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リアクション
「出来た! 出来ましたよー」
荒事にも爆発にも動じず、工房の作業場でアクセサリーの作成に勤しんでいた女性がいた。
……牛皮消 アルコリア(いけま・あるこりあ)だ。
「早速渡しにゴー!」
出来上がった途端、どぴゅーんと彼女は風のように消え去った。
「俺のはここに石を嵌め込んで!」
「私のはこのように頼みます」
宙野 たまき(そらの・たまき)と鳥野 島井(とりの・しまい)は、それぞれデザインを決めて、店員に加工を依頼することにした。
依頼したアクセサリーは偶然同じで、ブローチだ。
「採掘、結構大変だったけれど、見つかってよかったな」
「お互いにな」
たまきと鳥井は、お互いをねぎらいながら喜び合う。
偶然町で鉱石の噂を聞き、採掘から一緒に行って、ようやくここにたどり着いたばかりだった。
「なんかトラブルがあったみたいだけれど、それも終わったようだし」
「気軽に来れるようになるといいですね」
暴力的な恐竜騎士団がこの辺りを治めていると聞き、少し警戒していた2人だが、横暴な団員は既に捕まり、現在は別の風紀委員が治安維持に乗り出したところらしい。
「そうだな。喜んでくれたら、俺も似たもの、欲しくなるかもしれないし」
「こちらも同じです」
それぞれ、贈る相手のことを考えながら微笑み合う。
――数時間後に2人が依頼したブローチは出来上がる。
共に蝶をモチーフとしたブローチだった。
紅蓮の鉱石をメインとした作りとなっており、細工はさほど凝ってはいない。
目を引く赤い石は、つけた人に勇気と力を与えてくれるだろう。
「ブローチも素敵です。素敵ですけれどね……。ワタシは見た目だけではない……そう『この世で最も美しく、この世で最も恐ろしい』アクセサリーを作りますよ」
「なにそれ。怪しい図面ねぇ……」
作業台に麻木 優(あさぎ・ゆう)が広げた図面を、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が覗き込む。
「そうこの紙に書いた方程式の通りに作れば『自分はあらゆる補助魔法の恩恵を得るが、その代償として自分以外の者全てには、あらゆる状態異常がふりかかる』という、まさに悪魔じみた道具が出来ることでしょう」
「なんて、魅力的なアイテム!? 出来上がったら是非いただきたいわぁ」
紙には方程式だけではなく、錬金術や黒魔術的な図や絵も描かれている。
「にしても、これはなにかしら〜」
リナリエッタは黒い塊や、白い灰のようなものを摘まんでみる。
「ふ……っ、これは材料。そう材料なのですよ……」
そう答える優はどこか遠くを見ていた。
既に何度か薬品の調合、物質の合成を試みたのだが、発火したり、爆発したり、灰に化してしまったり、そんな状況だった。
「しかし、これらはもう不要のようですから、捨ててしまいましょう、そうしましょう!」
黒い塊を優は、ポーンと窓から投げ捨てる。
そして次の薬品を調合する。
ポン!
大きな音を立てて、爆発。
「けほっ、けけけけほっ」
優の顔が焦げかかる。
「なるほど、あらゆる異常ねぇ」
にやにや笑いながら、リナリエッタはちょっと距離をとって自分の作業に集中することにする。
「ぺ、ペアで何かもつっていいわよねぇ……」
持ってきた紅蓮の鉱石は、自分で採ってきたものだ。
つるはしは用意してなかったので、銃で豪快に壁を撃ちまくったりして。
トレジャーセンスで探し当て、小さなものは投げ捨て、大きな――2人分になりそうな石を入手してこの場へとやってきたのだ。
「ある程度形を作ってから割った方がいいかしら〜」
彼女が作ろうとしているものは、そんなに複雑なものでも、魔法的な効果があるものでもなくて。
赤くて、情熱的なその石を、工具ややすりを用いて丁寧に加工していく。
ひとつは自分用。
「ミニシルクハットにつけるモチーフ〜」
いつも頭につけている、帽子を飾るものだ。
もう一つについては、少し悩む。
「ええっと……着、着物に使う帯留めにしようかしら……」
贈る相手のことを考えて、何故かそわそわしながら。
「派手じゃなくて、上品な感じで」
工具で作っていく形は、ハート。
綺麗に作れたところで、二つに割っていく。
そして片方は、ミニシルクハット用。
もう片方は、帯留めに仕上げていく。
「んふふっ、マナカもハート作ってるんだよっ」
向かいの席では、春夏秋冬 真菜華(ひととせ・まなか)がアクセサリーを作っている。
自分で採ってきた紅蓮の鉱石を、リナリエッタとは少し違うけれど、同じようにハートの形に加工していっている。
「喜んでくれるといいねっ」
真菜華はにっこりリナリエッタに微笑みかける。
「そうねぇ〜」
リナリエッタも笑みを浮かべてそう答えた。
「石の形は大体できてきたかな。んー、チェーンの部分も全部自分で作りたいなー」
真菜華は辺りを見回して、店員をみつけると突撃していく。
「ねー、おにーさん、教えてー」
ぴょんぴょん跳ね回るように尋ねる彼女に、「元気だねー」と笑いつつ、店員は金属の加工場に彼女を案内する。
「難しそうだけど頑張る。今日中に仕上がらなくてもいいんだ。いいものを作りたいの〜。長く使えるものをねっ」
細かい作業を苦ともせず、真菜華は店員の指示のもと熱心に作っていく。
彼女が作っているのは、ペンダント。
紅いハートのペンダントだ。
そのハートが贈られる先は――誰も、知らない。
ヨルの提案により、鉱石発掘に携わった者達はいくつかのグループに分かれて、工房を訪れていた。
幸い、たちの悪いパラ実生や恐竜騎士団員に合うものはおらず、次々に分校生、契約者達は到着を果たしていく。
「……ふ……っ」
「……ん? 何かおかしいことでもあった?」
突然淡い笑み意を浮かべたイルマ・レスト(いるま・れすと)に、朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)が問いかける。
「いえ、あの子がとても可愛らしかったものですから」
「ああ、真菜華さんか。百合園の転校生の」
「ええ……」
そう答えたイルマだけれど、本当は違う。
出かけ前の千歳とのやり取りを思い出して、つい笑みを浮かべてしまったのだ。
イルマは百合園で個人面談を受けてから、少し気持ちが沈んでしまっていた。
そんな彼女を気遣って、千歳は誘い出してくれたのだけれど。
その誘い文句である『一度、鉱石掘ってみたかったのよ、付き合ってくれる?』という言葉に、リアクションに迷ってしまって。
その時はどう返せばいいのかわからなかった。
千歳はこれまで男性的な口調だったのに。突然の女性口調。
鉱石掘ってみたかったという……百合園の女性らしくない誘い。
しかも、イルマは暗所恐怖症だというのに。
つっこみを入れるべきだったのか、流すべきだったのか、今でもよく分からない。
だけれど、彼女が自分のことを心配してくれていて、励まそうとしてくれていたことは分かるから。
嬉しくて、なんだかそんなパートナーが可愛くて、思わず笑みがこぼれた。
結局鉱石は千歳一人で発掘してきて。今は一緒にアクセサリーを作っている。
「イルマは何を作っているんの?」
「そうね、ブローチにしましょう」
「お、私と一緒だ」
何を作るのか話し合っていたわけではない。
置かれていたサンプルの中から、同じものを2人は選んでいた。
「上手くできるといいな」
「ええ、似合うように作りますわ」
軽く微笑み合っただけで今は言わない。
互いに、相手にプレゼントするものを作っているのだということを。
千歳は、イルマに日頃の感謝を込めて贈ろうと思っていた。
イルマは、気を使ってくれたお礼として。
(持つ者に勇気と力を与えてくれる紅蓮の鉱石――千歳にはぴったりだと思いますわ)
真剣にブローチを作成する彼女にまたこっそり笑みを向けて。
それからはイルマも真剣に、集中して、紅蓮のブローチを作り上げた。
「また失ぱ……いや不要素材です!」
ポーンと、優は外に黒い塊を投げる。
「痛っ。誰だゴミを外に捨てたのは!」
声が響き、窓から女性が覗き込む。
「ああ、すみません。石が紛れ込んでいましたので……。はあ……」
優は深くため息をつく。
既に材料は尽きており、新たなアクセサリーを作り出すことは出来なくなっていた。
でも本当は、目指していたほどのものは出来なかったけれど、その過程で素晴らしいものをいくつも作り出していた。
それに気付かずに、優はゴミとして捨てまくってしまった。
……だから天才なのに『万年助教授』と呼ばれるのだ。
入口に回り、先ほどの女性が入ってくる。
メイド服姿の女性だ……メイドなのに、結構可愛いのに、異様に貫禄がある。なぜかお嬢様らしい女性の方が後から入ってくる。
「くそっ、形が整わない」
「あー、今日中に仕上げなきゃなんねーのに」
若葉分校生達が集まる席に近い席に近づいて……少し、優しい目をして。
それから、彼らに背を向けてその女性は腰かけようとする。
「そういえば、番長が従恐竜騎士と恐竜を舎弟にしたらしぞ。総長への誕生日プレゼントにするんだって」
ゴン
座ろうとしていた女性が、椅子から落ちそうになり額をテーブルに打ち付けた――。
○ ○ ○
「やほやほー、ミルミちゃーん。ミルミ分が不足してきたので補給しに来たよー」
分校でお留守番していた
ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん)に、
アルコリアはダイビング。
「むぎゅー。むぎゅむぎゅーっ」
そして、ぎゅっと、ぎゅううっと抱きしめる。
「どーしたの、アルちゃん。どーしたの? ……というか、いつも通りだね!」
「うん、いつも通りだよー。むぎゅーっ」
説明しよう。
ミルミ分とは、ミルミ・ルリマーレンにしか含まれていない、なんというかソレである。
むぎゅー接触やぽっぺうにむに等によってチャージすることが可能な、なんというか、パラミタ線とかタキオン粒子とか、なんかそういう感じのモノ。
……。
とにかく、そういうものらしい。アルコリアにとって。
不足するとアンニュイ……らしい。
プレゼントを渡すのも忘れて、もう夢中でアルコリアはミルミをむぎゅして、すりすりして。
大事なものを補給していく。
「アルちゃん……お疲れさま、ミルミ、ちょっとは癒しになってる、かな」
くすぐったさに微笑みながら。必要とされる喜びを感じながら。
ミルミはアルコリアの頭に手を伸ばして、撫でていた。
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