだ。
 彼女はそっと技を弾いた右手に目を落とす。真っ赤に腫れ上がった腕はビリビリと痺れ、激痛が走る。
「まだまだ修行が足りませんね……」
「ま、まだまだ……私は戦えるよ……!」
 透乃は瓦礫を押しのけて立ち上がった。
「では、私の相手をして頂きましょうか」
 ふと、目の前に飛び込んできた切札に、透乃は身構えた。
 拳技主体の透乃に対し、蹴技を主体とする切札。対戦カードとしては面白い組み合わせである。
 切札の繰り出す真剣の如き連続蹴りを、透乃は暴風の如き拳打で叩き落とす。
「なるほど。速度は同等ですか。ならば力比べといきましょう」
 切札の脚に気が集束する。それも抜山蓋世クラスの尋常ではない気の量だ。
「もしかしてこの感じ……同じタイプの技!?」
「一蹴必殺! 奥義『死神の鎌』!!」
「く……っ! 抜山蓋世!!」
 解き放たれた蹴打と裏拳が交差する。
 その反動はふたりを紙くずのように弾き飛ばしてしまうに充分だった。
「きゃああああああっ!!」
「うわあああああああっ!!」
 透乃は再び壁の穴に突っ込んだ。
 そして、切札はシャーロットの隣りにもうひとつ大きな穴を壁に空けた。

 ・
 ・
 ・

「たのもーーっ!!」
 突然、下水道に響いた声に万勇拳一派はしんと静まり返った。
 なんだなんだと一同が見つめる暗闇からあらわれたのは八神 誠一(やがみ・せいいち)だった。
 黒楼館や警察の追っ手を想像した門下生たちはほっと胸を撫で下ろした。
 しかし、彼が一般市民は一般市民でも、中華飯店『赤猫娘々』の店員と知ったら、そんな顔は出来なかっただろう。
「あなたがこの団体の代表のミャオさんですね」
 誠一は老師に印籠の如く書類を突き付けた。
「なんじゃ?」
「あなた方が破壊した店舗の修理費用です。若干多目になっていますが、営業不能になった分の迷惑料も含まれてます」
「せ、請求書じゃと……天宝陵じゃ店の一軒や二軒潰したところで文句なんぞ言われなかったぞ?
それが許されるのはあんたのお里とカンフー映画の中だけです!
「じゃが黒楼館がたむろしておったし……」
「なら黒桜館の道場に直接殴りこむのが筋で、飲食店を破壊するのは筋違いじゃありませんかねぇ」
 正論である。
「ま、待つのじゃ。敵のアジトに乗り込むのは愚の骨頂じゃろ。油断してるところを襲うのがセオリーじゃないか」
「それはそちらの都合でしょう。ただの飲食店を破壊して良いと言う理屈にはならないと思いますが?」
 正論である。
「じゃ、じゃが、金なんぞないぞ……!」
お金が無いなら働けばいいでしょう
 めっちゃ正論である。
 とは言え、真面目に働く甲斐性があるなら、老師はそもそも公園生活などしていないだろう。
 かくなる上は……老師の手がパキポキと不気味に鳴った。
「……都合が悪くなったら拳で黙らせる。黒桜館と同じ、いや、それ以下じゃありませんか」
「!?」
「言っておきますが、僕が戻らない場合は店主さんが訴訟を起すことになっていますから気を付けてください」
「そ、訴訟……!? わ、わしは別に暴力で解決しようなんて、そんな……」
 すっと拳を後ろに隠す。
「というか、わしらは何も店を壊したかったわけじゃない。正義のために行動したのじゃ。悪く言われる覚えは……」
「思い込みの正義で周囲に被害を振りまく、万勇拳なんて名乗るのやめて蛮勇拳とでも名乗ってはいかがです?」
「あ、う……」
 この現実社会において、正論ほど強力で人を痛めつけるに適した武器はない。
ご迷惑をおかけしました。お金は働いてお支払いしますので、しばらく待ってください、はい……
初めっからそういう態度を見せればいいんですよ