リアクション
卍卍卍 「怪しい男と女をひっとらえました。他の二人は逃げられてしまいましたが……いかがいたしましょうか、殿」 秀古は、部下が見回り中に捕まえたという二人組みを見た。 女は葛葉 明(くずのは・めい)といい、もう一人の男はレギオン・ヴァルザード(れぎおん・う゛ぁるざーど)と言った。 「あなたが羽紫秀古さん? どうも〜未来人がお得な情報をお持ちしましたよ」 明は明るく言い、レギオンも重要な情報があるといった。 「俺は伝令兵だ。至急、伝えることがある」 「……異人が伝令だと?奇妙な女を連れてか? 間者ならば叩き斬るぞ」 秀古は本気にはとらなかったようだ。 仕方ないとばかりに明は未来人の証『携帯音楽プレイヤー』を披露した。 秀古たちは耳をとっさにふさぐ。 「なんだこれは!? 変な術を使いよって。ますます怪しい……おい、この女を斬れ!」 「女を斬っても何の羽紫の手柄にならないだろう。それよりも一刻を争う。本之右寺で織由上総丞信那(おだ・かずさのすけ・のぶなが)が討たれたぞ」 と、レギオンは言った。 「今、なんと?」 「信那は討たれた。昨日の朝のことだ」 レギオンの台詞に秀古は目を白黒させて笑い出した。 「この織由家臣随一の智将、羽紫秀古に向かってそんな浅知恵でたばかろうとは。いや〜随分と見くびられたものよのう。ハッハッハッ……」 秀古は軍師に向かって『斬れ』と命じた。 侍が刀をもって二人を連れ出す。 「お待ちください、殿。先ほど……都からの密使と申す者が網にかかりました。書面を持っており、そこには『信那様 本之右寺にて ご最期』とあります!」 軍師があわてて制止した。 レギオンが冷徹に言う。 「言っただろう。その密使の内容は本物だ。信那はもういない」 「右府様が……!?」 秀古はようやく本当かと理解した。 「信那様が……私が命をかけてお仕えしたお方が、この世にはもういないだと……? 私が唯一、この乱世を終わらせることができると見込んだお方が……!」 秀古は子供のように泣き出した。 「秀古ちゃん、しっかりして。この後の世がどうなるかはあなたにかかってるのよ。ぐだぐだしてる暇はないわよ」 明は秀古をしかりつけ、瑞穂城を見上げた。 「あの城をどうにかしなければね。講和するのよ。急いで扶桑の都に引き返さなきゃ」 「そうだ。瑞穂軍も動けないが、講和なくしては羽紫軍も動けないだろう。急げ!」 二人にせかされ、動揺していた秀古ははっと気を取り直した。 一度冷静になれば、頭は目まぐるしく回転する。 「そうだ。右府様の大志を受け継ぐのはこの羽紫秀古しかおるまい。講和はそちらがやれ。湖面で交渉するのだ。船を出してやろう」 「え?」 「なんだと?」 秀古はにやりと笑った。 「言い出したのはそちたちじゃ。私の知っている以上にこの事情に通じていると見た。我が軍の味方をするというのなら、見事成し遂げて見せよ。もし、裏切れば……湖面の船めがけていっせいに矢を射かけようぞ」 いわば明たちは、命と引き換えに講和交渉に臨まねばならない。 今、断ったらこの場で斬り殺されるであろうし、交渉が失敗しても口封じとして船上で殺されるだけである。 選択の余地はなかった。 「……さすが信那公が取り立てたといわれる人物……甘く見てたかしらね。いいわ、やってあげる。その代わり、講和が整ったら全力で扶桑の都に引き返すのよ」 やがて、明とレギオンは羽紫軍が見守る中、小船に乗せられた。 小船はゆっくりと瑞穂城へ向かって漕ぎ出された。 |
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