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リアクション
3
「なにやらこの光景、以前遊んだゲームを思い出すであります……」
地上での避難誘導を助けるため、屋根の上に上がり、フライシェイドの迎撃をしていた大熊 丈二(おおぐま・じょうじ)は、誰にともなくつぶやいた。
「……すると、最後には女王蟻ならぬ、女王シェイドがお出まし、でありますか?」
「合体して、キングシェイドとかになったりするかしら」
自分でした連想に嫌な顔をしている丈二の隣で、妙に真剣な顔をしてぼそりとそんなことを言うのは、丈二のパートナーであるヒルダ・ノーライフ(ひるだ・のーらいふ)だ。
「それは違うゲームであります。自分の遊んだ方のゲームだと、最後には巨大なモンスターが登場してですね……」
「やめろよ、想像しちまうだろ……」
丈二が説明している最中で、げんなりと言ったのは、同じく屋根に上がって迎撃をしていた黒野 奨護(くろの・しょうご)だ。言い出した丈二と共に、うっかり町を覆いつくすような巨大フライシェイドを想像してしまい、二人そろってげんなりと顔を顰めて首を振った。
「止めよう、ろくなこと想像しねえ」
「そうでありますね」
言って、魔鎧を纏った奨護は、雅刀を構え直すと、今まさに地上へ降りようとしているフライシェイド達を一振りで払う。それに倣うように、丈二もスプレーショットで銃弾をばらまいてフライシェイドを一掃していく。だが、数が数だ。今のところは目視でだいたい百か二百か、という程度には数を数えられる程度だが、倒しても倒しても、まだまだ上空にはそれを上回る数が残っているのである。特に、剣士である奨護にとっては手数が足りない。
「キリが無いな」
思わず呟く奨護に「提案があります」と、弾倉を装填し直しながら丈二が口を開いた。
「通信で入ってきたのですが、フライシェイドは熱を感知している様子。で、あれば逆に強い熱であれば近寄らせないこともできるやも」
「成る程な、試してみる価値はありそうだぜ」
その意見に、奨護は素直に頷いて、構えを変える。
「行くぜ、爆炎波ッ!」
振り払われた剣から、爆炎が放たれる。爆発音に似た濃い炎の音を上げながら噴出された炎は、軌道上にいたフライシェイドを焼き尽くすと、更にその周辺のフライシェイド達を散らした。
「うしッ、有効みたいだぜ」
炎によって空気も熱っされたためか、僅かにフライシェイドの降下が鈍る。今度はそこを、ソニックブレイドで薙ぎ払い、一気に数を屠った。
「こっちは任せてくれ。手数はあんたの方が上だし、同じところに固まっていても意味が無いしな」
その言葉に頷き、丈二はバーストダッシュで屋根を飛び移っていく。ヒルダもそれに続き、着地のタイミングにあわせて器用に丈二に予備の弾倉を手渡した。
「負けていられないでありますね」
その合間に独り言のように言った常時に、ヒルダがにこりと笑う。
「ヒルダが盾になるわ。丈二は思う存分、やっちゃっいなさい」
力強い言葉に丈二も頷き、奨護からやや離れた地点――丁度、エースたちの避難経路の上に当たる屋根まで辿り着くと同時に、引き金を引いた。連続した銃声が響き渡り、スプレーショットによってばら撒かれた弾丸が、フライシェイドの群れを食いちぎっていく。
「次っ」
その銃身の熱も冷めやらぬ間に、続けざま弾幕援護を張る。本来は味方の援護のために弾をばら撒く行為だが、一匹一匹はかなり弱い部類のフライシェイド達である。その上狙う必要も無い大量さである彼らには、これも有効に働いた。
その弾幕の隙間をぬって丈二を狙って来るフライシェイドは、ヒルダが高周波ブレードで撃退する。
「この調子なら、暫くは地上に通さないですみそうでありますね」
だが、上空を警戒する丈二に、予想外の方向から危機は襲い掛かってきた。
「とお、りゃあ!」
「ちょ、あ、危っ」
飛び込んできた影を間一髪のところで回避し、丈二は息をついた。
まさかの横から突っ込んできたのは綿貫 聡美(わたぬき・さとみ)だ。
「ま、何をするでありますかっ」
予想外すぎて声のひっくり返った丈二に、聡美はあっけらかんと笑って頭をかいた。
「ケッヒッヒ、悪い悪い、虫だけ狙ろたつもりやったんやけど」
その上、悪びれもせず言うので、丈二がそれに対して言及しようとしたが、そんな間にも。
「ていっ!」
「わわっ」
丈二のすぐ脇を飛んでいたフライシェイドに拳が飛ぶ。文句を言う暇さえ与えず、すぐに飛び離れて別のフライシェイドに、今度は蹴りを放った。次々とフライシェイドを格闘技で倒していく様子は嬉々としていて、戦っている、というより遊んでいるかのようにすら見える。
「景観は守れて言われとるけど、それ以外は別に何にも言われてへんからなあ」
そう呟く口元には笑みすらある。
「要は全部叩き落しゃあええんやろ!」
寧ろそうしたい、と言わんばかりに、群がるフライシェイドへと次々飛び掛って蹴散らしていく。数をものともしない攻撃は、屋根から下に下りようとしているフライシェイドを確かに防いではいるが、防衛、というよりただ手近にいる敵を手当たり次第と言った方が正しいようだ。その証拠に。
「だあっ! ちょ、自分はフライシェイドじゃないであります!」
時折何を間違ったのか、フライシェイドごと丈二の方まで潰すつもりかという攻撃が飛んでくる。だが、聡美の方はといえば、それは全く問題がないようで、悪いと思っている風もない。
「虫の群れとるとこでちょろちょろしとるからや、巻き込まれんように逃げたほうがええで!」
それどころか、躊躇無く巻き込むつもり満々の様子に、丈二は更に抗議しようとしたが、その屋根の下、避難する人々の護衛をしていたニキータが「ちょっとお」と不機嫌も露に声を投げてきた。
「屋根の二人! 遊んでるんじゃないわよ」
二キータの怒声がびりびりと空気を震わせたが、身を竦めた丈二と違って、聡美はけろっとしたものだ。そのまままた、何事もなかったかのようにフライシェイドを追いかけていってしまった。
怒鳴られ損だったのは丈二だ。
「理不尽であります……」
呟きは、誰にも聞かれることはなかった。
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