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第二章 奇襲


 グランツ教の面々も祭会場を回っていた。
 テンプルナイツ・アキラが、信者達を連れて歩いていると、屋台通りの人々は道を開けた。
 ある者は不安な顔で、ある者は尊敬の眼差しを向けて。
 アキラは道を開ける人達一人ひとりに対して「恐れ入ります」と丁寧に頭を下げた。信者達もそれに習う。
 ハイコド・ジーバルス(はいこど・じーばるす)はアキラ一行の後をつけ回していた。
 グランツ教を信用したくないが、一度だけ試すつもりで様子を見ていた。
 先程からアキラ達は祭会場を歩き回っているだけだ。
 ハイコドが、やはりグランツ教は関係ないのでは、と思った時、破裂音が響いた。
 数十メートル離れた所から煙が上がり、人々の慌ただしい様子が見えた。
 グランツ教徒達が駆けつけ、救出の手伝いを始めた。
 ハイコドはアキラに言う。
「どういうつもりだよ」
「わたくしに仰ってるのですか? ご覧の通りですが……」
 礼儀正しいテンプルナイツも状況が状況なだけに素っ気なかった。
 グランツ教の思惑について思考を巡らせているとハイコドにアキラが言う。
「よろしければお手伝い願えませんか? これは間違いなく事故ではありません。犯人が近くにいるはずです」
「悪いが俺、今得意なクラス(拳聖)じゃないんだ。サポートはするから戦闘よろしく」
「それはできません。わたくし共は人命救助が最優先です」
「仕方ねぇか」
「不審者があちらの方角へ逃げたという目撃情報があります。急いでください……!」
 走り去るハイコドの後姿をアキラは無表情で見ていた。
 瞬く間にテロリストに肉薄したハイコドは、相手に飛び掛かり人目につかない所へ連れて行った。
「せめてもーちょい静かな場所でテロすべきだったなぁ、おい」
 ジェットナックル『義手『黒彗星』』の一撃で、ほとんど身動きが取れない状態のテロリストはなんとか立ち上がろうとした。
 ハイコドはすかさず鬼眼で睨みつけながら相手を殴り続けた。十発程殴った所で手を止めると、テロリストは気を失っていた。
 救出、消火作業を手伝っているグランツ教徒達を少し離れた所から姿を消して監視していたイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)が、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)に報告した。先程の爆発による負傷者の一人に、テロリストが一名含まれていた。
 イングラハムの報告を聞いた吹雪は、テロリストとグランツ教が接触した所を抑えようと構えていたスナイパーライフルを収めて、満足気に口元を歪める。
「このお祭りにはテロリストは自分一人でいいのであります」
 吹雪は嬉しさで目を細め、空を見た。

「……困っていることがございましたら、いつでもお越し下さい。グランツ教は貴方様の味方でございます」
 ハイコドと別れ、単独で救助活動をしていたアキラの所へシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)がやって来た。
「何か手伝うことはあるか?」
 問い掛けに対し、アキラは振り返りシリウスの顔を見上げて答える。
「ありがとうございます。こちらは一段落つきました。わたくしは祭の見回りを再開しようと思います」
「でしたら、わたくし達もご一緒させて頂きますわ」
 シリウスの隣にいるリーブラが言った。
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)はシリウス達から少し離れた所で護衛をしていた。
 今回の事件に関し、グランツ教を疑っている人も多く、アキラが襲われた時に備えての配慮だ。
 自己紹介を終え、シリウス達が移動を開始した。
 アキラが歩き、その後をシリウスとリーブラがついて行く形で会場を回っていた。
 他の信者達は会場中に散っているらしい。布教活動の一環なのだという。
 歩きながらリーブラがシリウスに耳打ちする。
「どうですかシリウス」
「底の部分は隠しているにしても、被害にあった人達を助けたい、というのは本心だ。こいつは間違いないぜ」
「やはり皆様、グランツ教の方々を疑いすぎなのでは――」
「どうかなさいましたか?」
 二人の様子に気付いたアキラが立ち止まって振り返った。
「いや、ちょっと気になることがあったんだが、大丈夫だ」
 アキラが再び歩き出した。数歩歩いた所で、また急に振り返った。
「たった今連絡が入り、火災が発生したとのことです。あちらを御覧下さい」
 アキラが示したのは横方向ではなく斜め上の空だ。煙が上がっている。
 これだけの人ごみと屋台、テント群の中では視界が悪く、周りの人は気づいていない。
 言われなければ気付かない状況なので、騒ぎが広がっていないのだ。
「参りましょう!」
 シリウス達はアキラに続いた。サビクも慌てて後を追った。

 アキラ達が向かっている現場に放火した辿楼院 刹那(てんろういん・せつな)は、反対方向へ移動していた。
 狐の面を被り、小さな体で人ごみを駆け抜ける姿は、まさに狐のようだ。
「既に捕まっている奴らもおるようじゃな。情けない……テロリストが聞いて呆れるわ」
 立ち止まって嘆く刹那に女王・蜂(くいーん・びー)が言う。
「主様、如何なさいますか」
「こうなったら少しでも彼奴らが動きやすくなるように立ち回るしかなかろう。わらわは放火を続ける。女王は他の者の護衛に回れ」
「かしこまりました。では――」
 蜂は高速で飛び去った。刹那も次の行動へ移る為、移動を開始した。
 会場の外ではイブ・シンフォニール(いぶ・しんふぉにーる)が無表情で祭を見ていた。障害物が多く、中の様子は分からない。
 隣には、先程まで会場を回っていたファンドラ・ヴァンデス(ふぁんどら・う゛ぁんです)がいる。
「どうやら刹那さんが動き始めたようですね。イブさん、こちらも始めましょう」
 煙が上がるのを見て、ファンドラが言った。煙の上がる位置から、刹那だと判断した。
「了解デス、ファンドラ様。発射シマス」
 イブは六連ミサイルポッドと機晶ロケットランチャーを斜め上に構え、発射した。
 緩やかな放物線を描いてミサイル群が会場に吸い込まれていった。
 しかし、着弾する直前に撃ち落とされ、一発が着弾した。
「迎撃サレマシタ。命中数、1デス」
「あちらもなかなかやりますね。あれでは大した被害は出ないでしょうが、まあいいでしょう――さ、我々も撤退しますよ」
「刹那様達ハ?」
「あの人達なら大丈夫ですよ。さあ、私達は先に合流地点まで下がりましょう」
 イブ達はその場を後にした。
 状況は急速に動いていた。