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紅蓮のコウセキ

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 契約者達が出発してすぐ、ブラヌと一部の分校生達は廃坑のへと出発をした。
 ゼスタはブラヌとも同行せずに、分校に残っていた。
 そんな彼を――。
「パラ実風紀委員、東園寺雄軒です」
「同じく、ジャジラッド・ボゴル」
 東園寺 雄軒(とうえんじ・ゆうけん)ジャジラッド・ボゴル(じゃじらっど・ぼごる)という、2人のパラ実生。しかも風紀委員の資格を持つ者が訪ねてきた。
 ゼスタは一応パラ実の講師。本校にも顔を出している。
 だから2人は彼が若葉分校で講師をしていることも、東シャンバラのロイヤルガードであることも普通に知っている。
「体験入学者か? 適当に外を案内してやるか」
 名前を名乗っただけで、その先は何も語らない2人の目的を察し、ゼスタは2人と共に外へと出た。
 無論、体験入学が目的ではない。

「カチコミを検討されていますね?」
 雄軒はそう切り出した。
 彼の傍には、パートナーのバルト・ロドリクス(ばると・ろどりくす)ミスティーア・シャルレント(みすてぃーあ・しゃるれんと)ドゥムカ・ウェムカ(どぅむか・うぇむか)の姿がある。
 ゼスタは怯んだりはしなかったが、眉を軽く顰める。
「……周囲に生き物の気配はない。続けて大丈夫だろう」
 警戒に努めているバルトが雄軒にそう報告をする。
 注意すべきは目の前にいるこの男、ゼスタだけのようだ。
 ただ、決裂時にはゼスタが分校生に指示を出し、この場で戦闘になる可能性もあるだろうと、バルトは考える。
(うー……無理して雄軒様についてきたけど、なんかすごいガチな雰囲気)
 ミスティーアは後方で戸惑い気味だった。
 こちらに害意を向けられていないのは分かるけれど、分校からはなんだかぴりぴりとした空気を感じるし、ゼスタも探るような目で雄軒を見ているような気がする。
(戦いになるのかなー? とりあえずわたくしは、自分の身を守らないと。足手まといになりたくないわ! だ、大丈夫よ。カリスマはうろたえない! 何があってもうろたえないわ!)
 そんなことを考えているミスティーアは十分うろたえていた。
「気楽にいこうぜ。気楽によ」
 ぺんっと、ドゥムカがミスティーアの肩を叩く。
 そう言いながらも、ドゥムカもバルト同様警戒を忘れない。
 飛び掛かってくる者がいたら、捕虜にするつもりだった。
「……この分校は便宜上、パラ実の勢力下ですが、こちらに楯突かない限り、総長・生徒会長・番長体制による自治を黙認しても構いません。工房の出入りも認めましょう」
 雄軒はそう提案を持ちかける。
「こちらというのが、お前を指しているんなら、その取引分校の奴らに飲ませるぜ。仲良くしてやってくれや」
 ゼスタは息をついたあと、にやりと笑みを浮かべた。
「私と、工房にいるもう一人の風紀委員や、その上司にあたる存在に、ですね。下っ端従恐竜騎士については、関与しませんが、やり過ぎれば上から睨まれますよ」
「了解。そもそも若葉分校として殴り込んだりするバカはいないさ」
 実際、馬鹿は沢山いるのだが、バカじゃない契約者が一緒なので、大丈夫なはずだ。
 且つ、分校側にも風紀委員はいる。風紀委員同士のもめ事としようとしていることは、彼ら雄軒、ジャジラッド達の耳に入っていないはずだ。
「オレはもっとつっこんだ提案をさせてもらうぜ」
 ジャジラッドは分校――木造の喫茶店、そしてその後方の建物を眺めまわした後、語りだす。
「こっちとしては、これを機に一気に不穏分子を殲滅しておきたいところだ」
 とはいえ、手勢はそう多くはなく、この分校には実力者、有名人の契約者が多く集まっているため、迂闊に手を出せなくもある。
「だが、こちらとしても余計なことに戦力を割きたくはない」
 そこで、ジャジラッドは恐竜騎士団と若葉分校、双方にメリットの案として、以下の案を提案する。
 恐竜騎士団は現在、ヴァイシャリー湖に生息する恐竜の調査に力を注いでいる。
 そのヴァイシャリー湖に生息する恐竜の調査をするには、百合園に顔が効く者が適任ではないかと考えている。
「それをおまえが手伝ってくれるのなら、分校には今後一切、手を出さないことをバージェスに掛け合ってみよう」
「分校生に調査を手伝えってんじゃなくて、オレが百合園……というか、ヴァイシャリー家や東の政府と交渉するってことだよな。別に話を持っていくのはいいんだが」
 風紀委員……つまり、一恐竜騎士団員の提案ではヴァイシャーのトップに正式に持ちかけることはできない、と続ける。
「バージェスサマからの提案とまでは言わないが、パラ実のそれなりの立場の奴の承認が取れてからじゃないと、交渉はできないなー」
「それと」
 ジャジラッドのパートナーサルガタナス・ドルドフェリオン(さるがたなす・どるどふぇりおん)が、話を引き継ぐ。
「恐竜は大量の食糧を消費しますから、農場を有する若葉分校と双方にとって有益な取引が出来ると思いますわ」
 パラミタトウモロコシなどの育成に力を注ぎ、農産物を作ってくれれば、恐竜騎士団が買い取る旨の提案をする。
 サルガタナスは現在の調子で化石から恐竜が次々に復活させていったのなら、いずれは食糧問題に直面する可能性が高いのではないかと考えていた。
 そのため、この分校に巨大農場を管理させ、一大農場にすればそういった食糧問題もいくらかは軽減されるのではないかと。
「なるほど……」
 ゼスタは顎に手を当てて、考え込みだす。
「食糧問題を解決しなければ、水資源の豊富なヴァイシャリーにいずれ攻め込む事態になるかもしれん。それを防ぐためにも、協力した方が百合園の為になるのではないか?」
 ゲシュタール・ドワルスキー(げしゅたーる・どわるすきー)がそう言葉を続けた。
「水資源……確かに、水はあるがヴァイシャリー事態の食糧の多くは他に頼っているようなものだからなぁ」
 そして、百合園がどーなろーと、ゼスタ本人的にはあまり関係がないとゼスタは言う。
 つまりそれらの案は、俺に対してのメリットが無い! と。
「それはともかくとして、案自体は良く考えられていてかなり興味深い。お前らがバージェスサマの側仕えっていうんなら、正式に分校代表を立てて交渉させたいところだ。特に農作物の取引についてはいい話だよなぁ」
 いつかそんな風に、恐竜騎士団やキマクと取引ができたらいいのかも、しれない。
 そうゼスタは続けたが、今回は取引を成立させることは不可能なようだった。

「話、聞かせていただきましたわ」
「面白そうな案でしたわね」
 ゼスタが喫茶店に戻る前に、キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)金死蝶 死海(きんしちょう・しかい)が彼に近づいてきた。
「だなー。農家にとっても悪くない話なら、交渉を行うのも良いかと思うんだけど……なんか、正式な分校になっちまって、管理なんかされたら窮屈になるからなぁ」
「教師のセリフとは思えませんわ。……わたくしからも一つ、提案がありますの」
 くすりと笑った後、キュベリエは提案をしていく。
 今回、恐竜騎士団に勝利したとしても、根本的な問題は何も解決しない。
 場合によっては、若葉分校は優子を含めた百合園のアキレス腱にもなりえる存在に発展する可能性もあるので……。
「思い切って、分校ごとパラ実……つまり、エリュシオンに下るのも選択の一つだと思いますわ」
 暴力に対抗して更なる暴力で抑えていても、いずれはそれも限界が来るだろう。
 一番全てが丸く収まる方法として……。
「S級四天王であり、神楽崎優子さんを慕っていると噂の、国頭武尊さんを、分校長に抜擢してはいかがかしら? 優子さんはよくご存じないようですけれど、彼が恐竜騎士団と繋がりがあることはパラ実では有名な話のようですし」
 彼の性格なら優子に悪いようなことはしないだろうと、予想しての提案だった。
「国頭は……面白い奴だが、吉永とは随分タイプが違うからな。ほとんどしゃべったこともねぇし」
「ヴァイシャリーにとって、分校を試金石として、相手の出方を窺うには絶好の機会ですわ」
 死海が魅惑的な笑みを見せる。
 バージェスと百合園上層部が会談をす機会が今後出てくるような局面においては、比較的中間地帯にあるこの分校の存在価値は高まるのではないかと、死海は考える。
「百合園は外交という武器を持って、パラ実と対峙していくことになるのではないでしょうか。その為に、双方を繋げる立場にある人に分校長になっていただけたら、良いかもしれませんわね」
 死海の言葉にゼスタは頷く、が。
「生徒会長でもいいような気がするな。風紀委員にやってもらって、正式にパラ実の分校となり、エリュシオンに属し、双方を繋ぐ役割を担う……。確かに百合園や、ヴァイシャリー、東シャンバラ的にはそれがいいんだろうが、気ままに集まれる場所だからこそ、ここは賑わってるんだよなー」
 若葉分校は戦略的に必要と考えられていたことがあった。
 諸問題が解決して、様々な学校の、さまざまな立場なものが、集いあって、バカ騒ぎをしたり、ふざけ合ったり、自由に楽しく過ごせる場所になっている。
 恐竜騎士団に大荒野が支配されるようになってから、窮屈な思いをしているのも確かで……。
「政治的に利用されるのは、分校生が嫌だろうな。あと、国頭は油断のならないヤツだと思うぜ。神楽崎のことは、好いているように見えるんだが……。なんか、危険な感じがするんだよな」
「そうですか。一応今回の事は、ラズィーヤ・ヴァイシャリーさんに報告しておきますわね?」
「ああ、それは構わない。頼んだ」
 死海の言葉にそう答えて、彼女達と一緒にゼスタは喫茶店の中へと戻っていった。