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【学校紹介】イコンシミュレーター2

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【学校紹介】イコンシミュレーター2

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【Battle・7 負けられない戦いでも負ける時は負ける】

 これで3VS3のイーブンとなった二チームの訓練。
 重要な第七試合直前、待機部屋で月夜見 望(つきよみ・のぞむ)はアリサに話しかけていた。
「俺はなるべくなら今回、データ収集に徹したいんだけどな」
「後方支援でもいいから、とにかく出て」
 アリサはにべもなくそれだけ告げ。
 望のほうも特に食い下がることはなく、間近で観察できるならそれはそれでいいかと思い直した。
 隣ではルイ・フリード(るい・ふりーど)と、
 玉風 やませ(たまかぜ・やませ)東風谷 白虎(こちや・びゃっこ)が挨拶を交わしていた。
「あなた達が私達のお相手ですね、よろしくお願いします」
「はい〜。よろしくお願いしますね〜」「手加減はしねぇからな!」
 そうして軽く握手をする三人。訓練前ながら、温かな光景であった。
「しかし。このときはまだ、互いが互いの命を狙うことになるとは、思ってもみなかったのですぅ」
「エリザベート校長、ヘンな語り入れないでください」

○イコンチーム
森上 将矢(もりがみ・まさや)マナ・メイヤ(まな・めいや)のイーグリット、
 それから、やませと白虎のコームラントに、
 望の乗るコームラントと、天御柱生徒ふたりのイーグリットが二機。

○巨大化チーム
クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)
本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)
鬼崎 朔(きざき・さく)
音井 博季(おとい・ひろき)
 そしてルイという面々。

 今回の巨大化チームの五人は、とあるコミュニティの一団である。
「雪だるま王国、雪だるま野郎Aチーム! 攻撃開始!」
 彼らは早くもイコンチーム全機と対峙しており。
 クロセルの掛け声に応じて他のメンバーも行動を起こしていく。
「それじゃあ、まずは僕からですね……いきます!」
 最初に博季がアイスプロテクトを味方全員にかけたかと思えば、
「次は私だ! 熟練魔術師の恐ろしさ、見せてやる!」
 すかさず涼介が禁じられた言葉で底上げしておいた魔力による、フルパワーでのブリザードを敵味方問わずの広範囲に使用した。
「くそっ……さすがに喰らい続けるとマズイ、一旦下がろう!」
「いくら氷耐性したとはいえ、まさか自分達もろともこんな大技を仕掛けてくるなんて。まったくどこの特攻野郎なのよ」
 対するイコン側、天御柱生徒ふたりは一時退き、望や将矢の機体も後方へとさがる。
 しかしやませ達の機体だけは、なぜか呆然とその場にとどまっていた。
「おい、やませ。どうしたんだ?」
「私は今、すごくショックをうけてるです〜」
「ど、どうした。まさか機体に何か異常が出たのか!?」
「せっかくメロンパンを持ち込んだのに、イコン側は巨大化しないなんて〜!」
「……………………退避するか」
 代わりに白虎が操縦し、さがるやませ機。
 そこからの両陣営の動きは、その場に残る者と、一度離れて身を潜める者に別れた。
 場に留まり吹雪が止まるのを見計らい、前衛として向かっていったのは将矢とマナのイーグリット。
「シミュレーションだからと言って無茶はしない、確実に撃墜していく、いいな?」
「うん! サポートは任せて!」
 声を掛け合いながら駆けて来るふたりに対するは、ルイと朔。
「さあ朔さん、全力を持ってお相手しましょうね」
「勿論だ。ロボット乗り風情が、鍛えられた私の力には到底敵わない事を思い知らせてやろう」
 接近するまでそう時間はかからず。
 将矢機がビームサーベルで斬りかかってきたのを、朔が一度かわし、ルイが遠当てを放つ。が、すぐに将矢の機体は軽く後ろに動いてそれをかわす。
 また一度距離が開く両者。互いが相手に探りを入れているのを理解しながら、
「なんだか、さっきから奇襲とか牽制とか面白くない攻撃ばっかりだね。やっぱりへっぽこイルミンずぅなんか敵じゃないもんねー!」
 マナは唐突に挑発の言葉をかけた。
 ここでそのようなセリフは、稚拙な作戦ととられ一蹴されそうなものに思われたが。
 朔はムッと悪い目つきを更に怒らせた。
「一応言っておくと、私は蒼空学園生だ。つまり今の発言はイルミンスール所属のルイに対して向けられたもの、ということだな?」
「ちょ、ちょっと朔さん?」
 明らかに挑発にのせられている雰囲気の朔に、ルイは落ち着かせようと肩を掴もうとした。
「私はな。自分を馬鹿にされた時より仲間を馬鹿にされた時のほうが、激しく怒るということを、よくおぼえておけ!」
 けれど、朔が動く方が速かった。
 朔は黒檀の砂時計を使い素早くなった上で、忘却の槍を手にライトニングランスを叩き込もうと突っ込んでいった。
「……貰った!」
 そして、やはり罠だった。
 将矢が後ろにへと大きく跳躍した、かと思えばそれと入れ代わる形で砲撃が飛来した。
 やませ達のコームラントが持つ大型ビームキャノンが放った攻撃。
 それは突進してきた朔をカウンターで迎撃した。
「朔さん!」
 ルイは思わず悲痛な叫びをあげるも、粉塵の中にいる朔の影はよろめくだけで返答がない。
「チャンスだよ! マーサ!」
 だが、まだ戦闘不能にはなっていないのを悟った将矢とマナのイーグリットは、態勢を整えられる前にとばかりにビームサーベルでとどめをさすべく煙の中へ飛び込んだ。
「言い忘れたけど」
 飛び込んだ、中で見た。
 装備していたラスターエスクードを構え、スキルのオートガードによって砲撃から辛くも身を護っていた朔の姿を。
「私は仲間を護るときのほうが、力を十二分に発揮できるから、そのつもりで」
「しまっ――!」
 今度こそ、朔のライトニングランスが将矢達の機体に叩き込まれた。
 怒って特攻してきたのは演技だったのか、それとも砲撃を防御できたことで作戦を切り替えたのか……どちらにしろ勝敗は決した。
 将矢とマナは、機体を何度も朔の槍に貫かれ続けながら、
「マーサ! ダメ! 機体がもう持たないよ!」
「ここまでか。悪い、マナ。今のは勝ちを急ぎすぎた俺のミスだ」
「そ、そんな! 違うよ。あたしがチャンスだなんて言ったから!」
「いや、俺も隙ができたと判断したから飛び込んだんだ。悪いのは俺だよ」
 最後までそんなことを言い合っていた。

 将矢の機体がやられてしまったのを確認後、やませ機はすぐに移動していた。
「私は別に負けても良いですよ〜……だってフジツボって美味しいじゃないですか?」
「あぁ、確かにフジツボは旨いよな。蟹や海老に似た感じの身も良いけど、やっぱり殻に残ったスープ……アレがたまらねぇ」
 戦闘後のことを談笑し、一見すればやる気がないようだったが。
 それでいてやませはヒロイックアサルト“ホークアイ”によって空間把握能力を向上させ、超感覚も同時に活用し、ベストな攻略ルートをきっちり探してもいた。
 負けても良いというのは偽りではないが、勝ちたくない訳でもないらしい。
 やがて。森の中に身を潜める、後衛役らしき涼介と博季の姿をとらえた。博季は騎兵のつもりなのかユニコーンに乗っている。
 クロセルの姿が無いのが気にかかったものの、やませは通信機に向け声を発する。
「ホークアイより各機へ〜。敵さんを確認しましたのでこれからデータを送ります〜」
 ちなみにホークアイは技名からとったコードネームである。
「ああ。感謝するぜ」「スネーク、了解やで」「ピクシーはこれより攻撃にうつる」
 望や天御柱生徒からの返答があり、
 天御柱のイーグリット二機が、まず背後から襲い掛かった。
「!」
 殺気看破により気配に気づいた涼介は、バーストダッシュを使い茂みに飛び込み。
 博季のほうはユニコーンの機動力を生かしながら、雷術で反撃に出た。
 しかしイーグリットも敏捷性では負けてはおらず、雷をすんでのところで横に跳んで避け。しかも着地後すぐに前へと踏み込み、一気に距離をつめてきた。
「やるなっ。でも僕は負けないっ!」
 博季はあえてユニコーンを前へ跳躍させ、すれ違いざまにレプリカ・ビックディッパーを振りぬいた。しかも寸前で涼介からのパワーブレスを追加され。
 突進の勢いも加えた斬撃は、一気にイーグリットの頭部と右肩を斬り飛ばし機能停止に追い込んだ。
 しかし勢いがつきすぎた博季は、そのまま振り落とされて地面に右肘を強くぶつけ。しかも剣が重すぎたのも影響して両肩を軽く脱臼しかけていた。
(まだだ、まだ敵は残ってる。けど、くそっ。腕が、身体がいうこときかない!)
 博季はやませ機から放たれ続ける銃撃を受けながらも、フォーティテュード、エンデュア、オートガードの三段掛け防御でギリギリしのいでいたが。
 このまま身動きができないのでは、どうしようもなかった。
「もう少し、もう少しなんとか持ちこたえろ!」
 涼介は相手と距離をとりつつ凍てつく炎での攻撃を放ち。
 どうにか博季の助けに行こうとしているものの、相手はつかず離れず、それでいて的確に邪魔に入るという厄介な位置取りをしていた。
(あくまで足止めに徹するつもりか。どうにか強行突破したいけど、最初のブリザードでかなりの力を使ったからな。目の前の敵を倒せても、そこで力尽きるだけだ)
 自分には打つ手がないことを歯噛みする涼介。
 そんな彼の後ろでやませ機は未だ援護射撃、望は独自にデータ収集を継続させている。
 だがしかし。その更に後ろから近づく人物がいた。
「仲間のピンチは、俺が救います!」
 しばし姿を見せていなかったクロセルだった。
 実のところ彼は最初のブリザードに紛れて隠形の術を使い、迂回して彼らの背後に接近し隙を伺っていたのである。
 まさに今その隙ができたことで、クロセルは禁じられた言葉で強化した氷術で作り出した雪塊を彼らに向けて放り投げた。
 やませは超感覚による勘の向上で難を逃れたが、
「うわ、おい。これじゃデータ収集ができないだろ!」
 望のほうは反応が遅れ、胴体から下をすっぽり雪の中に埋められてしまう。
「心配しなくても、雪だるまの素晴らしさについては十分理解できるでしょう!」
 クロセルはそこから今度はドラゴンアーツを併用させたブラインドナイブスで、シャベルによる殴打を派手に機体の天頂にクリーンヒットさせた。
 一気に機能停止にまで追い込もうかと考えたクロセルだが、あることに気づいて振り上げたシャベルを下ろした。

『そこまで!』

 アリサの声だった。
『両チーム、なかなかの攻防を見せて貰った。連携面では優劣をつけ難い。けれどイコンチームは二機が撃墜。対する巨大化側は、負傷者こそいるものの完全に戦闘不能になっている者はいない』
 つまり、
『第七訓練は、巨大化チームの勝利!』