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リアクション
『『龍の眼』を巡る攻防戦の行方等』
『ねーちゃん、戦況をどう見る?』
『えっとね……こっちは『オリュンポス・パレス』と『伊勢』があって、みんなの士気も高い。でも龍族は元々守りに強くて、向こうにも機動兵器の姿が確認出来る。ここは五分五分か、ちょっとわたしたちの方が有利、くらいかなぁ』
重厚な装甲を備えた機体“大河”の傍に、鋭利な姿の機体“紫電”が並び、二機の間に通信による会話が交わされる。
『そっか……。もうちっと余裕があったら、『ポイント32』に援護に向かえたンだけどな』
『うーん、今から行っても、もうポイント32は龍族に取られちゃうと思うよ。だからわたしたちも『龍の眼』を取って、まずは五分に持ち込む。そこからは機動要塞を多く持ってるわたしたちの方が有利になるはずだよ』
『……契約者をそこまでアテにしていいのか、ってオレは思うけどな。でも“灼陽”サマの方針ってンなら仕方ねぇ。
せいぜい龍族と、龍族に付いてる契約者相手に、憂さ晴らしさせてもらうぜぇ!』
“紫電”がグン、と速度を上げ、率いる『疾風族』のメンバーに通信を飛ばす。
『疾風族各員、聞いてるかぁ!? オマエらの目の前に見えンのが、龍族の拠点『龍の眼』だ。
あそこには龍族だけじゃねぇ、龍族の味方をする契約者ってンのも居る。ヤツらの力は不明な点が多い、油断だけはするな。
……それだけ注意して、後は盛大にやっちまいな! 『龍の眼』をぶん取って、祝杯あげンぞ!』
“紫電”の通信を耳にした他の鉄族が、次々と速度を上げ飛び去っていく。その意気揚々とした姿にひとまず満足を覚えた“紫電”は、視界に入った紅色の機体、アカシャ・アカシュに接近する。“紫電”も基本色は赤なので、二機が並ぶと兄弟姉妹に見えるかもしれないが、実際の関係はそんなものではなかった。
『紫電! あんまり目の前ブンブン飛ぶと、叩き落とすわよ!』
早速、グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)の苛立つような声が飛ぶ。
『やれるもンならやってみろ、“ぶーちゃん”。それとも“ぶうちゃん”にしてやろうか?
“ぶーちゃんのうるさい方”の略な。キャハハハハ!』
『……あぁ、そんなに落とされたいわけ。いいわ、それがアンタの望みなら叶えてあげなくちゃね』
『アカシャ・アカシュ』の手が、マウントしている剣に伸びる。
『しーくん、グラルダちゃんをからかっちゃめー、だよっ。グラルダちゃんもしーくんのからかいに乗っちゃめっ』
『ねーちゃん、オレは別にからかってるわけじゃねーよ、同じ隊の一員として緊張をほぐしてやろうとな――」
『アタシだって乗りたくて乗ってる訳じゃ――』
『ん? 何か言ったかな?』
声色だけは優しい“大河”の声が響き、ガシャン、と音を立てて重機関砲が顔を出す。
『『…………ありません』』
『よろしい♪ じゃあ二人とも、頑張ってきてね。
あっ、グラルダちゃん、機体の方はどうかな? 初めて触る機体だから、上手く治せてるか自信ないけど』
『……いえ、機体良好よ。よく間に合わせてくれたわ』
“紫電”との一騎討ちで両腕を切り落とされた『アカシャ・アカシュ』の修理は、“大河”が行っていた。“大河”の自信のない素振りとは裏腹に、機体は完璧に元の状態に戻っていた。
『ンじゃ、オレは龍族と遊んでくっか。おいぶうちゃん、契約者の事はよく分かってンだろ? そっちは任せたぜ』
言い残し、“紫電”が速度を上げ、龍族の居る場所へと向かう。
「……ま、確かに知ってるっちゃ知ってるけど。でも、アタシは自分から先に攻撃するつもりはないわよ。
先ずは戦局を読む。場合によっちゃ……ええ、腹括りなさいよ」
自分に向かってくるかどうか分からない相手に向けて、グラルダが不敵に微笑む。
『……グラルダ、楽しそうですね。もっと憤慨するものと思いましたが』
同じく搭乗するシィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)の、何となく残念そうな声が聞こえてくる。一騎討ちに負け、“BOOBY”などという不名誉なコードネームを与えられたのに、嬉しそうにしているグラルダが不思議でならない様子だった。
「先攻逃げ切りじゃ、面白くないじゃない。ケツからまくるほうが燃えるわ」
『……分かりませんね』
心からの言葉を吐いて、シィシャが付近の様子をサーチする。“紫電”の発言を受けてではないが、もし龍族側に契約者のイコンが配置されていれば、そちらを優先して狙うべきであろうと判断したためである。
『飛空艇が一機に、イコンが一機、配備されています』
「そう。飛空艇は輸送のためかな? イコンはこっちを狙ってくるかしら」
『分かりませんが、相手が龍族への義理立てを示そうとするなら、向かってくるのではと』
シィシャの予想を耳にして、グラルダが心に呟く。
(皆が満足するような展開は、アタシより要領がよくて、お節介な連中がやってくれるでしょ。
アタシはアタシの意思で、鉄族に肩入れする。……ここは、アタシがアタシで居られる場所なんだ)
●『龍の眼』
(鉄族の主力に加え、契約者とやらの機動要塞に機動兵器……対してこちらにも、契約者からもたらされた技術を応用した防衛システム。……ほんの僅かの間に、我々と鉄族の戦いが劇的に様変わりしているようだ。これは一体、何のための戦いなのだ?)
『龍の眼』所長、ラッセルが敵陣と自陣を見比べ、戸惑いの声を心に漏らす。『龍の眼』に元々防衛システムなどは存在していなかったが、マルクス・アウレリウス(まるくす・あうれりうす)の来訪が『龍の眼』を、強固な防御拠点に作り替えた。
「俺は主、皐月の意思を汲み、龍族へ取引を持ちかける」
そう口にしたマルクスは、機晶技術と先端テクノロジーを取り入れた防衛計画を提示、使われている技術を提供する代わりとして、皐月と七日の身体を借りたツェツィーリアへの、戦場での敵対行為を禁止する取引を提案してきた。指揮所を始めとした重要拠点は、耐光防護装甲をサンプルに同等の性能を持たせた外部装甲で覆われ、防御力を高められる。鉄族の上空からの実弾兵器による爆撃に対しては、先に実弾兵器を誤爆させる装置を設置、拠点への攻撃頻度を減らす仕組みが取られる。
「後は、そうだな……いざという時のための脱出経路か」
最後にマルクスは、地下から内地へ脱出するための避難経路の作成を提案する。話を聞いていたラッセル他、龍族の皆はこれらの仕組みを訝しみつつも、可能な限りの防衛と自分達の命の確保のため、提供を受け入れる。
(……売ったのは両方、『命を守り、生き延びる手段』か。……成程、皐月らしい商品だ。
こんな時でもお前は、人の命を奪う事を厭うんだな)
同じ頃『ポイント32』を守らんとしていた鉄族にも、かつて皐月と精霊たちが組み上げ、運用した『I2セイバー』の設計図の写しと運用記録が提供されていた。特に『I2セイバー』の自動航行機能は、鉄族が負傷した際“灼陽”もしくは拠点への帰還の可能性を大幅に高めるものとして、他の要素に優先して取り入れられようとしていた。その技術も結局は、利用した者の命を守る事に繋がる。マルクスはそういう皐月の性格を、決して嫌に思わなかった。むしろ“らしい”と、納得の思いであった。
(我々が鉄族の主力をギリギリまで引き付け、被害を出す前に撤退。その間に『執行部隊』が『ポイント32』を占領。……無論、鉄族の侵攻を跳ね返せればよいが、あちらにも契約者の存在が見える。……契約者……お前たちの意図は、何なのだ?)
ラッセルが契約者への疑念を心に渦巻かせていた所へ、扉が叩かれる。振り返り返事をすれば、涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)が丁寧な仕草でラッセルに挨拶を行う。
「先日私はダイオーティ様にお会いし、龍族への協力を約束いたしました。今回の戦いに対し私は、約束を違えぬ為参陣した次第です」
その、嘘は感じられない眼差しにラッセルは一定の信用を抱き、かつ、自分の中にわだかまっていた疑念を解消するべく、涼介に問いかける。
「契約者は何故、我々と鉄族の双方に手を貸す? 何が目的で、このような真似をする?」
「……それについては、私よりも上手く伝えることが出来る者が、理由を話してくれるでしょう。
ただ、これだけは分かっていただきたいのは、私は龍族の方々がデュプリケーターにいいようにされるのが心苦しいのです。彼らは必ず、双方が疲弊した隙を突いて襲ってきます。そうして力を得、いずれは龍族と鉄族を取り込もうとしているのです。彼らの力が最近増しているのは、あなたも実感しているのではないでしょうか」
涼介の言葉に、ラッセルはデュプリケーターに関しては確かに、と同意の思いであった。契約者自体を訝しむ気持ちはまだ残っていたが、彼のことは信頼したい、そう思うようになっていた。
「……分かった。済まない、失礼な事を聞いてしまった。
涼介・フォレスト、あなたの協力に我々は感謝する」
ラッセルが手を差し伸べ、涼介も手を差し出し、二つの手が固く結ばれる。
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