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リアクション
「ノーン、オクスペタルム号の調子はどうですの?」
「うん、いい感じだよ〜。あまったええっと、がいぶそーこー? ペタペタって貼ったからがんじょーになったよ!」
『オクスペタルム号』の甲板上で、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が尋ねればノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が戦いが迫っている事を知らないような、花開くような笑顔で答える。二人も先日のダイオーティとの会見で、力を貸す旨を話した事により今回の防衛戦への参加を決めたのであった。
(陽太と環菜が居ないのは、心細くもありますし不安でもありますわね。
けれど、わたくし達がこの世界でやるべきことを為すことで、お二人の生活が守られるのですわ)
エリシアが、今は喫緊の仕事でイルミンスールを離れている御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と御神楽 環菜(みかぐら・かんな)の事を思う。二人が安心してパラミタでの生活を送るためにも、この戦いで大きく“天秤”を傾かせるような事があってはならない。その為には何を為すべきか――エリシアは考え、ノーンに方針を伝える。
「向こうに、契約者の乗っているイコンが見えるの、分かるかしら?」
「うん、分かるよ。おっきな船だねー」
エリシアが示した先、まるで戦艦を彷彿とさせるイコンが配備されていた。
「龍族はわたくし達ほど、契約者のイコンについて詳しくありません。あの船がもしこちらへ迫り、攻撃をしてくるようなら被害は甚大。その前にわたくし達でなるべく引き付け、被害を少なくする作戦に出ます」
「分かった! えっと、直撃はさせないで、動けなくさせればいいんだよね? やってみるよ!」
無邪気に言ってのけるノーンを見、エリシアは心の奥がチクリ、と痛む。
この無邪気な微笑むが曇るようなことがあってほしくはない――エリシアは心底そう願うのであった。
(こちらにも契約者のイコン、あちらにも契約者のイコン、でありますか……。
契約者のイコンを引き付ける事が出来れば、本隊の進軍が楽になるはずであります。こちらも知ったる相手、対策が立てやすいであります)
龍族の陣営にイコンを確認した葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)が、被っていたゴーグルを頭の上にずらして艦内へ戻る。航空戦艦という区分でありつつもまるで潜水艦のような構造をした伊勢の内部を器用に潜り抜け、操縦室へと辿り着く。
「本艦はこれより、前方に確認出来るイコンの正面に位置するであります。初撃でこちらに攻撃の意思がある事を伝え、相手艦を龍族の支援が出来ない位置まで引き付けた上で拘束するであります!」
「…………、本当に、戦うつもりなの? 契約者と。いくらなんでもこれは、危険過ぎない?」
操縦桿を握るコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が吹雪に不安げな表情を向ける。過去、契約者同士が争った事自体はないわけではないが、これほど大々的にぶつかり合うとなれば、双方無傷では居られないかもしれない。
「身を切らずに信頼されようなんて甘いであります。“紫電”殿に通達を。ワレ、龍族の脅威と予測されるイコンを引き付け、攻撃を一手に引き受けんと」
「……了解。それじゃ、こっちも覚悟を決めないとね。
アイゼン、あなたも危険を感じたら独断で撤退しなさい。相手は同じイコンよ、狙うべき箇所も研究されているわ」
『あぁ、そうだろうな。やれやれ、苦労させられる……。まぁ、やるだけやってみよう』
コルセアの通信に、主に対空砲火を担当予定のアイゼン・ヴィントシュトース(あいぜん・う゛ぃんとしゅとーす)がそんな言葉を口にしつつ、了解の意思を示す。
「“紫電”より通達。……『派手に頼む』とのことよ」
「了解であります! 『伊勢』、発進であります!」
吹雪の号令で、『伊勢』は徐々に速度を上げ、『龍の眼』の向かって左手に滞空していた飛空艇、『オクスペタルム号』を照準に捉える。
「荷電粒子砲、発射準備用意!」
照準が合わさった所で、吹雪の座る席の前のコンソールから、荷電粒子砲発射のトリガーがせり上がる。
「! 前方より高エネルギー反応!」
瞬間、コルセアが警告を発する。どうやら相手も同じ装備を持っているらしかった。
「構わず発射であります!」
吹雪がトリガーを引き、『伊勢』は艦体前方より高速の荷電粒子の束を発射する。同時に前方の飛空艇からもやはり高速の荷電粒子が発射され、両者は相殺し合う。粒子の束であるため一旦ぶつかれば、残りは至る方向に飛来し、その一部が『伊勢』にも当たり船体を大きく揺さぶる。
「…………っ、被害を報告するであります!」
「いたた……えっと、機体の運用に支障はないわね。向こうの船の方が被害は大きいみたい」
頭を抑えつつ、コルセアがそれぞれの状況を報告する。殆どは相殺されたが、『伊勢』の発した粒子の束の方が太かったため、外側の部分は相殺されずに相手のイコンへ損害を与えたようだ。
と、レーダーが向こうの船から飛び立つ機体の反応を捉える。
「機動イコンを出してきたわ。こっちもイコンを出すべきね」
「了解であります。生駒殿、出られるでありますか!」
「うん、いつでも出られるよ」
吹雪の通信に、ジェファルコン特務仕様に搭乗、待機していた笠置 生駒(かさぎ・いこま)が答える。
(でも、相手が契約者か……龍族の味方をしてるとはいえ、複雑だな)
誰だから相手してもいい、誰だから相手はしたくない、ということを言いたくはなかったが、やはり生駒も契約者である以上、同じ契約者を相手にするのは気が引けた。
『ん〜、けど向こうだってそのくらい覚悟して来てんやないの? 何も取って食うわけやないんやし、手ぇ抜いたら今度はこっちが鉄族に撃たれてまうしなぁ。……ヒック』
搭乗するシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)が、酔った顔で生駒に通信を飛ばす。
「……シーニー、また飲んでるの? 気持ち悪くなっても知らないよ、というか吐かないでね、整備大変なんだから」
『だいじょうぶだいじょうぶ、ワタシが酔って吐いた事なんてある〜?』
通信越しにでも酒臭さが漂ってきそうな顔で笑うシーニーに呆れつつ、確かにどんなに酔っ払って寝ることはあってもそれだけはなかったな、と思い至る。
『うむ、出撃準備が完了したぞい。気をつけて行って来るのじゃぞ。
あぁ、あんまり損傷激しくしないでおくれ、整備するのも大変なんじゃからな』
どう見てもチンパンジーにしか見えないジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)が、出撃準備完了を生駒に報告する。
「じゃあ、行って来るね」
頷き、生駒が操縦桿を押し込み、『ジェファルコン特務仕様』が天秤世界の空へと舞い上がる。
「相手のイコンは……っと、あれはジェットドラゴンじゃないか」
視界に映ったのは、機械で出来たドラゴンに搭乗する少女であった。損害を受けた船を守るために出てきたのだろうと予測出来たが、相手がイコンなら武器を落として無力化も出来たが、準イコン規模ではどこを撃っても契約者が甚大な被害を被る。
「……それでもやらなくちゃいけないわけ? まぁ、これなら大丈夫……だと思いたいけど」
『ジェファルコン特務仕様』の数々の武装のうち、生駒は対イコン手榴弾の試作品を選択、向かってくるジェットドラゴンへ照準を合わせて発射する。飛んだ手榴弾はジェットドラゴンの近辺で炸裂、機晶石を動力としたエネルギーに干渉、ジェットドラゴンの動きを停止させる。
「うん、これでよし、と。『伊勢』へ、機体と彼女を収容してあげてほしい」
『伊勢』へ通信を飛ばすと、横からシーニーが酒瓶片手に割り込んでくる。
『生駒ちゃんは優しいねぇ』
「……ワタシは、鉄族の内部構造が気になって、こっちの味方をするって決めたから。別に相手をバッタバッタと落として喜ぶ趣味はしてない」
『ま〜それもそうね〜。ワタシはとっとと戦いが終わって酒が飲めればそれでいいわ〜』
シーニーのだらけっぷりに、生駒がはぁ、とため息をつきつつ『伊勢』の守備任務を継続する。
「おねーちゃーん!!」
エリシアの乗ったジェットドラゴンが、『伊勢』の方へ落ちていくのを見、ノーンが叫ぶ。『オクスペタルム号』は荷電粒子砲の一撃を浴びて重要部以外は損傷しており、助けに行くことも出来ない。そもそも被害を受けた『オクスペタルム号』を逃がすためにエリシアは単身、ジェットドラゴンに乗って行ってしまったのだ。ここで追ったらエリシアの思いを踏みにじる事になる。
(……おねーちゃんならきっとだいじょうぶ。向こうも契約者さんの船、おねーちゃんにヒドいことなんてしない。
まずは船の修理をいそがなくちゃ。ここでデュプリケーターに襲われたら、船を取られちゃう)
浮かぶ涙を拭い、ノーンが機能の大幅に低下したエンジンを回復させるべく、動力部へ走る。
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