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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

リアクション公開中!

燃えよマナミン!(第2回/全3回)

リアクション


【2】覇王マリエル無双拳……1


 空京のとあるネットカフェ。
 併設されたカラオケルームで、早川 呼雪(はやかわ・こゆき)黒崎 天音(くろさき・あまね)は余暇を満喫していた。
 魔法少女アニメの主題歌を完璧なフリ付きで歌うユニコルノ・ディセッテ(ゆにこるの・でぃせって)
 女性アイドルソングを歌い、楽しく場を盛り上げるヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)
 中でも意外な趣味を披露したのはブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)だ。
「U Cant Touch This♪」
 彼の選曲は、ひと昔前にスマッシュヒットを飛ばした某一発屋ラッパーのヒットソング。
 左へ右へ移動する蟹の如きノリノリダンスに、パートナーの天音も目を丸くする。
「超意外……」
「我が歌うなら、演歌だと思っただろう。だが違うのだYO!
「人は見かけによらないものだなぁ……」
 天音と呼雪が感心していると、次の曲、子ども向け番組のテーマソングが始まった。
「ぼく、カラオケ初めてなんで、ちょっと緊張します……」
 マユ・ティルエス(まゆ・てぃるえす)ははにかみながら両手でマイクをぎゅっと握った。
 とは言え、マユの歌声はパンピーのレベルを超えていた。ただのアニメソングにも思わず聞き入ってしまう。
 その見事さに「ずるい歌姫ずるい!」と天音やヘルは楽しそうに囃し立てた。
「いやー、たまに皆でカラオケってのも悪くないねー、ブルーズ」
「ああ、人生には潤いが必要だ」
 読みかけの漫画を読みながらヘルに返事を返す。
「あの、人が歌ってる時に漫画読むのはどうなのかな……。しかも今一番人気の海賊漫画、結構ミーハーなんだね」
「流行に敏感と言ってくれ」
 タピオカミルクをぐいと煽り、ブルーズは携帯でお気にのブログチェック。
「今日は更新無しか……」
「ブログ? どんなの見てるの?」
YUKIKO’sキッチンと言うお料理ブログなのだが……」
 その言葉に、ヘルは茶ぁ噴いた。
「き、汚いな……」
「ご、ごめんごめん……。実はさ」と小声で「そのブログ書いてるの僕なんだ」
「!?」
 普段、呼雪の作る手料理を写真とレシピ、更にJKのようなキャピキャピのコメント付きで紹介するブログなのだ。
「呼雪には内緒だよ」
「ああ、わかった。しかし知り合いのブログにはまるとは、少し恥ずかしいな……」
 とその時、天音の携帯がぶるぶる揺れた。友人の刀真からだ。
『今、下水道で罰ゲーム中(泣)カラオケ楽しそうだな。ちょっと遅くなるけど行く行く、待ってて』
「……罰ゲームってなんだろう。ふむ、それとハヌマーンと万勇拳の繋がり……ああ、僕が言った奴か』
 メールから顔を上げると、今度はヘルに視線を向けた。
「……そう言えば、ヘル。龍脈という言葉を聞いたことはあるかい?」
「龍脈……?」
「実は君たちが来るまで調べものしてたんだ。昔、空京の地下であれこれしていた時に、龍脈の話は聞かなかった?」
「聞いたことないなぁ。と言うかたぶんそれ、コンロンの呪術用語じゃないかな。よく知らないけど」
「コンロンか……。そうか、ありがとう」
 ちょうどその時、マユの歌が終わった。
「じゃあそろそろ、まだ一曲も歌ってない呼雪の歌も聴きたいな」
「俺? うーん、俺は最近の歌に疎くてさ。どんな曲を歌ったらいいのかちょっと……」
「なんだ、そういうことなら早く言えばいいのに。じゃあ僕が一緒に歌ってあげるよ」
 天音は不敵に微笑むと、そっと呼雪の腰を寄せた。
「ほら、もっとこっちに来ないと歌詞が見えないないじゃないか」
「あ……ああ、そうだね。ごめん」
 なんだか天音の趣味に巻き込まれている気もするが、呼雪はその思惑には気付いていないようである。
 ヘルとブルーズはグギギ……と凄まじい視線を送り、その視線を感じて天音は人知れず楽しそうにしている。
 二人が歌い始めたのと入れ替わりに、マユがトイレに立った。
 面倒見のいいユニはマユが迷子にならないようちゃんとトイレまで連れて行く。
 トイレの前でマユを待っていると、すぐ横の個室から妖しい気配をふと感じた。
「……なんでしょう?」
 そっと覗くと毛布を被った女がPCの画面を凝視していた。
 画面に無数のウィンドウ。そこに映っているのは監視カメラや店頭カメラ、まだ各テレビ局の放送の映像だった。
 彼女こそ黒楼館五大人がひとり、秘拳『機甲八卦』の達人カラクル・シーカーなのだ。
「くそ、どこの局も……なんだこのクソ女……!」
 カラクルは爪をガリガリ噛んだ。
 どうやら中華街でアイドルがゲリラライブをしているらしくどの局もその話題で持ち切りだった。
「こんな枕アイドルどーでもいーんだよ! どのカメラもコイツばっかり映しやがって! 他のところも行けよ!」
 町中のカメラをハックして万勇拳を追っていたのだが、たびたび画面に出てくるアイドルにイラついてるようだ。
「はぁこれじゃ全然集中出来ん。しばし口直しと行こう」
 画面に映るウィンドウがシャッフルされ、とある監視カメラの映像が前に出た。
 どうやらとある店内の映像のようだ。
 トイレから出てきた年端もいかない美少年と、その横で個室を覗き込む少年の姿が映った。
ヒヒヒ、ハァハァ……、短パンニーソ……。かわゆすかわゆすぅ……!
 ショタコンの彼女はカッと目を血走らせ、今にもかぶりつきそうな勢いでモニターを凝視した。
 あまりの荒ぶり方にユニはどん引きである。
「……というかあの映像、なんだかここの監視カメラの映像のような気が……」
 今日のユニはボーイッシュなファッション。
 マユもサスペンダー付きの短パンとオーバーニーソックスの出で立ち。
 画面の少年とそっくり……と言うか、己。
「はっ! だ、誰だ!!」
 引いてる気配に気が付き、カラクルは振り返った。
 手入れをしてない黒髪をざんばらと垂らし、不気味な空気をかもしだしているが、意外にも整った顔立ちだった。
 奇麗にしていればモデルでも通用しそうな風貌だ。ただ、その目は完全にイッてしまっているが。
び、美少年……! 柔肌、もち肌、たべごろ……! ヒヒヒ……!
うわぁ犯罪者の目だ……。というか、あのカメラの映像ってもしかして……)
 ユニは万勇拳を追っている黒楼館幹部の話を思い出した。
(だったらここで注意を引き付けたほうがよさそうですね……)
「あの、私達はあちらの部屋でカラオケをしているのですが、よろしければご一緒しませんか?」
「薮から棒になんだ。か、カラオケだと……? お、お前たちと一緒にか??」
「どうしました? お友達ですか?」
 小首をかしげながらマユも顔出すと、カラクルの鼻から鮮血が噴き上がった。
グフフフ、フホホホホ! かわゆす! マジかわゆす! 天使! ウヒヒヒ……ウハハハハ!!
……す、すごく怖い
「そ、そんなに言うなら仕方がないな。あまり気は進まないが、あたしも同席してやろう」
 鼻血を拭いつつ、もそもそとカラクルは這い出してきた。