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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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【2】覇王マリエル無双拳……2


 ちょうどその時だった。
 小谷 愛美(こたに・まなみ)と万勇拳門下生がぞろぞろと店内に入ってきたのは。
 彼女たちの物々しい空気に、ぼーっとしてた店員も目をパチクリさせ、なんだなんだと大入りの客を見回した。
「ちょなんすか、あんたたちー。そんな人数うちには入んないっすよ」
「客じゃないわ。万勇拳よ」
「はぁそれはご苦労様です……って、え、ばんゆー軒ってなに? ラーメン屋さん??」
 困惑する店員の相手をしている暇はない。
 一刻も早くカラクル・シーカーとおかしくなっちゃったマリエルを探さねば。
「あれ、小谷じゃねぇの?」
「ほえ?」
 声に振り返ると、ドリンクバーでコーラを煽る瀬島 壮太(せじま・そうた)が立っていた。
「壮太くん……? なにしてるのここで?」
「オレは黒楼館ってたち悪い連中が駅前で勧誘のビラ配ってる聞いて調べに来たんだけど……」
「ええ? 壮太くんも黒楼館を追ってるの?」
「もしかして小谷も??」
 愛美から状況をおしえてもらうと、壮太はため息とともに頭を抱えた。
「黒楼館幹部がここにいるとかマジかよ。ちくしょう、全然気付かなかった……」
「マリエルも一緒にいると思うの」
「ダチがそんなことになってんじゃ心配だよな……」
 壮太は自分の個室に目をやる。
「おいハム、ちょっと出てこい」
 机の上にあった菓子袋からもぞもぞハムスター獣人上 公太郎(かみ・こうたろう)が顔を出した。
「おまえチビだから見つかりにくいだろ。カラクルとマリエルがいないか様子を見てこい」
「そんな覗き見のような真似、我輩のポリシーに反する……」
「そんなこと知るかよ。それ言うなら小谷がこんな状態なのに放っておくのは、オレのポリシーに反するっつーの!」
「むぅ」
「あとでドーナツ買ってやるから」
「ドーナツとな……? まぁその、もっちり揚げたてドーナツなら、我輩の力を貸してやらんでもないが……?」
「ああ、わかった。ただし二個までだな」
「よし交渉成立だ」
 公太郎は瞑らな瞳を輝かせ、ちょこちょこと個室の仕切りによじ登った。
 素早く店内を一周すると、とある個室に不審なものを発見した。
 モニター画面に映る空京各所の監視カメラ、その他稼働中のカメラの映像。
 そして私物だろうか。同人ショップで買ってきたと思しき十数冊のショタ本を見つけた。
「……なるほど。このやばい本の山からすると間違いなさそうだな」
「でもどこに行ったんだろう。誰もいないよ」
 個室に駆けつけた壮太と愛美は顔を見合わせた。
「椅子はまだあったかいから遠くには行ってないと思うんだけど……」
「トイレでも行ってるんじゃないのぉ?」
 万勇拳門下生の雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は耳かすをほじりながら言った。
 チャイナドレスの下は無論のノーパンツ、年中桃色ヘッドな彼女は無駄にネカフェに色気を振りまいている。
「それよりこの間は、胸を肉まんよばわりしてごめんなさいね、マナミンちゃん」
「え? あ、その……ううん、別に気にしてないよ?」
 いつになくしおらしいリナだったが、化けの皮が剥がれるのはカップ麺作るより早かった。
「そうなのよ、肉まんじゃなくてあんマンよねっ! あなたみたいなピンクちゃんのお胸に詰まってるのはっ!」
「ええーっ!?」
 その時、壮太の携帯にメールの着信があった。友人の天音からだ。
『呼雪とカラオケしてるんだけど瀬島もどう? 樹月もあとから来るし、黒楼館のカラクルって人も一緒にいるよ』
「どえええーーーっ!!?」
「ど、どうしたの?」
「く、黒崎がカラクルと一緒にいるって……。しかも、ここのカラオケルームじゃねぇか!」
「世間ってせまいね……」
「はしゃぐのちょっと待った、お二人さん」
 不意にリナリエッタが言った。
「誰か近付いてくる……。この気配……。かわいいのに強いって設定まで付けて男を狙うつるぺたロリの……!」
「!?」
「どいつもこいつも……! グギギギギギ……!」
「グギグギ唸ってる場合じゃありませんよ。皆さん、こっちに。早く隠れて」
 不意の声に愛美たちは振り返った。
 そこに居たのは万勇拳とは別の方向から黒楼館の動向を探っていた風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)
 彼に促されわたわたと別の個室に一同は隠れる。
 そのすぐあと、覇王と化したマリエル・デカトリース(まりえる・でかとりーす)が奥からあらわれた。
 傍には黒楼館五大人のひとりにして『仙灸術』の達人カソもいる。
 カラクルの個室の前に立ち止まると、誰もいない部屋に困惑の表情を浮かべた。
「……どうして優斗くんがここに?」
 息を潜め、愛美は尋ねた。
「彼らが龍脈を探していると言うのであとを追っていたら、五大人と一緒にいるマリエルさんを見つけたんです」
「龍脈?」
「何かはわかりません。まぁ直接聞いてみるのが早いでしょう」
 優斗は個室を出てマリエルに声をかけた。
 マリエルとは面識もあるし、万勇拳には所属していない一般人、黒楼館に疑われることもないはず。
「マリエルさんじゃないですか、こんなところで会うなんて奇遇ですね」
「……お前の知り合いアルか?」
「ああ、我の学友だ」
「ちょっと見ないうちに随分と覇王の風格を身に付けられましたねぇ。俺もそのぐらいの威厳がほしいところですよ」
「覇王とは天が定めし宿命。うぬの如き凡夫には到底身に付けられぬ素養よ」
「調子に乗るなアル! ワタシが『覇王孔』を突いてやっただけアル!」
「ははぁ、覇王孔……。あなたがマリエルさんをこんな立派にした先生でしたか」
「む、先生……悪くないアル。そうアル、ワタシが全部やったアル」
「一目見たときから立派な方だなと思っていたんですよ。俺にも是非そのつぼをおしえてください」
「馬鹿いっちゃいけないヨ、少年。覇王孔は素人が一朝一夕で身に付けられるものではないアル」
「それでは……」と目を光らせ「元に戻す秘孔も素人には扱えないと?」
「そっちの秘孔は誰でも簡単に押せるアル。実は『平凡孔』と言う覇王孔を打ち消す秘孔があって……」
「カソよ、くだらぬ話をしている場合ではないだろう。我らには使命があったはず」
「使命? もしかして龍脈に関係のあることですか?」
 龍脈を口に出した途端、カソの顔色が変わった。
「何故、龍脈のことを知ってるアル?」
「黒楼館さんがご贔屓にしてる赤猫娘々でバイトしてるんです。そこで龍脈のことを話しているのを聞いたもので」
「なるほど。それなら知っててもおかしくないアル」
「ええ、そうなんです」
「……なんて理由でワタシらが納得すると思ったか?」
 マリエルはおもむろに優斗の胸ぐらを掴んだ。
「バイトだろうがなんだろうが、龍脈を知った人間は生かしてはおけないアル。マリエル殺すアル」
「……ま、マリエルさん!?」
 しかしマリエルは答えず、無言で手刀を喉元に突き付けた。